米軍の軍法に関する入門的な概説
military.comが昨日の記事に米軍の軍法である統一軍規法典(the Uniformed Code of Military Justice: UCMJ)についての解説をリンクしていますので、それを紹介します。
日本には軍法裁判はありませんが、国連の活動に自衛隊を差し出す場合は必要になります。旧日本軍の軍法会議の悪いイメージにより、我々の軍法裁判への関心は低くなっていますが、実はジュネーブ条約を履行する上でも重要な機構です。平和を考える上でも必要なことです。
軍法裁判がない自衛隊では、上官による異常な処罰が横行しています。たとえば、年単位での外出禁止のような処罰です。軍国主義の拡大を防ぐために軍法会議を禁止したため、逆に私的制裁が蔓延しているのです。これは自衛隊にとって悲劇的です。
こうした問題を考える上でも、ここで概要を見ておきましょう。
以下、記事です。
UCMJ
UCMJは連邦法であり、議会により制定されます。UCMJは軍の司法システムを定義し、軍法の下での刑法犯罪を記載します。
法律は軍の最高指揮官を務める合衆国大統領が軍法を施行するために規則と規範を執筆することを必要とします。大統領はこれらの規則と規範を、軍法裁判取扱書(the Manual for Courts-Martial: MCM)として知られる大統領命令を出すことで執筆します。MCMは軍隊の軍法裁判の規則と規範を詳述し、UCMJの罰則条項に列挙されるそれぞれの軍法違反の最大の処罰を提供します。
軍隊の軍法裁判
軍隊の軍法裁判は軍法の下で最も厳しい制裁です。軍法裁判の判決は連邦の判決と同じであり、(犯罪によっては)(重労働の)懲役や罰金と降格、不名誉除隊のような懲罰的除隊となります。
軍隊の軍法裁判は3つのレベルで起こります。
- 簡易(Summary)
- 特別(Special)
- 高等(General)
選ばれるレベルは通常犯罪の重大性と被告の階級に依存します。
簡易軍法裁判
簡易軍法裁判は最近は比較的稀です。下士卒の隊員だけが簡易軍法裁判で裁かれることがあります。簡易軍法裁判は連邦の有罪判決になりえるのを除いて、司法外の処罰(第15条)のようなものです。
将校(通常、給与等級がO-3かそれ以上)が簡易軍法裁判で裁判長を務め、陪審員(陪審員団)はいません。空軍を除いて、被告人に被告側弁護士を提供する必要はありません(とはいえ、弁護士は通常許可されます)。
簡易軍法裁判が下せる最高刑は以下を含みます。
- 30日間の禁固(もしくは禁固なしの重労働)
- 1ヶ月間で3分の2の給与没収
- 最低の給与等級(E-1)への減級
ヒント 被告人が給与等級E-4よりも上の場合の裁判では、簡易軍法裁判は禁固、禁固なしの重労働あるいは最低の一つ上の給与等級以外への削減を科されないかもしれません。
特別軍法裁判
特別軍法裁判はあらゆるUCMJの犯罪で起訴されたあらゆる隊員に裁判権を持ちます。特別軍法裁判所は一般的に中程度の重要性の犯罪を裁判にかけるために用いられます。
特別軍法裁判所は軍の裁判官と検察側と被告側の法律家、少なくとも3人の軍隊のメンバーの陪審員(陪審員団)で構成されます。被告人が下士卒の隊員なら、彼は少なくとも陪審員団の少なくとも3分の1が下士卒の隊員であることを要求できます(そうでなければ陪審員団は通常、将校と准尉で構成されます)。被告人は陪審員団を拒否し、彼が望むなら裁判官だけで裁判が行われるよう要求できます。
特別裁判所が科せられる最高刑は以下の組み合わせを含みます。
- 禁固12ヶ月間
- 12ヶ月間で3分の2の給与没収
- 最低の給与等級(E-1)への減級
- 懲戒除隊(bad conduct discharge)
高等軍法裁判
高等軍法裁判は軍法裁判の種類で最も重大であり、一般的に殺人、強姦や強盗のような最も深刻な犯罪のために用意されます。高等軍事裁判はあらゆるUCMJの犯罪で起訴されたあらゆる隊員に裁判権を持ちます。
