また軍施設での聖書展示で訴訟が発生

2019.8.21


 military.comによれば、国内最古の戦時捕虜・行方不明者の追悼式を行う退役軍人グループは、マンチェスター(Manchester)のニューハンプシャー退役軍人病院(New Hampshire VA hospital)で、ロビーの展示において元戦時捕虜の聖書が呼び物となり得るかどうかを中心とした訴訟に団体を介入させるよう連邦裁判所に求めています。

 北東戦時捕虜・戦闘中行方不明者ネットワーク(The Northeast POW/MIA Network )は連邦地方裁判所で、ある退役軍人が復員軍人援護局医療センターに対して出した、展示の中に聖書の存在は憲法違反だと主張する訴訟における介入者の地位を求めています。

 このグループのニューハンプシャー州のメンバーは、ロビーの展示の制作に責任がありました。

 戦時捕虜だった者たちを讃え、アメリカの戦争で戦闘中に行方不明になった者たちの記憶を存続させるために 、30年間にわたり毎週木曜日の夜、グループはニューハンプシャー州のメレジス(Meredith)で追悼式を行っています。未だに行方不明の者たちを忘れないために団体は毎年6月、ウィニペソーキ湖(Lake Winnipesaukee)の湖畔へ数百人を集わせる、戦時捕虜・戦闘中行方不明者年次追悼式の後援も行います。

 昨年、ネットワークのニューハンプシャー州のメンバーは、マンチェスターの退役軍人医療センターのロビーに「行方不明者のテーブル」を置くことを求めて、許可をもらいました。こうした展示は戦時捕虜や戦闘中行方不明になった隊員を追悼するものです。

 マンチェスターの展示は、第2次世界大戦で米陸軍航空隊に勤務し、捕虜になり、脱走するまでドイツの戦時捕虜として拘束されたベッドフォード(Bedford)の男性、ハーマン・“ヘルク”・ストレイトバーガー(Herman "Herk" Streitburger)が寄贈した聖書を含みます。現在百歳のストレイトバーガーは最近、ニューハンプシャー・サンデー・ニュース(New Hampshire Sunday News)の記事で取り上げられました。

 しかし、展示はすぐに物議を醸しました。ニューメキシコ州に拠点を置く軍隊の宗教の自由財団(The Military Religious Freedom Foundation)は、聖書の展示が憲法違反だと主張する原告に指名された退役軍人ジェームス・チェンバーレイン(James Chamberlain)の代理で連邦訴訟を提訴しました。

 テキサス州に拠点を置くファースト・リバティ協会(The First Liberty Institute)は、訴訟に介入する動きにおいて、北東戦時捕虜・戦闘中行方不明者ネットワークの代表を務めます。木曜日に出された法廷書面の中で、弁護人はベトナム戦争にはじまる行方不明者のテーブルの伝統を説明し、そうした展示は、マサチューセッツ州のアソール(Athol)の公共図書館、デラウェア州のウィルミントン(Wilmington)の退役軍人病院を含む国中の公開フォーラムで不変の特徴となっていると指摘しました。

 典型的には、こうした展示は、彼らの悲惨な運命を表すためにレモンのスライス、彼らの愛する人の涙を表す塩と、彼らが乾杯に参加できないことを示す逆さまのコップを含む行方不明者のシンボルから成っています。

 先月、こうした展示を運営する政策を明らかにするファーストフードリバティからの要請にこたえて、復員軍人援護局は「退役軍人施設の公共エリアでの静的な展示には宗教的シンボルが含まれることがある」という更新された指示を出しました。

 ファースト・リバティへの書簡の中で、復員軍人援護局聖職者部の国内責任者、ジュリアナ・レッシャー(Juliana Lesher)は、7月3日の指示は合衆国憲法修正第1条を擁護することを意図すると言いました。それは政府が一つの国家宗教を確立しないことを保証し、すべての人々による信仰の自由な活動を保証します。

 訴訟を却下する動議に関する公判前審理は9月16日に設定されています。


 合衆国憲法修正第1条は次のような条文です。

議会は、国教の樹立を支援する法律を立てることも、宗教の自由行使を禁じることもできない。 表現の自由、あるいは報道の自由を制限することや、人々の平和的集会の権利、政府に苦情救済のために請願する権利を制限することもできない。

 軍隊や公共施設において、キリスト教のシンボルが用いられることは、しばしばアメリカで問題になり、訴訟が起こされています。当サイトでは過去に何度もそうした訴訟や争いを紹介してきました。これはまるで、日本における靖国論争のようです。しかし、日本ではアメリカでの宗教論争はほとんど報じられません。

 今年、メリーランド州の公有地にある十字架の追悼碑に関して最高裁判所が下した判決が批判されました。(過去の記事はこちら

 昨年、沖縄の米軍基地で、追悼のための展示の中にある聖書が問題視されました。(過去の記事はこちら

 2011年には、海兵隊ペンデルトン基地の十字架の追悼碑が問題視されました。(過去の記事はこちら

 2010年には、 ノースカロライナ州キング市の退役軍人の追悼碑にある十字架の形をした像とキリスト教を表す旗が問題となりました。(過去の記事はこちら

 このように何度も軍隊内の宗教に関する問題が起きていて、軍隊内の宗教の自由を求める活動団体まであります。こういう動きは、日本の靖国問題を考える上での参考になります。

 靖国神社を肯定する人は理由など説明しなくてもよいと思うほど、強く自説を信じています。また、否定派も同じように、強く自説を信じています。しかし、これらのアメリカでの宗教論争をみれば、他者からみたときに、特定の宗教が優遇されているように見えるのは、たしかに不愉快なのだろうと思います。

 戦争が生死に直結することなのは疑いようがなく、それだけに人びとは心の安定を求めて宗教へ向かいます。軍隊に関する宗教の問題は避けられないものかもしれません。単純な解決はないと知ることから考えるべきでしょう。

 


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