北朝鮮が火星12号を再度発射
毎日新聞によれば、韓国軍合同参謀本部などによると、北朝鮮は日本時間15日午前6時57分ごろ、平壌の順安(スナン)付近から東に向けて弾道ミサイル1発を発射した。
日本政府によると、ミサイルは北海道上空を通過し、午前7時16分ごろ、北海道・襟裳(えりも)岬の東約2200キロの太平洋に落下した。付近を航行する航空機や船舶への被害は確認されていない。政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を通して12道県に避難を呼びかけた。韓国軍によると、ミサイルは飛行距離約3700キロ、最高高度約770キロ。日本政府は約800キロとしている。
とりあえず、初期情報から考えられることをまとめます。
まずは、打ち上げの目的。
先日、国連による北朝鮮の制裁決議が決まった直後のタイミングですから、制裁に対する反抗のメッセージであるように見えるかもしれません。
しかし、それは結果としてなっただけの話で、この打ち上げは必要なものでした。
前回、8月29日に打ち上げた火星12号は飛距離が不十分でした。水平飛距離は約2,700km、高度約550kmは、予想される性能を下回り、北朝鮮が攻撃するとしているグアムに到達できないのです。当然、できるだけ早くにグアムに届くミサイルを実現しないとなりませんから、もう一度火星12号を打ち上げて、飛行データを収集する必要がありました。
なので、「なぜ、このタイミングで」という問いは無意味です。
今回の打ち上げでは十分な成果が出たので、北朝鮮は満足しているはずです。
飛行コースは日本を刺激しないように、領土の上をできるだけ通らないように設定されています。たとえ、車力駐屯地にあるXバンドレーダーで追尾されようと気にしないようです。
日本が領域に落下しない限りは撃墜しないと発表していることもあり、北朝鮮は心配することなく、日本上空にミサイルを飛ばせます。
マスコミが示す図には不正確なのもあるので、正しい図を描いてみました。赤矢印が打ち上げ地点と着弾地点です。その真中にある白い棒の上端が火星12号が最高高度に至った場所と高さを示しています。火星12号はこの三点をほぼ放物線状に飛んだのです。
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図は右クリックで拡大できます。 |
日本政府の対応が不十分なことも、この図を見ると理解できます。
火星12号が日本領域に落下するかどうかを判断してから迎撃ミサイルを撃つのは不可能か、極めて難しい判断だということです。
火星12号のブースターの燃焼時間は約3分間です。燃焼が終わると、ブースターは弾頭から切り離されて、落下します。その時、火星12号は発射地点から約200km移動して、高度は約100kmです。下の図のピンク色の棒の先端あたりです。少々見づらい点はお詫びします。
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図は右クリックで拡大できます。 |
ここから落下しても、日本海の真ん中あたりに落ちることになり、日本の排他的経済水域に入るかどうかという位置でしょう。
弾道はこのあと、慣性移動しますから、その弾道をイージスレーダーで解析して、どこに飛んで行くかを推定します。問題は弾頭が急に落下することがあるかどうかです。そういう事態が起こらないのなら、遥か上空を飛ぶ弾頭を迎撃する必要はないということになります。しかし、可能性を否定することはできません。人工衛星が打ち上げ時に軌道に乗らないことがあるのですから、ほとんど同じ弾道ミサイルで起こらないとはいえません。
すると日本海の真ん中あたりに来た段階で、「あらゆる危険を排除する」という観点からは、状況に関係なく迎撃するのが安全だということになります。この時点で、弾頭が一般的にいわれる「領空」の上にあっても、違法行為にはなりません。
これがテポドン1号や2号なら、表向きとはいえ宇宙ロケットでしたから、撃墜することは宇宙条約に抵触したかもしれません。しかし、すでに北朝鮮は火星12号が兵器であると宣言しています。兵器の実験により、日本に危険が及ぶ可能性があるのに、それを排除できないという理屈は正当ではありません。
不技師なことに、自衛隊は弾頭が日本に落下するかどうかを判断しているといいます。しかし、日本の領土領海という広範な範囲に落下する可能性を判断した上で、SM-3ミサイルを撃って間に合うのか、大変に疑問です。
また、今回、イージス艦がどこにいたのかも気になります。SM-3はミサイルの軌道直下から撃つ時に最も命中率が高いといわれます。火星12号を前回と同じ軌道で撃つとヤマをはるような判断を自衛隊がしたかどうかが気になります。
2012年4月のテポドン2号打ち上げでは、海上自衛隊はイージス艦と沖縄の北と日本海に配置しました。日本海にいた艦は東京を守るために最適の位置にいたはずです。テポドン2号は打ち上げ直後に爆発しました。その結果、両方のイージス艦がテポドン2号を探知するのに失敗しました。実験である以上、テポドン2号を東京に向けるはずもないのに、慎重になりすぎて探知に失敗したのです。
こういう自衛隊ですから、今回も東京を守る位置にいたのではないかと想像されます。そうだとすれば、軌道直下を大きく外れていたはずで、迎撃ミサイルの命中率はかなり低かったと想像されます。
政府の発表とは違い、万全は尽くされていません。なにより、ミサイル開発を止めるための方策を一つもやっていません。北朝鮮が火星12号を打ち上げる理由は一つです。軌道データが予定したとおりかどうかを確認することです。予定通りにミサイルが飛行すれば、北朝鮮はミサイルが完成したと宣言します。それを止めようとしないのですから、北朝鮮に親切にしてあげているようなものです。
安倍首相は「北朝鮮がこの道をさらに進めば、明るい未来はない」と述べたものの、「明るい未来はない」と言う前にしばらく沈黙していましたから、具体的なシナリオは持っていないのではないかと思いました。
自民党の政治家は外交政策に関しては外務省に依存しています。自分で何かを考え出す力がないのです。その外務省が考え出した北朝鮮対策しか政府にはありません。軍事知識のない外務官僚では、北朝鮮に先回りされることは目に見えています。
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