韓国政府の反論ビデオを評価
1月4日に韓国国防部が日本の防衛省の主張に対する反論ビデオを公表しました。それについて評価を行いました。
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内容の大半が防衛省が公開した映像をそのまま使っているため、目新しいものがないとか、主観的だとか、防衛省筋からは落胆の声が聞こえてきました。芸能人たちからも北朝鮮の報道映像と変わらないといった声が出ています。
しかし、この映像にはいくつか気になるところがあり、軽視するのは不注意でしかないと、私は考えます。
タイトルを追いながら問題点を説明していきます。タイトルの「3」については、レーダーの照射があったかどうかの説明で、これは現段階では真相が分からないこともあり、先に仮説を提示したこともあって、特にコメントがないので省いてあります。
1. Why did the Japanese patrol aircraft conduct threatening low-altitude flight at the site of a humanitarian rescue operation?
(なぜ日本のパトロール機は人道的救助活動の現場で脅威を及ぼす低高度の飛行を行ったのか?)
この疑問提起に対する日本人の反応は、それがパトロールの任務で当たり前だというものですが、それはやや観察力に欠けると言わざるを得ません。
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防衛省のビデオ映像をみると、海洋警察の艦船に接近する前にP-1対潜哨戒機のクルーが「クァンゲト・デワンは回頭中、240度まで回頭している。」と言っているのが分かります。海洋警察の艦船に接近する前に艦名と針路を把握しているわけです。そこまで分かっていたのに、P-1はさらに接近して駆逐艦の真後ろを通過します。この飛行が必要だったようには思えません。パトロールなら広開土大王と海洋警察が救助活動をしていることを把握すれば済むにも関わらず、わざわざ接近して偵察活動を行ったことは不要な危険行為だというのが韓国の主張だと思われます。これには一定の説得力を認めます。
2. Japan claims to have complied with the international low - is it true?
(日本は国際法に従ったと主張します。それは本当でしょうか?)
これについては前に書いたように、日本の主張には疑問があります。ビデオ映像の中では哨戒機が民間航空機に適用される国際民間航空条約に従ったと主張していますが、それは軍用機には適用されないものです。
ところが、1月4日深夜になって佐藤正久外務副大臣が韓国駆逐艦の行為は「国際ルールCUES違反」だと言い出しました。(以下文中の「CUSE」は誤記です。
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本日業務終了。今から韓国の英語版反論ビデオを見たいと思う。問題の原点は、隊員の命に関わり、国際ルールCUSE違反であり再発防止が絶対必要だということ。
また哨戒機は戦闘機ではなく、戦闘能力上、離隔距離約500mだと駆逐艦にはとても歯が立たない。戦車に偵察車が近づいても怖くはないと思うが。
更に、P-1哨戒機の全長は約35m、韓国駆逐艦「クァンゲト・デワン、DDH-971」の全長は約135mと約4倍だ。この反論動画のサムネイル写真、なんか変!
このレーダー照射問題、自民党国防議連のメンバーでも、再発防止の観点から議論してみたい
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どうやら国際民間航空条約は傍証に過ぎず、本陣はこちらにあったようです。しかし、これは公開済みのビデオ映像の中ではまったく触れていないことです。主張を大きく変えることは問題解決を長引かせます。
CUESとは「海上衝突回避規範 」のことです。海軍の艦船と航空機が予定しない遭遇をしたときの対処方法を定めています。2014年に西太平洋海軍シンポジウムで成立したものですが、国際条約ではないので遵守義務がありません。また、佐藤副大臣は「国際ルール」と言っていて、世界共通ルールのようですが、実際には西太平洋地域の海軍にしか関係がありません。従って、これを根拠に韓国に謝罪や関係者の処罰を求めても、応じられるとは思いません。
さらに傍証である高度については、軍用機に適用できない国際民間航空条約が根拠ですから、日本側の主張にはほとんど根拠がないということになります。
一方、韓国が主張する接近については、海上衝突回避規範には艦船同士の場合にしか詳細な定義がなく、航空機と船舶については記載がほとんどありません。強いていればCUESの精神に反するような接近だったといえる程度の話です。
つまり、両者の主張にはいずれも根拠がないということになります。完全にどちらも腰砕けです。
一応、日本が主張していると考えられる部分を書いておきます。
a)で指揮官が避けるべきこととして模擬攻撃があげられています。砲、ミサイル、火器管制レーダー、魚雷管、その他の武器で遭遇した艦船や航空機の方向を照準することはやめようということですが、禁止するという厳しい表現ではありません。
火器管制レーダーを照射したことが模擬攻撃にあたるというのが日本の主張ですね。タイトル3で、砲が哨戒機を向いていなかったのだから、攻撃の意図がないことは明らかだという反論があります。
4. The Japanese patrol aircraft's communication was unclear
(日本の哨戒機の通信は不明瞭でした)
実は、これが一番気になっているところです。ビデオ映像全体にバックグラウンドミュージックがつけられています。無線音声が流れるところでは音楽の音量が小さくなるものの流れたままです。そこへ無線音声が流れるので、余計に聞きにくくなっています。
これはあるいは意図的に行われたことかもしれません。多くの人は演出のためにバックグラウンドミュージックがつけられたと解釈し、その演出を陳腐だと笑います。しかし、本当の目的は無線音声を聞き取りにくくするためかもしれません。
現場では実際に通信士には聞き取りにくい音声だったかもしれませんが、録音を聴き直すと聞き取れるレベルであったため、そのまま出せば反論の材料にされてしまいます。
仮に無線音声のノイズがあとから付け加えられたものだとします。そこにバックグラウンドミュージックを付加することで、音声解析により後付のノイズであることは解析できなくなります。
防衛省は韓国国防部にバックグラウンドミュージックのないバージョンを公開するよう要求すべきです。
以上、韓国国防部が公開したビデオ映像について説明しました。
ここまで読んでくると、韓国に謝罪や処罰を求めるよりは、海上衝突回避規範の改正へ向けた動きへと変えるほうが建設的であることが分かってきます。
海上衝突回避規範を国際条約へ昇格させること。これまでの経験を踏まえて、艦船と航空機の遭遇における安全距離などの基準を構想し、制定すること。無線通信の方法も詳細を定義し、より意思疎通がしやすいものとすることなどが考えられます。
そのために日本政府が先陣を切って関係国に呼びかけることは、まさに平和国家である日本らしい行動であり、国際社会において名誉ある地位を占めるための活動となるでしょう。