2014年2月の投稿

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投稿者:こうすけ
日 付:2014.2.7

スパイクさん、こんにちは。以前にも質問させていただいた者です。いつも勉強
させていただいております。

さて、2月6日の「脱原発で日本が核保有国になる?」という記事についてです
が、確かに軽水炉だけでは兵器級プルトニウムを作れませんが、この使用済み核
燃料を高速増殖炉「もんじゅ」で再処理すると兵器級プルトニウムができると聞
いています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/プルトニウム#.E5.8E.9F.E5.AD.90.E7.82.89

外務省のS氏がいう「脱原発」とはこの核燃料サイクル政策をやめてしまうこと
を指しており、「非核保有国の中で唯一、使用済み核燃料を再処理する権利を
持っている」とは「もんじゅ」の運転についてIAEAの認可を得ていることを
指しているのではないでしょうか。

今後ともよろしくお願いいたします。

こうすけ

 現に、再処理施設が存在したわけですから、「もんじゅ」の運転についてIAEAの認可を得ているのは日本だけの権利ではなく、他の国も持っています。ほとんどの再処理工場が閉鎖され、残っているのは数少ないというだけです。「権利」という記述は記者の筆が滑ったためかも知れません。

 肝心なのは、もんじゅから取り出した核燃料が兵器級であるかどうかです。

 2006年12月9日に開催された「核開発を憂慮する会(準)」の会合にて、「もんじゅは、兵器級プルトニウムを62kg(=原爆25発分)生産した」という主張がなされたようです(記事はこちら)。この会合では、旧動燃は「核開発に反対する物理研究者の会」の要請に応えた資料に基づき、常陽ともんじゅの使用済み燃料集合体の数とプルトニウム240と241の密度分布から、239の同位体純度を計算して弾き出し、そこから原爆を生産できると結論しているようです。つまり、理論的な話だけで、実際に、もんじゅの使用済み燃料からプルトニウム239が取り出されたとは書いていません。

 こうした主張は、反原発の立場の人たちから、数多く出ています。もう少し中立的な意見がないかを調べたところ、非営利組織「The Public Education Center」のウェブサイトに2012年4月9日付けの記事が見つかりました(記事はこちら)。アメリカは日本に秘密の核兵器施設へ出入りさせ、多額のアメリカ国民の税金を投じた研究を渡し、1980年代以降、兵器級プルトニウム70トンを生産させることを許したという内容です。そこから気になる部分を抽出しました。

  • National Security News Serviceの調査は、CIAの調査によると、1960年代以降、日本の秘密の核兵器計画をアメリカが知っていたことを見出しました。
  • レーガン政権時、アメリカが中国に100億ドルの原子炉を販売した後、機密のテクノロジーの譲渡が始まりました。日本は機密のテクノロジーが潜在的な敵国に売られたと抗議しました。
  • こうした引き渡しは法律で禁じられていましたが、ブッシュ政権は機密のテクノロジーと核物質を日本に渡す許可を与えました。
  • 米エネルギー省のサバンナ・リバー核施設(Savannah River Site)とハンフォード核兵器施設(Hanford nuclear weapons complex)から高度に機密のプルトニウム分離技術が、100億ドルの価値がある増殖炉の研究が、ほとんど核拡散の防護なしに、日本に引き渡されました。日本の科学者と技術者は両施設への出入りを与えられました。
  • 日本は核兵器を配備することを控え、アメリカの核の傘に入っていましたが、National Security News Serviceは日本が中国、インド、パキスタンを合わせたよりも多い核兵器の材料を蓄積するために、電力会社を利用してきたことを知りました。
  • IAEAは見て見ぬ振りをしました。
  • カーター大統領は、プルトニウムが世界の安定に莫大な影響を持つことを知っていました。プルトニウムは核爆弾の構成物を得るために最も難しいものです。後進国やテロリストグループすら、いまやプルトニウムや濃縮ウランを核兵器へ転じる技術を持っています。しかし、プルトニウム精製やウラン濃縮は極めて難しい、高くつく作業です。カーター大統領は、プルトニウムとウラニウムの拡散を防ぐことで、核兵器の拡散を防ごうとしました。
  • 彼はプルトニウム拡散を防ぐ、核不拡散政策の基礎を作りました。カーターが大統領になって、1978年に不拡散法を議会に強引に通した時、日本人はショックを受けました。それはすべてのウラニウムとプルトニウムの出荷に議会の承認が必要であると定め、沢山の機密の核テクノロジーを日本から遮断しました。カーターは、日本が核兵器に使用できる核テクノロジーと物質を渡さないと決めました。
  • 事実、日本は20発以上の核兵器を製造できる、70kg以上の兵器級プルトニウムを、東海再処理施設で起きたアクシデントによって不明にしました。
  • フランスとイギリスの再処理工場が日本に返すプルトニウムは核兵器に使えるほど純粋で、その一部はアメリカで採掘されたウランです。

