内閣から出たUFO肯定発言に関して、各方面から様々な見解が出ています。中には便乗で目立とうとしているだけの人もいるようですが、あまりにも情けない思いがしています。
石破防衛大臣や町村官房長官は、第一次UFOブームの影響をもろに受けた世代です。このブームは1950年代に入って起こり、1957年生まれの石破大臣、1944年生まれの町村官房長官は、その頃に発表されたUFOに関する情報に染まって育ったのでしょう。普通の人なら、中学生くらいでUFO目撃談の嘘に気がついて熱が冷めるのですが、中には大人になっても信じ続ける人がいます。私はそういう男性を過去に2人ほど知っており、彼らの熱いUFO談義を聞かされたことがあります。「宇宙人は人間を観察するために地球に来ている」といった話を嫌になるほど聞かされました。宇宙のどこかに生命体がいることは疑えませんが、それが円盤に乗って地球に来ているという話は荒唐無稽です。地球に来られるほどの生命体なら、ロズウェルで墜落して、地球人に解剖されるようなヘマはしないでしょう。
石破防衛大臣にしろ町村官房長官にしろ、UFOブームの宇宙人像に染まりすぎ、人類型の宇宙人を前提に話をしているように見えます。宇宙生命体はまだ確認されておらず、その生態も分からないのに、外国からの侵略と同じように考えるのは誤りの元です。
まず、宇宙人が我々とコミュニケーションを取れるかどうか自体が分かりません。よって、戦争に関する法律を適用するのが妥当かどうかは分からないのです。ところが、石破大臣はUFOが領空にはいることを「領空侵犯」と表現しました。確かに、実際にUFOが日本の領空内に入ったことが確認されれば、航空自衛隊が対応することになります。しかし、自衛隊法が対象としているのは「外国の航空機」であり、他の惑星の宇宙船は対象ではありません。スクランブルで外国の航空機ではなく、宇宙人が乗った宇宙船である可能性が出た場合は自衛隊は手が出せないことになります。そうした問題を石破大臣は一切説明しませんでした。
そして、それが宇宙人の侵略であった場合、戦争に関する法律を適用することは妥当ではありません。彼らがどんな戦争法規を持っているかが分からないのに、一方的にこちらの戦争法規を適用することは倫理的にも、戦略・戦術的にも妥当ではないからです。この場合、既存の戦争法規は棚上げとして、実際的に有利な戦略・戦術により方策を考えていくことになります。
また、石破大臣が気楽に「領空侵犯」という言葉を使ったのには大きな問題があります。領空は領土の海岸線(正確には基線)から12海里(約22km)までと決められています。これは確定的な数字ですが、問題はどの高さまでが領空で、どこからが宇宙空間なのかについては、はっきりしていません。そこには技術的な問題があるからです。低高度で人工衛星を飛ばしたい国は「領空侵犯」との批判を避けるために、できるだけこの境界線を低くしようとします。それができない国はもっと高いところに設けようとします。高度100kmあたりが妥当な線らしいですが、スペースシャトルのように高度80km台を飛ぶ機体を持つアメリカは、高度80kmに線を引きたがっています。ところが、もしUFOが地球に来るとすれば宇宙空間からやってくるわけです。彼らは高度80kmとか100kmで騒いでいるレベルを遙かに超えた技術を持っているはずなのですから、そもそも「領空」という概念を用いること自体、まったく意味をなさないことは明らかです。にも関わらず、石破大臣は記者会見で「領空侵犯」という言葉を用いました。これは宇宙人と人類型と決めてかかっているからではないかと考えられます。こうした固定概念を持つことは、宇宙生命体を考える場合にも、地球の防衛を考える場合でも邪魔になると懸念されます。SF的に発想するなら、隕石のような形をした生命体が、宇宙から地球に飛来した場合を考えてみましょう。その生命体が地表で活動を始め、手当たり次第に近くにある物(人間も含め)を食べ始めたとします。彼らにコミュニケーションの手段がなく、地球上のどんな兵器も通用しないとしましょう。こんな宇宙人相手に既存の戦争法を適用することに意味がないのは当然です。とにかくも、宇宙生命体については何も分かっていないに等しいわけですから、勝手に前提を設けてその範囲でだけ考えるのは危険です。こういう対象については、常に白紙で構えている方が好都合です。
田母神俊雄航空幕僚長が「大臣が言っているから。的確な文民統制の下、粛々と活動したい」と記者会見で述べたのは、私には石破大臣への冷笑のように思えました。また、UFOの能力が分からないから、答えられないが、漫画に出てくるような飛び方をするなら、(対処は)難しいだろう」と述べたのも、現実的な対応を考えた時に当然と思えます。石破大臣はしばしば敵の形態について、自分に都合のよい想定を設定し、その範囲で対策を論じようとする傾向があります。これは軍事を考える上では非常に危険なことです。福田内閣メールマガジン第5号(2007年11月8日発行)で、石破大臣は「テロとの闘いにあたっては、国家が「我々の価値観を全否定するテロ行為は絶対に許さない」という決然たる意思を示し、それを国民が支持することがなによりも大切です。」と述べています。テロリズムは「我々の価値観を全否定」するものばかりではありません。これは、こうした絶対悪を作り出した方が人を説得しやすいため故に、石破大臣が作り出したテロの虚像です。宇宙人についても、自分の主張に都合がよい虚像を作り出し、それを自分が理解している言葉で説明しているだけです。
また、ゴジラの襲来について旧防衛省内で検討をしたことがあるという報道がありました。自衛隊法83条に基づく災害派遣としての出動。ゴジラに対しては「有害鳥獣駆除」の目的で、武器・弾薬が使用できるという結論だったようです。本当にこんな議論をしたのでしょうか。災害派遣は「天災地変その他の災害」への対処が本筋であり、ゴジラが恒常的に日本に襲来するのなら「ゴジラ対策法」を制定すべきでしょう。また、「有害鳥獣駆除」という概念は自衛隊法にはなく、狩猟法(正確には鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)に定義されています。防衛庁が環境省や農林水産省が管轄の狩猟法の概念を流用できるわけはなく、やはり新たな立法を考えるべきです。また、戦後の公務員は知らないかも知れませんが、戦前は軍隊が熊などの駆除を行うことがありました。訓練にもなるので、北海道ではヒグマの駆除に陸軍が出動しています。自衛隊は創立以来、こうした有害鳥獣の駆除は行っていません。北海道で増えすぎたトドを射撃したことはありますが、目的は有害鳥獣駆除でも訓練を名目にして行っていたようで、手法には疑問があります。成果については報道記事はありますが、自衛隊の資料を見ていないので、何ともいえません。現在は警察が担当し、地元の猟友会に丸投げしています。しかし、警察は駆除のための装備品を持っていないので、連絡係程度の活動しかしていないようです。地元の猟友会は頼まれると断れないので、仕事を休んで手弁当で出動します。テレビニュースで見るハンターが爺様ばかりなのは、こうした地域のメンバーは高齢者が多いからです。ゴジラを自衛隊が有害鳥獣として駆除するのなら、「ヒグマや増えすぎたシカも自衛隊が捕ってくれ」という話にならないかがちょっと心配です。こうした現状を、防衛省の人たちは知っていたのかは知りませんが、とにかく「有害鳥獣駆除」を適用するのには無理がありすぎます。
どうも、防衛省にしろ、石破大臣にしろ、既存の概念を無理矢理新しい事態に結びつけようとする傾向があるようです。こうしたことをメディアが批判しないのはおかしいと思います。