尖閣諸島付近で中国公船がドローンを飛行
防衛省によれば、18日にドローンが尖閣諸島付近で飛行して、航空自衛隊のF-15などがスクランブルを行いました。
防衛省の発表は以下の通り。
小型無人機(ドローン)らしき物体の領空侵犯について
平成29年5月19日
防衛省
平成29年5月18日(木)、午前10時52分頃から56分頃にかけて、尖閣諸島領海に侵入した中国海警2308が魚釣島の西北西約14キロメートルの海上を航行中、当該船橋前部付近において、小型無人機(ドローン)らしき物体1機が飛行した。
海上保安庁からのかかる連絡を受け、自衛隊は直ちに尖閣諸島上空及びその周辺空域にF-15(2機)、E-2C(1機)及びAWACS(1機)を向かわせるとともに、中国海警に警告を実施した。
これについて日刊ゲンダイは次のように書いています。
それにしても、たかがドローン1機に自衛隊機4機とは、いくらなんでも大ゲサすぎだろう。防衛省の広報担当はこう言う。
「別の目的で既に飛んでいた4機が現場の対応にあたりました。なので、一報を受けて基地から4機飛び立ったわけではありません。緊急の事態だったため、費用対効果は考慮していません」
稲田防衛大臣は次のように記者会見で述べました。
Q:スクランブルをかけたという話なので、領空侵犯の可能性があるというか、実際として領空侵犯はあったと大臣はお考えなでしょうか。
A:先ほど申し上げましたように、本事案は、領海に侵入をしている、領海侵犯中の中国公船から小型無人機らしき物体が領空を飛行していることで合って、深刻なわが国の主権の侵害であるということは、領空侵犯にも当たるものというものにも私は考えているということでございます。
毎日新聞はこの件に関する中国外交部の記者会見について、次のように報じました。
【北京・共同】中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)副報道局長は19日の定例記者会見で、尖閣諸島周辺を飛行していたドローンのような物体について「メディアがドローンを使って空撮していた。海警局が飛ばしたのではない」と説明した。
外交部の記者会見の原文を見ると、この他に「軍事行動ではなかった」「尖閣諸島とその付属の島は中国の領土である」「海警局の船は正常な法執行をしていた」と述べたようです。
事実関係は、中国のメディアが尖閣諸島を撮影するために中国の海警局の公船からドローンを飛ばしたということです。この時、中国公船は日本の領海内にいました。
尖閣諸島は離島で、その領海は本土との領海とつながっていません。日本と中国は両方とも尖閣諸島を自国領土としており、当然、領空と領海も主張しているわけです。
海上保安庁が撮影した映像によると、このドローンは小型で、おそらく映像撮影用のものと考えられます。飛行したのは5分間程度で、船の船首付近を飛んだということです。本当にメディアが飛ばしたのかは確認のしようがありませんし、なぜ船首付近でしか飛ばさなかったのかも分かりません。海上保安庁の船が接近したので降ろしたのかもしれませんが、確認のしようがありません。
自衛隊機が現場に行ったのは海上保安庁からの通報を受けてということですが、自衛隊広報の主張は異なっていて、別件で飛んでいた飛行機が向かったとのことです。どちらが本当かは分かりませんし、誰がそうしろと命じたのかも不明です。
また、小型ドローンが少し飛んだくらいで、戦闘機が現場に行く必要はなく、このスクランブルがどういう経緯で行われたのかが気になります。海上保安庁からの通報を空自が過大に評価した結果なのか、防衛大臣など上層部が尖閣諸島問題で領有権を主張するために行わせたなどが想像されます。
当然ながら、この事件はある種の人たちを刺激していて、マスコミは中国による挑発行為とみています。先にあげた日刊ゲンダイの記事は軍事評論家の世良光弘氏のコメントを紹介しています。
今回、中国がドローンを飛ばした目的は複数あります。1つ目は実地での試験的な運用。2つ目は、無人機を用いて日本を挑発し、有人機を出動させ物理的に疲労させること。3つ目は、日本の有人機に無人機を撃墜させ、軍事行動をエスカレートさせる口実を得るためです。ただ、無人機に対応するための法律がない日本は、現状、手出しすることはできません。今後も中国は無人航空機の開発を続け、尖閣諸島周辺に飛ばしてくるでしょう
3つともさっぱりわからない話です。試験的な運用かどうかは確認できませんし、今回のスクランブルで自衛隊が疲弊したとは思えませんし、日本がドローンを撃墜したからといって、紛争が激化するとも思えません。理屈らしいものではあっても、何ら根拠があるようにみえません。そもそも、法律がなくて日本が対処できないのなら、日本がドローンを撃墜するわけないのですから、主張が矛盾しています。
