イージス艦衝突事故はいかにして起きたか?

2017.6.21


 npr.orgがイージス艦とコンテナ船の衝突事故について、専門家の見解を掲載しました。イージス艦に非常に厳しい評価をしています。

海軍駆逐艦衝突はいかにして起きたか?

フィリップ・アーヴィング(PHILIP EWING)

 「日本沖合で貨物船て衝突し、USSフィッツジェラルドの乗員7人が死亡、他乗員が負傷」。ヘッドラインは水上海軍の絆が強い世界を震撼させました。
 
 海軍の家族が嘆く時、海軍とさらに広い世界は同じ疑問を持っています。「これはどうやって起きたのか?」。

 簡単な答えは誰も知らないことです…いまは。何が遭遇を導いたかについての公式調査は、数ヶ月かそれ以上かかります。海軍と米沿岸警備隊は、いずれ何が起きたかを説明する報告書を出し、新手のこうした事故を防ぐために勧告をするでしょう。

 「私はこうした調査がどれだけ続くかを推測しません」と、海軍第七艦隊司令官、ジョセフ・アーコイン海軍中将(Vice Adm. Joseph Aucoin)は言いました。東京のすぐ外に拠点を置く第15駆逐艦隊のフィッツジェラルドとその他の艦は、彼の指揮下にあります。

 しかし、関係船の写真、コンテナ船ACXクリスタルの航行データと、過去の事故で海軍が得た経験を含めて、フィッツジェラルドの衝突のようななことがどのようにして起きるのかを説明する証拠があります。

 18億ドルのフィッツジェラルドは、強力なセンサーで宇宙を見上げ、必要ならミサイルの砲火でそこの目標を攻撃するために背伸びをする能力を持つ、最も近代的で先進技術の水上戦闘艦です。

 しかし、駆逐艦には人間の乗員がいて、その大半がクリスタルと衝突した現地時刻午前2時30分頃は寝ていたようです。現地の報告によれば、東京湾の南水域の上空に月はなく、航路には日本の首都に出入りする途中にある船で頻繁に混雑がありました。あらゆる大きさの艦船がアジアの別の港へ航行したり、広大な太平洋の中へ東へ向かいます。

 フィッツジェラルドの戦闘情報センターと艦橋の下士卒は、向かう方向と航行する速度だけでなく、各艦の位置を記録するために艦のセンサーを使うことに責任があります。将校と下士卒は、彼らの船がしていることだけでなく、フィッツジェラルドが航行しようと望む太洋の次の海域に何があるかもしれないかについて、海軍が良好な「状況認識」とよぶものを常に持たなければなりません。

 2012年、フィッツジェラルドの姉妹艦、USSポーター(USS Porter)が石油タンカーと衝突したとき、ペルシャ湾とアラビア海をつなぐリボン状の海、ホルムズ海峡の混雑した、出入りが多い海路の上にいました。海軍の調査は後に、下士卒は他の方向に向かう船を含めて、彼らの周りの交通のすべてを追跡し続けていたのに、彼らが彼らの現在進路の先に集中し損ねたことに気がつきました。

 タンカーのオトワサン(Otowasan)が前方に巨大な姿を表したとき、マーティン・アリオラ中佐(Cmdr. Martin Arriola)は、正面衝突を避けようとして巨大な別の船の前方を横切るために、ポーターを左へ旋回するよう命じました。しかし、彼にはそうするのに十分な時間がなく、直前の全速力の命令ですら、駆逐艦を安全に通過させることはできませんでした。オトワサンはポーターの右側、つまり右舷側に沿って、土曜日の早朝にACXクリスタルがフィッツジェラルドに衝突したのに極めて近い場所に衝突しました。

 しかし、太陽が昇り、両方の船の写真が現れると、それらはクリスタルが艦首の左側、つまり左舷に損傷を受けていることを明らかにし、船がフィッツジェラルドと同じ方向に移動中だったかもしれないことを示しました。船はより小型の駆逐艦を、「一定の方向で、範囲を縮めながら」船の間の距離が接近したときですら、相対的に同じままだった垂直の角度で追跡していたかもしれません。

 もしフィッツジェラルドの乗員が彼らの前方にあるものを見ていて、彼らの右舷船尾にコンテナ船が存在するのに慣れていたら、駆逐艦に相対的に両方向的に動いて姿を見せないために、船がその間ずっと接近していたにも関わらず、下士卒たちは極限状態になるまで、何が起きているかを理解しなかったかもしれません。

 もう一つの似た可能性は、フィッツジェラルドが東へ航行しようとして、北へ向かっていたクリスタルの航路と交差したということです。駆逐艦は、調子を合わせてやってくる車を避けてくれると考えて、混雑する通りを横断しようとする誰かと同じだったかもしれませんが……この場合は計算違いでした。

 調査官は両船の乗員がやっていたことに念入りに焦点を置くでしょう。2009年に攻撃型潜水艦USS ハートフォード(USS Hartford)がUSS揚陸輸送艦USSニューオリンズ(USS New Orleans)と衝突したとき、海軍は後に潜水艦の規律が緩んでいたことに気がつきました。 ハートフォードの艦長は混雑するホルムズ海峡を通過する間、一度も操舵室に来ていませんでした。航海士はiPodを聞くために士官室にいました。

