北朝鮮の弾道ミサイル打ち上げについて
3月6日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルについてまとめます。
防衛省が6日に出した発表は二つありますが、より詳しいのは二番目の発表でした。
- 北朝鮮は、本日7時34分頃、北朝鮮西岸の東倉里(トンチャンリ)付近から、4発の弾道ミサイルを東方向にほぼ同時に発射した模様です。発射された弾道ミサイルは、それぞれ約1,000km飛翔し、秋田県男鹿半島から西に約300~350kmの日本海上に、そして、そのうち3発は我が国の排他的経済水域(EEZ)内に落下したものと推定されます。詳細については現在分析中ですが、我が国及び地域の安全保障に対する明らかな挑発行為であり、断じて容認できません。
- これを受け、防衛大臣は「引き続き、情報収集・警戒監視に万全を期せ」との指示を出しました。その後、防衛大臣の下、関係幹部会議を開催するなど、対応に万全を期しているところです。
- 防衛省・自衛隊としては、引き続き、大臣指示に基づき情報の収集・分析及び警戒監視に全力をあげるとともに、今後追加して公表すべき情報を入手した場合には、速やかに発表することとします。
聯合ニュースが報じた韓国軍の発表は次のとおりです。
韓国軍合同参謀本部のノ・ジェチョン広報室長は6日の国防部定例会見で、北朝鮮が同日午前に発射した4発のミサイルの飛行距離は約1000キロ、最高高度は約260キロとし、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の可能性は低いと発表した。また、北朝鮮が発射した4発中3発は日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと明らかにした。
ノ室長は「午前7時36分ごろ、平安北道・東倉里で東海上に向け弾道ミサイル4発を発射する挑発を強行した」として、「追加情報については、韓米軍当局が詳しく分析している」と述べた。
その上で、「東倉里から75~93度の東海方向に発射した」として、「4発は平均で約1000キロを飛行した」と説明した。
ミサイルがICBMの可能性があるかどうかについては、「可能性は低いとみられるが、さらに詳しい分析が必要だ」と述べた。
ミサイルを同時発射した可能性に関しては、「(発射時間に)少しの差があると分析している」と説明した。
ミサイル発射は今月1日に始まった韓米合同の野外機動訓練「フォールイーグル」への反発とみられる。
NBC Newsはミサイルは実際には5発だったと報じています。
国防当局者2人によれば、日曜日の夜と月曜日の朝に発射した中距離ミサイルの一斉射撃は実際には5基のミサイルが含まれましたが、ミサイルの1基は打ち上げに失敗しました。
4基のミサイルは海面に落ちる前に日本の方へ向けて東へ600マイル以上飛びました。
国防総省報道官、ジェフ・デイビス大佐(Capt. Jeff Davis)は月曜日の非公式会見で尋ねられて、アメリカは複数の発射を追跡し、ミサイル4基が海に落ちたと言うだけでした。
デイビス大佐は夜間の打ち上げを「挑発的な振る舞いの北朝鮮の長い歴史と一致している」と述べました。
防衛省の見解は9日になると、次のように変わります。毎日新聞の記事を見てみましょう。
北朝鮮が6日に発射した弾道ミサイル4発のうち、1発が石川県・能登半島の北北西約200キロの日本海に落下したと政府が推定していることが分かった。これまでで最も日本本土に近い海域への落下だった可能性がある。残り3発は北の方角に80キロ程度の間隔をおいて落下したといい、政府は北朝鮮のミサイル技術が大きく向上したとみて分析を急いでいる。
稲田朋美防衛相は9日の衆院安全保障委員会で「能登半島から北に200~450キロの日本海に落下した」と述べた。昨年9月に北海道・奥尻島沖約200~250キロの日本海にミサイルが落下しており、稲田氏は本土に最接近したかについては「分析中だ」と述べるにとどめた。民進党の後藤祐一氏への答弁。
菅義偉官房長官は9日の記者会見でミサイルについて「スカッドERと推定される」と述べた。
6日のミサイル発射の際、政府は4発はいずれも約1000キロ飛び、秋田県・男鹿半島の西約300~350キロの日本海に落下したと発表。3発は排他的経済水域(EEZ)内で、残る1発もEEZの近くに落下したとした。
以上の情報から考えると、打ち上げたのは5基で、1基が打ち上げ直後に墜落したのだと思われます。
まず、情報源が米軍高官であり、信憑性があります。米軍は早期警戒衛星を持っていますから、衛星が5基のミサイルが発射され、1基がすぐに消えたのを探知したのでしょう。
