1万人以上のイスラム国戦闘員が残存か

2020.8.27



 military.comに よれば、民兵グループが打ち負かされてから2年以上の後、1万人以上のイスラム国戦闘員がイラクとシリアで活動中のままと見 積もられ、今年大きく増加したと、国連対テロリズムの責任者は月曜日にいいました。

 ウラジミール・ウロンコフ(Vladimir Voronkov)は、イスラム国戦闘員は「2カ国間を小さなセルで」自由に移動すると国連安保理にいいました。

 彼は、IS、ISILとISISとして知られるイスラム国過激派グループは再結集して、その活動はイラクとシリアのような 紛争地域だけでなく、いくらかの地域的な提携者においても増加しているといいました。

 「しかし、非紛争地域では、脅威は短期的に見れば減少しているようです」と彼はいいました。「ロックダウンや移動制限のよ うなCOVID-19の拡散を最小化する手法は、多くの国でテロリストの攻撃のリスクを減らしているようです」。

 とはいえ、「ネットで触発された個人による、単独や小グループで実行される攻撃の継続的な傾向があり、COVID-19危 機の中でISILの機に便乗したプロパガンダ活動で扇動されるかもしれません」とウロンコフはいいました。

 彼はCOVID-19危機はテロリズムの脅威の殲滅の課題を強調し、広範囲に及ぶ混乱と否定的な社会経済的、政治的なパン デミックの影響につけこもうとするISとその他のテロリストグループによる活動を指摘するといいました。

 しかし、ウロンコフはISの徴用と活動の資金調達についてのパンデミックの影響は分からないままで、指導者のアブ・イブラ ヒム・アル・ハシミ・アル・クライシ(Abu Ibrahim al-Hashimi al-Quraishi)の下での過激派グループの戦略的方向性が変わった徴候は不明だといいました。

 アフリカに目を向けると、西アフリカ地方のイスラム国は「ISILの世界的プロパンダの主要な集中のままであり、メンバー の総数約3,500人は遠隔の地方で最大のものの一つです」とウロンコフはいいました。彼は、グループは大サハラのイスラム 国とのリンクを強化し続けているといいました。「そのグループはブルキナファソ、マリ、ニジェールの3カ国地域で最も危険な グループです」。

 ISはリビアで数百人の戦闘員がいるだけですが、彼らは民族的な緊張につけこんでおり、「より広範な地域的影響における潜 在的な脅威の能力」を示しているといいました。彼は「複合的な攻撃と村落の短期間の占領」を含めて、コンゴとモザンビークの 中央アフリカ地方のイスラム国による攻撃を心配しているとも指摘しました。

 ヨーロッパでは、「主要な脅威はインターネットが主導した、地元発のテロリストの急進化から来る」とウロンコフはいい、フ ランスとイギリスの2件のISILに触発された攻撃を引用しました。彼は「急進化と刑務所での失敗したリハビリとテロリズム の背景とつながりを持つ危険な囚人の差し迫った釈放について強い懸念も指摘しました。

 アフガニスタンでは、ISILの提携者は周到に計画された攻撃を、カブールを含めた国の様々な場所で行っていて、「地域に わたる影響力を拡散するために」アフガンの領域を利用し、アメリカとタリバンの間の最近の和平に反対する戦闘員を惹きつけて いるといいました。

 アジアではISILは4月にモルジブで最初の攻撃を行ったと主張し、東南アジアでの治安部隊への攻撃は、政府の対テロリズ ム作戦が過激派に圧力を与え続けているのに、普通に起きると彼はいいました。

 ウロンコフはCOVID-19危機はシリアとイラクで難民キャンプに足止めされた、特に女性と子供の、ISとつながりがあ る大勢の人々がいる「すでに悲惨で、継続不能な状況」をさらに複雑にしているといいました。「本国送還、起訴、リハビリ、脆 弱な者の社会復帰と保護はいままで以上に緊急となっています」と彼はいいました。
 
 いくらかの国は自国民、特に子供を本国送還しているものの、多くの国はやっていません。

 ウロンコフは、国連事務総長、アントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)の、国際法を実行し、すべての行き場のない女性、男性と子供を母国へ連れて行くという、すべての国への要請を繰り返しました。

 「国際社会がこの課題を達成しない限り、ISILの世界的な脅威は増えます」と国連対テロリズム局の長は警告しました。

 国連大使ケリー・クラフト(Kelly Craft)は、アメリカは事務総長の懸念を共有し、アメリカ国民を連れ戻し、彼らを適切に起訴しているといいました。

 イスラム国は戦場で打ち負かされましたが、「我々はテロリストの外国人戦闘員の集団をシリアとイラクで難民になった彼らの 家族と共にISIS 2.0の核とならないようにするために共に活動しなければなりません」と彼女はいいました。

 シリアの主要な同盟国、ロシアの国連大使、バシリー・ナベンザ(Vassily Nebenzia)は、ISILの世界的脅威は高いままであり、その指導層はシリアとイラクの国境でテロ攻撃を計画しているといいました。

 「同時に、テロリストはイラクに『カリフ』を復活させる計画を諦めようとしません」と彼はいいました。「ISILは戦闘能 力をあげ続け、国内でのテロ攻撃の地域と範囲を拡大しようとしています」。

 ナベンザはISILの組織と戦術は「いまや完全に様々な国と世界の地域の中で、高い度合いの支部の自治と『スリーピング・ セル』をもつネットワーク構造の中に転換されています」といいました。



 ここに書かれているイスラム国の実態は概ね、私も想像するところです。今後、イスラム国が再び活動を活発化させるかはわか りませんが、大きな事件を起こす可能性は低いと思われます。

 記事にあるように、イスラム国の目的は「カリフ」の創設です。自分たちが信じるイスラム教の教えを実践する場、カリフを造 りたいのです。それはつまりは国家建設です。テロ組織と国家の違いは、テロ組織には領域(領土、領海、領空)がないことで す。テロ組織は活動する場所があれば、どこででも活動できます。イスラム国の目標が国家建設である限り、目的達成と同時に国 家が持つ領域の保全という目標が課せられることになります。どこででも活動するのではなく、定まった領域を防衛する活動が主 任務となります。こういうイスラム国の活動目標は最初から矛盾をはらんでいると思うのです。

 かつてイスラム国は紙幣を発行しました。これは国家となりたがる彼らの意志を反映していました。しかし、それはテロ組織が 国家となりたがることであって、目的を達成した途端に、領域を持たないテロ組織の利点は失われることになります。

 ここで比較できるのはクルド人です。国家を持たない民族として、軍隊まで持っているクルド人は、最初から領域を守る意志を 持っています。いつかは国際社会に認められて、国家となるためにクルド軍はジュネーブ条約を守り、捕虜を適切に待遇している と宣伝しています(ここは自衛隊とは大きく違うようです)。

 国家となった途端、イスラム国は彼らを敵視する国から攻撃を受けます。もちろん、その前には領土を奪うために、誰かを追い 出す必要があるので、そこでも武力紛争を持つことになります。

 国防は領域が持つ地理的な特性に左右されます。日本が島国という特性を持っているように、地理的特性からくる軍事的な有利 不利に左右されます。その場所がシリア、イラク国境地帯だとすると、特にイラクから激しい攻撃を受けると予想されます。そん な環境で国家建設が可能かというと、非常に難しいように思えます。頭数が揃うと、イスラム国が地域を占領するための活動をは じめるかもしれませんから、それを警戒する努力が必要でしょう。

 それ以外の、ローンウルフ型のテロ事件は今後も予測が難しいままです。しかし、大規模テロは難しいと思います。
 

 


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