スンニ派の自警組織が米軍に三行半

2008.2.29



 スンニ派が米軍に協力するようになって、イラクの治安が安定してきたわけですが、こうした自警団の兵士がイラク政府にも米軍にも失望を感じているという記事がワシントン・ポストに載りました。

 2月8日以降、ディラヤ州(Diyala province)の自警団の数千の兵士が、シーア派の警察本部長を交代させることを主張するために任務を放棄しています。水曜日には、彼らのリーダーが、要求が受け入れられなければ組織を解散させると主張しました。バビル州(Babil province)では、2月に米兵が仲間を殺したことに抗議して、検問所への兵士の派遣を拒否しました。米軍は1日分の警備とパトロールに対して約10ドルを支払っています。無給で参加している者もいます。しかし、給料が安く、支払いが遅いことに不満が出ているのです。また、米軍が自動車を動かすためのガソリンや武器のような必要物資を提供しないことに対する不満が出ています。メンバーをテロリスト扱いするなど、米兵が不適切な対抗をしたことも彼らを怒らせています。いま、自警団を脱退するメンバーが増えています。さらに、こうしたメンバーに対する攻撃が増加しているという問題があります。彼らに対する攻撃は、昨年10月に26回だったのが、今年1月には100回に増え、2月も同じくらいだと米軍は言っています。

 この記事はかなり衝撃的で、イラク状勢を大きく変化させ得る情報だと言ってよいでしょう。これまで、治安の安定に大きく貢献してきたと考えられてきた自警団が危機的な状況にあるのです。これは理解できることです。自発的な志願を基板としている自警団はある意味で中途半端であり、米軍からすれば信用しがたく、扱いにくいのです。彼らに対するサポートが少なかったとしても不思議ではありません。その結果、自警団には強い不満が蓄積されるのです。やはり、こうした組織は定着しなかったかと痛感させられました。

 脱退したメンバーが何をするかが気になるところです。自警団が少なくなるだけの問題ではありません。アルカイダは彼らを自分たちの組織へ取り込むかも知れません。爆弾を道路脇に埋めれば、自警団に参加するよりも儲かるのだから、失業中の者にとっては魅力的なビジネスとなります。今後、スンニ派地域で起きる事件の変化に注意が必要です。テロ事件が増加すれば、派遣期間を12ヶ月に戻す計画が延期されるかも知れず、アメリカ国民のいらだちはさらに増し、大統領選挙にも多いに影響を与えるでしょう。オバマ大統領が誕生すると、イラクからは兵を引き揚げ、アフガニスタンとパキスタンに戦力が集中されます。それは対テロ戦の大きな変化を生みます。

 ひょっとすると、昨年12月に報じられた、登録された自警団のメンバーが実際に検問所に配備されていなかったという記事は、こうした問題から出た可能性があります。この時は、単なる事務処理上の問題とされていましたが、もしかすると…ということも考えられます。



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