北朝鮮が発表した映像を見ると、打ち上げの場面に次いで、かなりの高度に上がったミサイルの映像につないであり、その間の映像がないことが分かります。その存在しない映像にミサイルの墜落が写っていたはずです。また、4基に見せるために1番端のミサイルはトリミングして削除したのでしょう。打ち上げの場面に次ぐ映像では4基のミサイルの間隔が等間隔ではなく、真ん中が空いています。そこが墜落したミサイルのためのスペースだったのでしょう。疑わしいのは打ち上げが一瞬遅れて、1番後を追いかけるように上昇したミサイルです。それに何らかの不具合があったのかも知れません。
韓国軍と自衛隊はそこまでの探知装備は持っていないので、自前での装備で探知した結果を発表したのでしょう。
打ち上げた場所がどこかについては、国内報道では削除されている金正恩が写っている写真に手がかりがあります。
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この場所は北朝鮮が西海岸側からテポドン2号を打ち上げる西海ロケット発射場にある来賓用の施設とは違うようです。昨年2月のテポドン2号打ち上げを見守る金正恩の写真(下)を見ると、建物に手すりがあることが分かります。
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他の写真を見ても、西海ロケット発射場ではないことが分かります。来賓施設から発射場を向いたものとしては、山の稜線が合致しません。
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緑色のカーペット、建物の形も西海の施設とはまるで違います。
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ところが、この2枚の写真は西海ロケット発射場の来賓施設で撮影されています。やはり、この発射場付近から打ち上げられたことは間違いがなさそうです。
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来賓施設は円形の特徴ある外観です。打ち上げの後、砲兵隊の隊員がここに集められ、金正恩と共に写真を撮影したのです。
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では、金正恩はどこで打ち上げを見たのか?。高台のような場所で、農耕地らしい打ち上げ場所に近く、ロケットの軌道の下ではない、写真に見られるような建物がある場所。おそらく、ロケット発射場の観測用の建物ではないかと思われます。下の写真の矢印の場所です。ここは標高が220m程度あります。ロケット発射場の周辺には農地が沢山あります。金正恩が写る写真には双眼鏡が設置されているのが分かりますが、これは打ち上げ場所までは安全のため、距離があるので、発射装置とミサイルを金正恩が見るために用意されたのでしょう。
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ここだとすると、ミサイルが発射された場所として候補にあがりそうなのは、赤い矢印の場所です。青い矢印は金正恩がいたと思われる場所です。
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ミサイルの発射装置は真っ直ぐな道路の近くにあり、その背後に山があります。 この地形が符合しているように思われます。
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金正恩と発射位置は推定であり、前回の打ち上げで特定したほどの確証はありません。
この他、金正恩と共にいる私服の男性が誰なのかが気になります。同時発射のための技術担当者だったのかも知れませんし、ロケット発射場の場長のような立場の人かも知れません。
今回の発射を受けて、自民党の政治家が発言していますが、その中に驚くべきものがありました。佐藤正久参議院議員は6日、次のように書いています。
【北朝鮮、初めてほぼ同時に4発の弾道ミサイル発射、飽和攻撃対処も真剣に考えないと】
今回の特性は初めて4発同時に打たれたこと、そして排他的経済水域に着弾したことの二つだ
4発同時発射対処は、一隻のイージス艦だけではなかなか対処が難しい。更なる数のミサイル同時発射、飽和攻撃対処を真剣に考える時期、盾を厚くするだけでは限界があり、矛の議論も抑止上必要ではないか?
