科学者が戦地での汚染物質曝露を勧告

2018.12.7


 military.comによれば、全米医学アカデミーの研究者たちは、軍事派遣のリスクと結果をより理解するために、兵士の環境有害物質への暴露を追跡して、彼らと彼らの子孫の健康を監視するよう国防総省・退役軍人省に勧告しました。

 全米科学・工学・医学アカデミーによる11月28日に公表された報告書の中で、科学者16人の委員会は1990〜1991年と9/11以降の退役軍人の一部と彼らの家族に環境有害物質の決定的な健康問題のつながりはないと言いましたが、彼らは政府とその他の機関に、もし存在するのなら軍事派遣が退役軍人と将来の世代にどんな健康への影響があるかを特定するために、健康監視と研究プログラムを確立することを勧告しました。

 約70万人の隊員が砂漠の盾作戦と砂漠の嵐作戦の間にペルシャ湾岸地域へ派遣され、2001年9月11日以降に270万人がイラク、アフガニスタンなどに配置されるか戦闘を行いました。それら退役軍人の多くは潜在的に農業用殺虫剤、溶剤、化学・生物剤、ワクチン、バーンピット(焼却用穴)、油田の火炎、埃、劣化ウランのような「有害な物質や状況」にさらされた可能性があると、報告は指摘しました。

 これらの物質のどれかにさらされたことがこれら退役軍人とその家族の一部の病気の原因であるかどうかを特定するために、委員会は環境曝露の生殖・遺伝的な影響に関する8万件以上の出版物を調査しました。軍事的な被曝に特化した研究は少ないため、同じ物質にさらされた民間人に関するほとんどの研究か動物を使った研究でした。

 委員会は主に、既存の論文の中に退役軍人の子孫の中に生殖状態や健康問題につながる最も多く戦場に見られる汚染物質との決定的な証拠があると結論しました。

 しかしメンバーは、硫黄マスタードは男性の生殖に悪影響があるかもしれないこと、細菌感染は妊娠結果に影響を及ぼすかもしれないこと、塗装と錆止めに使われる化学物質のクロムは男性の生殖、妊娠結果、子供の成長に悪影響を与えうることで限定的で示唆的な証拠があると指摘しました。

 委員会はまた、一部の農業用殺虫剤への胎児期の曝露と神経発達の影響、粒子状物質と誕生時の体重減少と早産のような不利な妊娠結果、ベンゼンへの胎児期の曝露と小児白血病の間の相関関係の十分な証拠を見出しました。

 健康監視・研究プログラムは派遣に関連した曝露と世代への長期間の影響に関する理解を拡大するのを助けます。

 こうしたプログラムを確立するには多額の資金、国防総省と復員軍人援護局、その他の政府機関の長期間の関与、過去・現在・未来の退役軍人とその家族による十分な関与を必要としますが、科学への貢献が重要だと、委員長でアリゾナ大学の「応用遺伝学・ゲノム医療センター(the Center for Applied Genetics and Genomic Medicine)」の責任者のケネス・ラモス医師(Dr. Kenneth Ramos)は言いました。「世代的な影響の研究から得られる結果は最終的に退役軍人の曝露、生殖に関する健康、彼らの子供と孫の健康についての新しい知識で報いられるでしょう。重要なのは、これらの投資から得られる新しい理解は現在と未来の世代のアメリカ人すべての健康へ直結するでしょう」。

 1998年の議会の命令で、復員軍人援護局は病気とペルシャ湾での勤務との間の関連に関する組織的な研究評価を行うことで全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)と契約しました。全米アカデミーは湾岸戦争と健康、湾岸戦争での勤務における世代的な健康への影響を含めた、主題に関する11件の報告書を作成しました。

 11月、全米アカデミーは復員軍人援護局はオレンジ剤にさらされたベトナム帰還兵の子供たちのダイオキシンへの世代間の曝露の研究をすることも勧告しました。


 湾岸戦争で劣化ウラン弾が使われ、それが健康被害をもたらしたと考えられることは、かなり前から指摘されてきました。劣化ウラン弾は砲弾の重量を増やし、砲弾に破壊力を与えるための工夫です。通常の状態なら健康被害はもたらしませんが、目標に命中したときに蒸発する劣化ウラン弾が体内に入ると有害だとの指摘があります。

 当初、劣化ウラン弾が健康被害をもたらすわけがないとされて、対処が遅れました。

 バーンピットは基地の近くに穴を堀り、そこであらゆるものを燃やした結果、有害なばい煙を隊員や軍属が吸い、健康被害をもたらした問題です。アメリカは有害物質の処理には厳しい規則がありますが、米軍はその反動で、海外派遣では実に雑な廃棄物処理をやり、過去に繰り返して問題を起こしてきました。明らかに、米軍内の文化に問題があります。法律がないと、彼らは守ろうとしません。

 今回の勧告は新しい研究による発見に基づくのではなく、文献の調査によるもので、目新しいものではありません。しかし、繰り返し問題点を指摘していくことは重要です。

 翻って、日本ではようやく自衛官の戦闘外傷に関する認識が高まりつつあるのみで、このような戦地での汚染物質の被曝に関する問題には意識すらしていません。知見は皆無です。

 


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