レーダー照射事件は日韓暫定水域内で起きた

2019.1.14


 レーダー照射事件について、さらに考えます。事件を見るには、まず、それがどこで起きたのかを知ることです。

 防衛省は事件が起きた翌日の12月21日に次のような発表を行いました。

 12月20日(木)午後3時頃、能登半島沖において、韓国海軍「クァンゲト・デワン」級駆逐艦から、海上自衛隊第4航空群所属P-1(厚木)が、火器管制レーダーを照射された。

 この後、数回、続報が発表されますが、現場の位置に関しては常に「能登半島沖」としか書いていません。報道では「能登半島沖の日本の排他的経済水域の中」だとされましたが、防衛省自体は能登半島沖としか述べていません。なので、これが日本政府の公式見解です。

 これでは事件がどこで起きたのかが分かりません。防衛大臣の記者会見では12月25日に記者からこの件で質問を受けていますが、場所についての質問をした記者はいませんでしたし、その後の記者意見でも出ていません。

 「沖合」とは普通、ざっと海岸線から見える範囲の海域を指しますが、日本政府やメディアは海岸から数百キロ離れた場所でも「沖合」という表現を用います。このため、「能登半島沖」というのは日本海のほとんどすべての場所を指し示すことになります。日本海には日本と韓国の排他的経済水域や日韓暫定水域、公海など政治的に意味の違う海域があるため、どこで事件が起きたのかを知るのは重要なのですが、日本政府には国民に知らせる必要があるは思っていません。

 現場については韓国のメディアがより具体的に報じています。中央日報の12月25日版に次の記述があります。(記事はこちら

今月20日、独島北東200キロ沖の大和堆漁場の公海上で、韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」が漂流中だった北朝鮮小型漁船を捜索・救助する過程で起こった事件だ。

 これは竹島(独島)を基準に、かなり正確に事件の場所を知ることができる情報です。そこで、竹島の中心から北東方向(45度)に200kmに相当する直線を引きました。そうして座標を得ました。

北緯 38度30分3.17秒
東経 133度29分30.00秒

竹島の中心を輝点として、45度の方向へ直線を延長しました。
伸ばした直線は200km。
陸地との位置関係が分かるようにしました。

 竹島からの方位と距離は大雑把な数字でしょうから、この座標を無条件に信用はできませんが、能登半島沖に比べると、数段正確です。

 日本本土(島を除く)の一番近い場所から310km、韓国からは390kmの位置です。隠岐の島から北240kmです。能登半島が一番近い場所ですが、もともと能登半島は日本海に向けて突き出ているので近いわけですが、位置を表すには隠岐の島を目印にした方がよさそうです。

 現場はおそらく日韓暫定水域(日韓漁業協定水域)の中と思われます。

図は右クリックで拡大できます。
図は右クリックで拡大できます。

 暫定水域とは、竹島の領有に関して争いがあるため、排他的経済水域の範囲を決められないので、竹島がないものとして日韓両方が操業できるように定めた水域です。この水域では日韓の漁船が自国のルールに基づいて操業できます。

 そういう、いわば競合エリアで事件が起きたことが日本人には知らされていません。報道では「日本の排他的経済水域の中」としか説明されていませんから、なぜ北朝鮮や韓国の船が日本の排他的経済水域の中にいたのかと思う人もいるでしょう。

 なお、自民党内では韓国駆逐艦は北朝鮮を支援する目的で接触していて、それを自衛隊機に見つかったたためにレーダーを照射して追い払おうとしたとの意見があります。

 しかし、そうした接触を行うのなら韓国の排他的経済水域の中の方が日本の監視の目が届かないので、より簡単であるということはすぐに分かります。

 現場は北朝鮮の排他的経済水域から比較的近く、そこで操業中にエンジンが故障すると韓国の排他的経済水域の中を漂流して暫定水域に至る可能性は十分にあります。漂流しているのを韓国漁船が発見し、韓国海洋警察に通報したと考えることもできます。

 Google Earthで各国の排他的経済水域のデータを入手して、現場位置との関係を示しました。些末なことですが、この図では竹島が韓国領域となっています。竹島が韓国の排他的経済水域の中にあるので、そうしないと水域の領域が矛盾するとデータの作者は考えたようです。この図では最新の日韓暫定水域は反映されていませんが、位置関係は概ね把握できます。

図は右クリックで拡大できます。

 黒い矢印の先が現場です。先の推測の他、北朝鮮漁船が韓国や日本の排他的経済水域の中に入って

 また、韓国政府は12月20日に北朝鮮漁船から船員3人と1人の遺体を回収したと発表しており、22日午前11時ごろ、軍事境界線にある板門店で北朝鮮に引き渡したとの報道もあります。この発表を嘘だと決めつける人がいますが、それは早とちりです。板門店には国連の中立国停戦監視委員会がいます。現在はスイスとスウェーデン両軍がいるはずですから、こうした動きはすべて両軍の委員に報告されているはずです。韓国だけで勝手に勧められることではありません。

 北朝鮮漁民は実際に救助されていて、レーダー照射もまた起きたのだと、私は現段階で考えています。その先は先走って推測をすべきではありません。重要なのは「何が起きたのか」です。

 このように、基本的な情報すら確認できない状態に国民を置くのは、民主主義国としてあってはならないことです。日韓両政府はさらに情報を公開して、両国民を納得させるよう努力すべきです。

 

 


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