また、排他的経済水域への着弾は今回で3回目だ。排他的経済水域で活動する漁船や船舶への警報伝達も大きな課題。現在、船舶等への伝達は、電話で行っているが、それでは着弾になかな間に合わない。また、排他的経済水域に着弾する弾道ミサイルは、破壊措置命令では領域外のため、迎撃不可能。排他的経済水域の船舶・航空機への警報伝達、迎撃の為の法整備は、喫緊の課題だ。
イージス艦の弾道ミサイル対処能力が3発までで、4発になると困難であると明言しています。実際には5発打ち上げた訳ですから、全部発射に成功していた場合は、イージス艦では対処しきれないことになります。
また、イージス艦は200個を超える目標を追尾し、その中の10個以上の目標を同時に攻撃できるはずです。弾道ミサイルだから対処能力が落ちるのかは分かりませんが、4発までというのは驚きです。北朝鮮が在日米軍基地を攻撃するとすれば、8カ所(三沢、横田、横須賀、厚木、岩国、佐世保、嘉手納、普天間)の基地に対して一気に多数のミサイルを打ち込むと考えなければなりません。通常弾頭の場合で、一カ所に10発としても80発が第一弾として撃ち込まれることになります。SM-3ミサイルを搭載するイージス艦が3隻稼働していたとすると9発まで、最大4隻稼働していたとして12発しか確実に撃ち落とせないことになります。米軍も迎撃してくれるので、もう少しは落とせるかも知れませんが、大半は着弾します。PAC-3は射程が短く、国民全体を守る武器ではないので、アテにはなりません。
排他的経済水域上でも迎撃できると自衛隊法で定められているにも関わらず、現在実施されているのは、日本の領海内だけでの迎撃であることも分かりました。
自衛隊法第八十二条の三
(弾道ミサイル等に対する破壊措置)
1 防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
法律でこう決めたのに、政府は領海内でしか迎撃しないと決めていました。信じられないことです。領海は海岸から約22kmの範囲をいいます。海上保安庁にある排他的経済水域、接続水域、領海の概念図を見てください。
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こんなに間近まで来ないと、迎撃しないというやり方で、国民の安全が守られると考えているのでしょうか。というより、本気でミサイル防衛をすると、政府が考えていると信じられるでしょうか?。
自民党のすがわら一秀衆議院議員は8日にこう書きました。
北朝鮮のミサイルの高度化が進んでいるが、サードやPAC3をさらに進化させ、敵のミサイルが発射され降下フェイズで撃ち落とすのでなく、衛星で監視のもと、発射し上空に上がる際に撃ち落とし、発射地点に飛散させる能力を保有できればより強い抑止力になり、核開発に歯止めとなるだろう。
そもそも、日本にはサード(THAAD)はなくて、あるのはSM-3です。現在のPAC-3は射程が20kmほどしかなく、いくら数を配備したところで、日本全域など守れません。まして、発射地点付近にいるミサイルを破壊するなど不可能です。THAADもSM-3もPAC-3も迎撃ミサイルであり、飛んで行くのには時間がかかります。探知できる時には弾道ミサイルは進路を変え、かなりの高度に上昇していて、すでに発射地点付近にはいません。打ち上げ時に弾道ミサイルを墜落させ、発射装置も葬るなんて不可能なのです。すがわら氏はその辺がまったく分かっていません。
唯一、それを可能にするのはアメリカが開発していたエアボーン・レーザーですが、現在は開発は休止しています(過去の記事はこちら)。試作一号機は保管されているので、計画を再起動することはできますが、米政府との交渉が必要です。この兵器には欠点もあります。レーザー光線は直進するため、丸い地球の表面とは相容れないのです。つまり、発射地点の近くに行かないとレーザー光線が届かないということです。
一番の誤解は、武器さえ持てば、国民を守れるという凝り固まった発想です。核シェルターや避難計画、民間防衛も必要なのに、何一つ政府は準備しようとしません。もし、北朝鮮が核兵器を完成させていたとすると、現在の国民保護法では、避難所に来た人を支援すると定めているので、太平洋戦争時の広島と長崎のように、地上の避難所で被曝する人たちが多発するでしょう。
責任政党を自認する自民党の力はこんなものです。野党も同じくでしょう。
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