なお、この事件について、自民党の佐藤正久参議院議員は日本でドローンを開発して対処させるべきだと主張しますが、今回のような小型ドローンなら、対応用のドローンは不要です。操縦者が合理的に推認できて、警告を出せるのなら、わざわざドローンを飛ばす必要はありません。
また新しい中国の脅威が捏造された印象があります。中国が偽装漁民ではなく、大量のドローンで尖閣諸島を攻撃してくると。
さらに驚くのは稲田防衛大臣が領空侵犯があったと述べていることです。無人のドローンによって領空侵犯が起きるかどうかは疑問です。 領空侵犯への対処について自衛隊法は次のように定めています。
(領空侵犯に対する措置) 第八十四条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法 (昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。
航空機について、航空法は次のように定義します。
(定義) 第二条 この法律において「航空機」とは、人が乗つて航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器をいう。
国内法としては定義は明白ですが、国際法上の定義は曖昧で、日本のように有人と無人を区別していません。シカゴ条約には定義自体がなく、国際民間航空機関の同条約附属書のいくつかに「大気中における支持力を、地球の表面に対する空気の反作用以外の空気の反作用から得ることができる一切の機器」と書いてあるだけです。ドローンに関する国際的な取り決めは、多分、いまは存在しないでしょう。ここは航空法の定義を通用させるべきです。
自衛隊法上の航空機の定義は条文の中にはありません。航空法の定義とは違っている可能性もありますが、自衛隊は国際法規か航空法に違反した場合に対処するのですから、航空法が定義する航空機に対処するものと考えるべきです。
実はドローンについては、最近改正された航空法で第九章(第132条〜第132の3) に「無人航空機」として定義されていて、「航空機」とは区別されています。
ここでいう無人航空機は、今回、中国が飛ばしたような小型で飛行範囲や無線による指示が届く範囲が狭いものを前提としているようです。グローバルホークやプレデターのように、地球の反対側からでも操縦できるような軍事用ドローンは前提としていないようにみえます。
改正部分は都市部や禁止区域でドローンを飛ばすなと規定していて、軍事目的で領空に侵入する場合は想定していません。尖閣諸島のような無人で、他の航空機が通らないような島を政治目的のために飛行禁止区域にできるようにも設計されていません。
従って、ドローンが日本領空に侵入しても、それは領空侵犯にならないという不思議な事態が起こります。稲田大臣の発言は弁護士とも思えぬものだったということになります。日本が主張できるのは、中国公船の領海侵犯の方です。
また、自衛隊法も軍事用ドローンを前提としているように見えません。なぜなら、防衛大臣が命じられるのは、ドローンを着陸させるか、日本の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることだからです。
普通、ドローンには無線機は搭載されていませんので、操縦している者と連絡が取れないのです。いくら空自機が呼びかけても返事をしません。従って、着陸も退去もできないのであって、精々、周りを飛び回って監視するだけということになります。そのまま東京の国会議事堂の上に飛来して、爆弾を落としたとしても、自衛隊機は監視しているだけということになります。これはあまりにも不合理です。
この「操縦者と連絡が取れない」点に着目すれば、自衛隊がとるべき対処は見えてくると思われます。航空機に該当しないドローンは、自衛隊法第3条にあるように、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛するために、撃墜しても違法とはいえないでしょう。操縦者と連絡が取れないので、必要な対処ができないからです。もちろん、ドローンを手当たり次第に撃墜するのは不適切ですし、より明確な法の規定は早急に検討されるべきです。しかし、現段階であっても、ドローンが危険を及ぼす可能性があると判断される場合は、武力を行使したところで、直ちに違法とはいえないでしょう。
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