 クリスタルの艦橋に誰もいなかった可能性があります。巨大なコンテナ船であっても、海軍の艦船に比べると、戦闘艦と違って比較的、乗員は少数で、しばしば自動操縦を使います。広大な太平洋で、船乗りたちは舵を取るためにしばしば「アイアン・マイク(自動操縦のこと)」をさせます。一連の事故の後、米沿岸警備隊は昨年、船乗りに過度に自動操縦に依存することに関連する危険について警告しました。

 フィッツジェラルドの艦橋は大抵、確実に下士卒と将校によって夜通しの「深夜当直」が詰めており、これらの者たちは、衝突の前に何をして、何をしないかに関する重要な決定をなすかもしれない見張りです。

 彼らはコンタクトでいっぱいのすべての画面を管理して、彼らに対して迫る船に注意するには気が散りすぎたのでしょうか?。あるいは、乗員が退屈して関心を失いはじめた、することが少ない静かな夜でしたか?。調査官は尋問を行い、航行データを評価し、いずれはポーターから公表されるような艦橋で起きたことの録音も聞くでしょう。

 一つの詳細はすでに知られています。フィッツジェラルドの指揮官、ブライス・ベンソン中佐(Cmdr. Bryce Benson)は事故時に彼の士官室にいたと、第七艦隊のアーコイン中将は言いました。艦長の個室はクリスタルが衝突した艦の右舷側にあり、ベンソンは負傷し、日本の海上保安庁がヘリコプターで彼を陸上へ連れていきました。

 その他の下士卒は甲板のさらに下の区画で寝室を割り当てられていて、そこはクリスタルのバルバスバウによって浸水させられました。全部で、寝台区画2ヶ所、船の電力を生成するガスタービンの一つを収容する機械室が素早く海水で満たされました。

 「英雄的な努力が浸水が壊滅的に広がるのを防ぎました。それは船を沈降させたり、沈没させかねません」とアーコイン中将は言いました。「事態はもっと悪化しかねませんでした」。

 フィッツジェラルドは自力でやっとのことで東京へ行きました。多任務対応イージス戦闘艦の乗員は艦の二つのプロペラの一つだけで帰港するために、磁気コンパスと予備の機材を使いました。

 いまや駆逐艦は、別の任務につく準備をする前に、乾ドック入りを含めて、修理に何百万ドルを必要とします。海軍は事故で死んだ下士卒7人の身元を日曜日の夜に特定しました。

 現海軍長官ショーン・スタックレイ(Navy Secretary Sean Stackley)は、何が起きたのかを、いま尋ねている誰にでも回答すると誓約しました。

 「いずれ、合衆国海軍はこの悲劇の原因を完全に調査するでしょう」と彼は言いました。「そして、我々が我々の前にある多くの疑問に答える仕事を始めるとき、私は皆さんすべてにフィッツジェラルドの家族を心に置き、祈り続けることを求めます」。


 最初にいくつかレポート中の誤りを指摘しておきます。しかし、これらの誤りは致命的ではなく、結論は変わらないと私は考えています。

  衝突時刻は午前1時30分です。米海軍は午前2時30分としていて、著者はそれに準拠しています。

 上空に月はないと書いてありますが、当夜は下弦の月で、半月でした。事故発生時刻には東南東の低い位置にありました。気象衛星の写真を見る限り、上空に雲はありませんでした。

 要するに、このレポートはイージス艦側に責任があったことを示唆しています。さらには、職務怠慢についても暗示しています。

 衝突のプロセスは、私の推定とほとんど同じです。双方がお互いに気がつかないまま衝突したか、最後の瞬間に回避しようとして失敗したのです。

 船に残った衝突の痕跡からは、衝突の角度は垂直よりも小さかったように見えますが、お互いに動いているものが衝突した場合、運動エネルギーを変換しながらも前進するので、イージス艦の方向が変わり、痕跡がより鋭角になった可能性があります。

 衝突の約10分前にクリスタルが針路を85度から68度へ17度へと左へ向き、より北に向かうようになったのをフィッツジェラルドが気がつかなかった可能性があります。しかし、右舷にいる見張りが接近するクリスタルに気がつかない可能性は、月が出ていたことを考えると不可解です。

 コンテナ船がテロ攻撃を仕掛けたとか、イージス艦が緊急事態で回避できなかったとか、滅茶苦茶な推定を表明する者がいますが、そんなことを示す情報はどこにもありません。

 ちなみに、今回事故を起こしたACXクリスタルも、オトワサンも日本企業の船です。日本がアメリカにテロ攻撃をしたと言いたい人がいるようです。

 艦長がまもなく入港するという段階で、寝室にいたことも、私は気になっていました。しかし、それを指摘することは言いすぎかと考えていました。アーヴィング氏が潜水艦ハートフォードの事故を引用したのは、それを指摘するためです。入港すれば艦長は部屋から出てこなければならないのですから、まもなく入港するのであれば、艦橋に来て指揮を執るのではないかと思うのです。それをしていなかったということは、港の間近に来たら起こすように命じていた可能性があります。これは職務怠慢を連想させます。

 それから、国内には事故原因への関心を削ぐような意見が出ていますが、文末に見られるように、事故原因について、海軍長官はすべてを公表すると約束しています。これが日本とアメリカの違いです。アメリカは軍隊であっても、民主主義国に必要な公開情報を積極的に開示します。日本では知らされなくても誰も批判しません。

 

 


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