北海道の大停電を防ぐために

2018.9.10
修正 2018.9.14


 今月発生した地震によって引き起こされた北海道全域にわたる大停電について考えます。

 9月6日3時8分に平成30年北海道胆振東部地震が発生し、北海道全域で大きな停電が起ました。早速、泊原子力発電所を再開すべきだという意見が出ていますが、原発には核事故の危険性がつきまといます。それよりは、別の手法によって問題を解決するほうが安全だといえるでしょう。これは直ちに始めたとしても数十年はかかるため、近い将来に起きる災害には対処できませんが、核事故により北海道の中枢を失うことは避けられます。

 北海道の発電量は需要に比べて少なすぎるとの指摘はかねてからありました。そのため、今回の大停電が電力不足によって起きたという説明が、一部のマスコミからなされています。これは誤りです。電力不足なら部分停電になるはずです。

 発電所が電気を発電すると周波数はあがります。消費者側が電気製品を使うと周波数はさがります。夜間で電気消費量が減り、周波数があがったところへ苫東厚真発電所が損傷により停止したため、消費者側の周波数はさがりました。送電網内で異なる周波数が生じ、これが許容範囲を超えて調整ができなくなり、装置を守るために安全装置が働きました。発電所が強制的に停止され、すべての発電所が停止したのです。電力不足の停電では発電所は止まりません。

 電気は発電所から直接、家庭や会社に届くのではなく、複雑な送電網の経路を辿り、何度も変電所で特性を変えながら送られていきます。専門家ではないので詳細はわかりませんが、送電網をこういう周波数の調整ができるものに変えるのも一つの手です。実際、北海道電力は変電所に蓄電池を設けて周波数調整を行う実験をしています。そうした工夫が実現できるかを考える必要があります。ジャーナリストの中には、ヨーロッパの送電網と比べると、日本は立ち遅れているとの主張をする人もいます。

 泊原発が稼動していても、今回のような大停電は防げませんでした。原発には周波数の調整機能がないからです。それでも電力不足があるのなら動かした方がよいのではないかとの意見があると予測できます。確かに一理はあります。しかし、今回の地震で泊周辺は震度2足らずだったのに、電源供給がいきなり最後の砦である非常用の電源まで後退した点は見逃せません。原子炉が稼働中だったら、短時間でメルトダウンが起きる状況です。外部電源から非常用電源への切り替えがうまく行かなかったらなど、心配の種は尽きません。非常用電源は複数用意されているとしても、何が起きるかは分からないことを考えると、原発への依存は考えない方がよいのです。

 なにより、北電には最優先でやるべきことがあります。それは火力発電所の立地を再考することです。

 火力発電所を動かすには、蒸気を冷やして水に戻すために水が大量に必要です。近くに利用できる水があることが火力発電所の立地条件の一つです。そのため、火力発電所は川や海の近くにあります。韓国やイギリスはほとんどの火力発電所が海沿いにありますが、フランスやアメリカでは内陸部にあります。水さえあればどこでもよいのです。さらに、燃料の石油を搬入・備蓄しやすいという理由もあります。ところが日本は太平洋の沿岸ばかりに火力発電所が集中しています。それは別の立地条件のためです。発電所から消費地までが近いほうが効率がよいためなのです。太平洋沿岸には工業地帯が集中しています。電気をより必要とする工業地帯に効率よく電気を送るためには、発電所が工業地帯の近くにあることが望ましいとなるのです。

 北海道でも火力発電所は太平洋側に多くあり、北海道電力の苫東厚真、苫小牧、伊達、知内とが太平洋沿岸に設置されています。苫小牧火発の敷地内には他社の火力発電所(苫小牧共同火力発電所)もあります。これらは北海道の電気のアキレス腱です。一度の大津波で、これら四ヶ所以上の火力発電所が破壊される危険性が高いからです。

 電気の資格試験の問題にもあるのですが、火力発電所の立地条件の一つは自然災害から影響を受けないことなのです。沿岸はどう考えても津波や台風の影響を受けやすく、特に太平洋側はよりその影響が強いといえます。津波は日本海よりも太平洋で多く、台風は太平洋側の方が勢力が大きいのです。

 水はあるけど自然災害もあるという点で、沿岸部という立地には長所と短所が混在しています。

 実際、東日本大震災では火力発電所多数が損傷していて、福島県の原町火力発電所は津波で破壊され、長期間運転できませんでした。原町火発は防波堤で守られていましたが、大津波の前には無力でした。もし、上記四ヶ所以上の火力発電所が同時に損傷し、発電ができなくなったら、本州から最大限電力を融通してもらっても、電気は一部の地域にしか送れないほど不足します。それが厳寒期に起きれば、北海道は壊滅的な打撃を受けるでしょう。

原町火力発電所 写真は右クリックで拡大できます。

 この教訓から、原発だけでなく、沿岸部の火力発電所も津波から守るための施設が必要なのです。あるいは、もう少し内陸部に移動して、界面から高い位置に設置する努力をすべきです。残念ながら、苫東厚真、伊達、知内の火力発電所はいずれも海岸付近にあり、防潮堤を増築できないほど海の間近にあります。これでは津波が直撃し、容易に施設が損傷し、発電はできなくなります。

苫東厚真火力発電所 写真は右クリックで拡大できます。
苫小牧火力発電所と苫小牧共同火力発電所 写真は右クリックで拡大できます。
伊達火力発電所 写真は右クリックで拡大できます。
知内火力発電所 写真は右クリックで拡大できます。

 Google Earthで測ったところでは、苫東厚真の発電所がある位置の標高は7メートル、苫小牧は6メートル、伊達は4メートル、知内は5メートル程度しかありません。これでは30〜40年周期で到来する大津波で損傷しそうです。なぜ、このように脆弱な発電所を計画したのかは理解ができません。

 いずれの発電所ももう少し内陸にはさらに標高の高い場所があり、そこに建設すれば、津波の直撃を受けるようなことはないはずです。石油は地下パイプラインで受け取る。土盛りをしてコンクリートで補強して建屋を高い位置に設けたり、防潮堤を造ることで、損傷を防ぐのです。

 発電所全体を免震化して、損傷を防ぐ方法など、開発すべき事柄は他にもあり、そういう研究を直ちに始めてほしいと考えます。他国の実情なども参考にして、いまある技術だけにとらわれないことが大事です。

 

 


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