石廊崎沖で米駆逐艦とコンテナ船が衝突

2017.6.17
訂正 2017.6.18 23:00
再訂正2017.6.19 11:00



 NNNによれば、17日未明、静岡県の石廊崎の南東約20キロの沖合でアメリカ海軍の船がフィリピン船籍のコンテナ船と衝突する事故があった。アメリカ海軍の船は浸水し航行不能になっているほか、行方不明者が出ているという。

 海上保安庁によると、17日午前2時半頃、静岡県南伊豆の石廊崎から南東に約20キロの沖合で、アメリカ海軍のイージス艦フィッツジェラルドとフィリピン船籍のコンテナ船が衝突した。海上保安部の巡視船などが出動し確認したところ、フィッツジェラルドは右側の中央に衝突し浸水、航行不能になっているという。また、海に転落し行方不明になった船員もいるという。

 海上保安部は巡視船やヘリコプターを出し、現場で詳しい状況を調べている。

 神奈川新聞によれば、コンテナ船を運航する日本郵船によると、コンテナ船は17日午前1時半ごろに衝突後、乗組員の安否や衝突相手を確認し、船体の被害状況を把握した上で約1時間後に3管に無線通報した。イージス艦からは3管に海難の通報はなかったという。

 ワシントンポストの記事では、現場は伊豆半島から19km、横須賀から南西に104km。衝突したコンテナ船は「the ACX Crystal」(以下、ACXクリスタルとします)。フィッツジェラルドの全長は152mで、ACXクリスタルは213m。衝突時、ACXクリスタルは東京に向かっていた。フィッツジェラルドは喫水線の上下両方に損傷。フィッツジェラルドは浸水した水を排出しようとしている模様。フィッツジェラルドはロナルド・レーガン空母打撃群に所属しますが、衝突時、空母から独立して行動していた。フィッツジェラルドは自身の動力で動いていますが、時速1.6~4.8kmの間。最大船速は時速48km以上。衝突時にフィッツジェラルドがどれくらいの速度だったかは不明とされています。


 一度、記事を修正しましたが、最初の記事が事故発生時刻と位置について正しいことが分かりましたので、もう一度訂正しました。

 新聞記事も神奈川新聞が正確と思われるので、その部分を引用しました。

 ACXクリスタルの航跡はmarinetraffic.comで確認できます。

図は右クリックで拡大できます。

 航跡が石廊崎沖合で楕円を描いていますが、これが衝突した場所です。

 事故発生時刻については、午前1時30分と午前2時30分の二説がありますが、神奈川新聞がいうように、午前1時30分に事故が発生し、コンテナ船が通報したのが午前2時30分が正しいと考えられます。

 図中の青い矢印で衝突した場所を、コンテナ船の最後の進路変更位置を示しました。

事故発生時刻を午前1時30分とした場合

図は右クリックで拡大できます。

事故発生時刻を午前2時30分とした場合

図は右クリックで拡大できます。

 衝突時刻は午前1時30分として考えます。衝突前後のコンテナ船の高校データは以下のとおりです。

図は右クリックで拡大できます。


番 号

時 刻 針 路 速度(knot) 速度(km/h)

1:12

85
18.3
33.9
1:15
85
18.4
34.0
1:19
68
18.1
33.5
1:21
69
18.4
34.0
1:24
68
18.4
34.1
1:27
68
18.5
34.2
1:30
112
17.3
32.0
1:33
118
11.2
20.7
1:36
95
14.6
27.0

 ACXクリスタルは名古屋港を出て、沖合の航路に入ってからは針路85度前後で、ずっと東へ進んでいました。

 午前1時19分、衝突の9〜10分前、ACXクリスタルは針路をやや左へ向け、68度に変更しました。これは大島の東側を通過するための最適航路に向かうためと思われます。針路変更後、直進すれば、大島の東側を通過するからです。

 ACXクリスタルの乗員が、フィッツジェラルドと同じ方向へ進んでいたと証言していますから、ACXクリスタルはフィッツジェラルドが左側にいることを認識していました。ACXクリスタルは直進していましたから、フィッツジェラルドも直進していたはずです。これを元に両者の動きを図示しました。黄色がフィッツジェラルドの推定航路です。

図は右クリックで拡大できます。

 フィッツジェラルドの速度はわからないものの、時速30km前半のACXクリスタルよりは早かっただろうと思われます。推定ですが、最大船速までいは行かずとも、時速40km程度は出していたでしょう。ACXクリスタルを追い越しながら、針路を塞ぐ形で衝突した可能性が最も高いといえます。

 フィッツジェラルドがACXクリスタルの針路変更に気がつかず、十分な安全距離を維持して追い越せると考え、漫然と直進して衝突した可能性があります。

 いうまでもありませんが、注意義務は双方の船にあります。しかし、海上衝突予防法は、同じ方向に進む船は相手を右側に見る船に回避義務があるとしています。相手が左に見える船は、原則として、同じ針路を維持します。つまり、フィッツジェラルドに回避義務がありました。

 ACXクリスタルはフィッツジェラルドがこちらの動きに協調してくれると考え、フィッツジェラルドはACXクリスタルが接近しているのに気がつかなかった可能性があります。

 ACXクリスタルがフィッツジェラルドの針路を妨害しているようにもみえるものの、大島が間近なことを考えると、そろそろ周辺の船が左舵を切る可能性は当然、考えるべきです。

 しかし、約10分間にわたり、そういう注意は払われず、両船は衝突しました。その結果、尊い犠牲が出て、高価な艦が損傷しました。

 ACXクリスタルは艦首に半球状の突起部分「バルバスバウ」があり、フィッツジェラルドはバスバスバウに乗り上げる形で衝突したと考えられます。このため、吃水線の下、キール付近が裂け、海水が大量に流れ込んだのです。即座に各所で水密ドアが閉められたために沈没は免れました。バスバスバウとコンテナ船上部がイージス艦を挟み込む形で衝突しており、それだけに被害が大きくなりました。

 船にはレーダもありますし、見張りも立てます。深夜遅い時刻だったので、見張りが居眠りをするなどして双方の警戒が不十分だった可能性があります。目の前に巨大なコンテナ船が接近しているのに見えないはずはありません。下の写真は今年3月に呉港で撮影したものです。造船中のコンテナ船と海上自衛隊の護衛艦が並んでいます。コンテナ船の大きさが際立っていることがわかるでしょう。衝突すれば、小さい船に大きな損傷が出ます。

図は右クリックで拡大できます。

 フィッツジェラルドの航行に関する情報が公開され、事故の全容が公表されることを希望します。

 


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