高等軍事裁判は軍の裁判官、被告人、検察側と被告側の法律家、少なくとも5人の軍隊のメンバーの陪審員(陪審員団)で構成されます。特別軍法裁判と同じく、被告人が下士卒の場合は、彼は少なくとも陪審員団の少なくとも3分の1が下士卒の隊員であることを要求できます。被告人は陪審員団を拒否し、彼が望むなら裁判官だけで裁判が行われるよう要求できます。
ヒント 特別と高等の両方の軍法裁判で、被告人は望めば、自費で民間人弁護士に代理させることを選択できます。
高等軍事裁判は(被告人が犯したと判明された犯罪について)軍法裁判取扱書が認可する(死刑を含めた)あらゆる判決を下せます。
第15条 司法外の処罰
司法外の処罰はずば抜けて、軍隊の司法システムの下で最もよくある種類です。軍隊の隊員がUCMJが取り扱う犯罪に関与したら、指揮を執る将校は第15条の下で手続きをとることを決定できます。これは司法外の処罰と呼ばれます。
司法外の処罰は海軍と沿岸警備隊と海兵隊の勤務時間において懲罰委員会(mast)と呼ばれることがあります。
第15条の手続きは、指揮を執る将校が裁判官と陪審員の役割を務めるのを除くと簡易軍法裁判とほぼ同じで、手続きは犯罪記録にはなりません。洋上での艦上を除き、軍隊の隊員は司法外の処罰を受け入れなくても構いません。彼らは第15条を拒否して、かわりに軍法裁判による審理を要請できます。
警告 犯罪に関して無罪であって、それを証明できると分からない限りは、第15条を拒否して軍法裁判を要求するのは普通はよい考えではありません。軍法裁判で有罪になれば、可能性のある処罰はより一層重大で、一生残る犯罪記録を得ます。
第15条の下では以下の権利があります。
- UCMJの第31条の下で黙秘を保つ権利を知らされます。
- 君のために話す誰かを同席させます。しかし、軍の法律家が君の尋問に同席できるようにする必要はありません。事実、ほとんどの司法外の処罰の手続きは軍隊の弁護士がいません。
- 犯罪に関係する君に対する証拠を知らされます。
- 指揮を執る将校が司法外の処罰を科すかどうかとどれくらいにするかを決める上であてにした証拠のすべてを調べることを許されます。
- 答弁、情状酌量と減刑を、口述、書面あるいは両方で争点を提示します。
- 合理的に利用できるなら証人を得る。証人は政府による返済を必要とせず、極度に手続きを遅らせないか、軍隊の証人の場合はその他の重要な任務から免除される必要がないなら合理的に利用できます。
- 指揮を執る将校が正当な理由によって手続きを非公開にすべきと決めない限りは手続きは公開されます。
- 指揮を執る将校は単独で裁判官と陪審員の役割を担います。彼女が疑いのある犯罪に関与したと決定すれば、それから処罰は被告人の階級と指揮を執る将校の階級に従って科されます。
指揮を執る指揮官がO-4以上の等級であれば、最高刑は以下になるかもしれません。
- 書面による警告や戒告(将来の昇進や配置に影響する恐れがある)
- パンと水あるいは量を減らした食料での拘禁。等級E-3以下のみに科すことができ、船舶に配属されるか乗船し、(米海軍と米海兵隊のみ)3日間を超えない。
- 30日間を超えない矯正のための拘禁(拘置の一種)。
- 2ヶ月間の月給の半額までの没収。
- 一階級降格。E-7以上には科せない(海軍、陸軍、空軍)、またはE-6かそれ以上(海兵隊)。
- 45日間を超えない任務の追加。
- 60日間を超えない基地や特定区域への行動制限。
指揮を執る将校の等級がO-3以下なら、処罰は下記のようになるかもしれません。
- 警告や戒告
- パンと水あるいは量を減らした食料での拘禁。3日間を超えず、等級E-3以下や船舶に乗船中の者のみ(米海軍と米海兵隊のみ)。
- 7日間を超えない矯正のための拘禁。
- 7日を超えない給与の没収。
- 一つ下の給与等級への減級。降格した階級が指揮官(OIC)の昇進の権限以内だとしても、E-7以上(海軍、陸軍、空軍)かE-6以上(海兵隊)には科せられません。
- 14日間を超えない任務の追加。
- 14日間を超えない行動制限。
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