石破氏の政府批判に誤りあり

2017.9.18


 自民党の石破茂氏が、先日の北朝鮮の弾道ミサイル発射に関して、政府の対応を批判する意見を自らのブログに出しました。しかし、この意見が大きく間違っているので、指摘をしておきます。

 まずは、そのコメントを必要な部分だけ引用します。

 石破 茂 です。

 本日7時前に北朝鮮がミサイルを発射した際の報道の混乱ぶりはよく理解が出来ません。

 NHKニュースは政府の発表として「ミサイルが午前7時4分頃、日本の領域に侵入し、午前7時6分頃、領域から出て、午前7時16分頃、襟裳岬の東およそ2000キロに落下した」と伝えました。

 「領域」とは領土・領海・領空の総称であるため、高度500キロ以下を飛翔したのかと思っていたら、その後の発表ではこれをはるかに上回る高度であったようで、我が国の国家主権の及ぶ「領域」も「領空」も侵犯はされていないはずです。

 細かいことのようですが、国家主権が侵犯されたか否かでその意味は全く異なるのであり、どうしてこのように基本的なことがあやふやのまま発表がなされたのでしょうか。本日の自民党の会議で政府はその誤りを認めましたが、何故、情報を伝えた防衛省も、受け取った内閣官房も、「領域」ではないことに全く気付かないままに発信してしまったのか。南スーダンの「戦闘」という日報の表現を巡って大混乱に陥ったことに対する反省が活かされていないのではないでしょうか。

 政府は午前7時にJアラートを通じて北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、長野の道県に警報を伝え、当該道県では「北朝鮮からミサイルが発射された模様です。建物の中、又は地下に避難してください」というアナウンスが流れたとのことですが、この時点ではすでに着弾地点は把握できているはずです。「着弾はしないが、デブリ(破片)が落ちる可能性がある」ということだったのでしょうか。それはどのような根拠によってその範囲を特定したのでしょうか。

 せっかく警報を発するのであれば、同時に国民にどのような状況であるかも可能な限り正確に伝えなければ、避難すべきか否かの判断がつきません。このようなことを繰り返していると、やがて国民の政府に対する信頼が失われることになるのではないかと強く危惧します。

 西欧諸国が冷戦時代、旧ソ連の核の現実的な脅威をどのように乗り切ったのかを検証し、応用しうる点は早急に整備しなくてはなりません。自国も核を保有した英・仏、自国に米国の核を配備した旧西ドイツ、ニュークリアシェアリング政策を採る現在のドイツ・ベルギー・イタリア・スペインなど。あるいは核シェルターを整備し、避難訓練を常時行ってきた北欧諸国やスイスなど。いずれも核抑止の実効性と国民保護を徹底させたからこそ、ヨーロッパにおいて冷戦に勝利し得たのであり、議論さえ行わない我が国との差は歴然としています。


 まず、決定的に認識違いなのが次の部分です。

 「領域」とは領土・領海・領空の総称であるため、高度500キロ以下を飛翔したのかと思っていたら、その後の発表ではこれをはるかに上回る高度であったようで、我が国の国家主権の及ぶ「領域」も「領空」も侵犯はされていないはずです。

 これは国家の領域は高度500kmまでだと主張しているように思われますが、完全に間違っています。高度500kmは宇宙空間であり、そこは宇宙条約により専有が禁じられています。どこまでが領空かは必ずしも定義されておらず、様々な主張があります。石破氏が何を根拠に500kmという数字を出したかは分かりません。

 「着弾はしないが、デブリ(破片)が落ちる可能性がある」ということだったのでしょうか。

 これも誤りです。ミサイルが分解して散乱した場合、どれもが同じ速度で飛び続けるので、ほとんど同時に落下します。デブリの重量などの違いが多少の差を生むだけで、それほどの時間差は生まれません。

 正しいのは最後の段落だけです。

 西欧諸国が冷戦時代、旧ソ連の核の現実的な脅威をどのように乗り切ったのかを検証し、応用しうる点は早急に整備しなくてはなりません。

 早急に整備とはいえ、すでに北朝鮮の弾道ミサイルは完成間近である可能性があります。私はテポドンの実験が始まった段階から、テポドンで日本は攻撃できないけども、その開発で培った技術で弾道ミサイル技術を向上させる恐れがあり、地下シェルターを建設すべきだと主張してきました。石破氏の主張は正しいものの、時期が遅れすぎていて、その危機感は感じられません。今から地下シェルターの整備をはじめても、北朝鮮が弾道ミサイルの実戦配備を始めるまでに間に合わないでしょう。

 本当の問題はまさにこの部分ですが、石破氏は認識していないようにみえます。

 ミサイル防衛のシステムに問題がありますが、石破氏が導入したものであるためか、それに触れていません。

 ここまで書いて、現在のミサイル防衛の誤りをもっと説明する必要があると感じたので、次に分かりやすく書いた記事を掲載します。

 

 

 


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.