 記事は、日本の原子力発電事業とロケット開発事業すべてが、隠された核技術開発だとしていますが、日本人には受け入れがたい説明が多く含まれています。アメリカが中国に原子炉を売ったことで、日本が核兵器を手にするという目的を隠し、アメリカから原子爆弾を製造できる原発システムを手に入れるとは考えにくいものがあります。そんな工作を弄するような、高度な業を駆使する政治家や官僚が日本にいたとすれば驚きです。私のイメージでは、彼らはアメリカの不興を買うことを恐れるだけで、何かと言えば、「アメリカに逆らったら、CIAに暗殺される」といった弱気のセリフしか聞こえてこないという記憶しかありません。また記事は、肝心のもんじゅのプルトニウムについては、あまり触れていません。

 プルトニウム70kgの行方不明は、東海村のプルトニウム第3開発室で、プルトニウムが施設のあちこちに引っかかり、搬入した重量と搬出した重量に70kgの差があるとされた事件です。施設をクリーニングした結果、本当にみつからないのは10kg程度という結果でした。2003年、文部科学省は、東海再処理施設で206kgのプルトニウムが行方不明だと発表しましたが、後に、本当に行方不明なのは59kgだけだったと修正しました。だから、日本が70kgの兵器級プルトニウムを生産したという結論は正しいとはいえません。

 核爆弾を生産できるかどうかは、何を持って兵器級とするかという問題によって結論が別れます。軽水炉のプルトニウムからも原爆ができるのは間違いがありません。それをもって、原爆を作れると言うことはできるでしょう。しかし、その弱い原爆を使い、核保有国から報復の核攻撃を受けるなら、それは意味のある兵器とは言えません。この観点からは、核兵器は作れないと言えます。こういう爆弾を持つことに意味があるのはアルカイダのようなテロ組織だけです。彼らは、場所を選ばずに行動でき、守るべき「領土」を持ちません。こういうテロ組織に対しては、核による報復攻撃は困難なのです。

 この程度の兵器を作る可能性を残したいから、原発を維持したいという意見は陳腐だと思いますそのような兵器をあてにして、戦争ができるとも思えません。この弱い選択肢をあてにするくらいなら、別の通常兵器による選択肢の方が有効でしょう。前にも書いていますが、核保有国同士も、譲れない場面では、相手の言い分を突っぱねています。核兵器を持てばなめられなくなるという発想は、実は現実的ではありません。

 政治家や官僚から、こういう意見が出てくるということは、政界、官界にこういう見解が多くあるということです。これは警戒しなければならないことです。

 肝心なことを書き忘れました。もんじゅの話に戻ります。

 wikipediaの「高速増殖炉」の記事にあるように、日本とフランスは燃料棒を短期間で取り出す、核物質をより多く手に入れる作業はしておらず、そのためにIAEAから稼働を認められてきました。本当に62kgの兵器級プルトニウムを生産したかは、生産したプルトニウムを兵器級から落とすための措置を行ったかは、もう少し調べないと分かりそうにありません。

 もんじゅが兵器級プルトニウム62kgを生産したとしても、核兵器を開発する上で、テスト用に消費する分を差し引かなければなりません。原発何発分という表現も、一発にどれだけのプルトニウムを使うかにより、大きく変化します。一発分に使うプルトニウムが5kgなのか、それよりも多いのか少ないのかは、技術力により左右されます。20発の原爆を作れても、それが抑止力として機能するとは思えません。それは抑止力というよりは、相手と刺し違える覚悟で使う核兵器でしょう。到底、政界や官界にある期待には応えられそうにはありません。

 

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