復員軍人援護局長にシンセキ大将を起用

2008.12.8



 military.comによると、バラック・オバマ次期大統領は、エリック・K・シンセキ退役陸軍大将(Gen. Eric K. Shinseki)を、復員軍人援護局の長官に指名しました。日系米人がこの職を務めるのは初めてのことです。

 シンセキ大将の起用は、オバマ次期大統領の選択だったと記事は書いています。大将は1999年から2003年まで陸軍総参謀長を務めましたが、ラムズフェルド国防長官と意見が合わず、彼に疎まれて軍を退職しました。シンセキ大将はイラクの治安を維持するのに、数十万人の兵が必要だと米議会で証言しました。ラムズフェルド国防長官は少人数の特殊部隊でイラクに侵攻する作戦を支持しており、シンセキ大将の見積もりはそれに反するものでした。実は、彼の意見は的を得るものでした。記事は2007年の増派の結果、治安が安定したことを理由にあげています。これについて、私には異論がありますが、イラク侵攻に必要な兵数が少なすぎた点には同意します。

 記事はシンセキ大将の器用を全面的に賛同しています。退役軍人からも歓迎の声があがっています。退役軍人に対する米政府の処遇に手厳しい団体「全米イラク・アフガニスタン退役軍人会(Iraq and Afghanistan Veterans of America : IAVA)」の理事ポール・リックホフ(Paul Rieckhoff)ですら、「シンセキ大将は勇気と誠実の経歴を持ち、復員軍人援護局を未来へと導く冒険的な選択です。彼は常に政治よりも愛国心を重んじた男で、イラクとアフガンの帰還兵から高い尊敬を受けています」と述べています。私は、リックホフが米政府の決定を手放しで支持するのを初めて聞きました。

 今回の決定には驚かされ、軽いショックを感じたほどです。シンセキ大将はイラク侵攻に関してまっとうな所見を述べ、国防長官と意見が対立したために辞任した将軍として記憶されていたからです。彼は人種の違いを超えて米軍人から尊敬されています。それは、ベトナム戦争の際、地雷を踏んで負傷したのに、現役に復帰したという鉄人伝説を持っているからです。

 ラムズフェルドが辞任した時、リックホフが書いたコラムを以前に紹介しました(記事はこちら)。その内容と比べると天と地ほどの違いがあります。軍隊では行動力のある人物が信頼されます。NHKが放送したドキュメンタリー番組の中で、白人系の米軍人がシンセキ大将に冷たかったラムズフェルドを批判しているのを見たことがあります。彼は「あんな立派な人(シンセキ大将)を、戦争に行ったことがない人(ラムズフェルド長官)が批判するなんて」と憤慨していました。この番組では、ラムズフェルドがシンセキ大将に意地の悪い質問を浴びせ続け、困惑した大将が軍を去ったと紹介していました。

 オバマ政権としては、この選択は当然かも知れません。イラク戦の誤りに関して象徴的な存在であるシンセキ大将を起用すれば、「オバマ政権はブッシュ政権」とは違うということを明確に示せます。シンセキ大将もオバマ氏が育ったハワイ州の出身です。人種の垣根を越えてアメリカを団結させると主張するオバマ次期大統領にとって、日系人であるシンセキ大将の起用はむしろ考えやすいことかも知れません。退役軍人、特に傷痍軍人たちにとって、シンセキ大将が復員軍人援護局長になることは、精神的な癒しになることでしょう。

 2003年6月のシンセキ大将の退役スピーチが記事の末尾に紹介されています。

君たちは、優れた指導者である前に、君たちが導く者たちを愛さなければならない。君たちは責任感を持たずに指揮は執れるが、それなしに導くことはできない。そして、指導力がなければ、指揮は空虚な体験、不信と横柄で満たされた真空である。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.