ミサイル防衛の矛盾と疑問
日本政府のミサイル防衛は、相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射によって段階的に強化されています。しかし、現段階でもその有効性には疑問があり、日本国民は事実上、丸腰の状態に置かれていることを、分かりやすい表現で説明します。
北朝鮮から日本へ、弾道ミサイルは10分程度で着弾します。
この短い時間の中、日本政府は日本領域に落下する場合だけ迎撃を行う方針をとっています。つまり、ミサイルが故障するなどして落下して、計算上、日本領域に落ちると判断できた場合だけ迎撃するということです。
このような判断は事実上不可能です。まずは、下の図を見てください。使ったグラフィックソフトウェアの都合上、軌道はあまり正確には描けていません。
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赤い矢印は火星12号の弾道のイメージです。分岐して太平洋に落ちている線はミサイルが墜落した場合に想定される弾道です。
①は火星12号のブースターの落下イメージです。燃焼を終えて落下したブースターは北朝鮮に近い海に落ちます。この辺に日本の船がいる可能性はかなり低そうです。
切り離されて弾頭だけになった火星12号が何らかの問題が起きて落下したとします。その可能性は非常に低いといえます。弾頭は慣性移動しており、何かの力に妨げられない限りは、そのまま進もうとするからです。しかし、ここでは落下の可能性を一切否定しないで考えます。
弾頭が落下を開始して、それがイージス艦に探知されそれから迎撃ミサイルを発射します。水色の矢印がそのイメージです。落下を探知して、ミサイルを発射して、実際に命中するまで間に合うのかは、非常に疑問です。この図よりも、ずっと後になって墜落した場合、日本海側にいるイージス艦では迎撃できないでしょう。迎撃ミサイルの弾道がかなり無理なものになりそうです。
実際のミサイルの性能は分かりませんし、シミュレーションも困難なので、これ以上の推定はできません。
8月29日に火星12号を打ち上げたときは、当初、ミサイルが分裂したと防衛省は発表しました。つまり、ミサイルは正常に飛行しなかったのです。それでも、防衛省は危険がないと判断して迎撃しませんでした。弾頭の速度が落ちなかったためでしょうが、そう判断することにリスクはあります。
日本用に開発されている中距離弾道ミサイルは、もっと早くブースターを切り離すし、高度はあまりあがりません。火星12号は早い段階で日本を飛び越えるとわかりましたが、ノドンミサイルだと、日本に落下するかどうかを判断している暇はないでしょう。
実際のところ、自衛隊はミサイルの高度と速度から日本に墜落するかどうかを判断しているだけだと、私は考えます。日本に落下する程度の射程の中距離弾道ミサイルの場合だけ迎撃するということです。北朝鮮の距離から日本にミサイルを打ち込む場合の速度と高度は決まっています。それだけ見れば判断はできます。しかし、それは予測できない故障などが起きた場合を除外しています。
航空機や船舶に対する危険は、万一の場合も排除する考えが必要です。
これは今日の午後のフライト状況です。新千歳空港に離発着する航空便が多くあります。太平洋上にある航空機はアラスカ州経由で日本に向かっている国際便です。小型機はこのマップには含まれていません。
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これは船舶の状況です。漁船や小型船は含まれていません。
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かなりの数の交通がある地域なのです。航空機に弾頭が衝突すれば直ちに墜落ですし、船舶は沈没はしなくても死傷者が出たり、船舶が制御不能になる可能性があります。
つまり、日本に向かう弾道ミサイルは一定の距離まで近づいたら撃破すべきなのです。正確な判断をする余裕はありませんし、交通などへの被害を考える必要があります。
安倍総理は、弾道ミサイルからの国民の保護に「万全を尽くす」と述べていますが、実際には一定のリスクには対処していません。
また、撃墜することは、北朝鮮のミサイル開発を遅らせる効果があります。弾道データを測定させないことが大事です。実験ができなければ、ミサイルは完成しません。
朝鮮戦争の休戦協定に縛られる韓国やアメリカと違い、日本が迎撃することは朝鮮戦争への介入にはなりません。
日本政府がこのことに気がついて、政策を変更する可能性は低そうです。
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