13日に退役した海軍少佐が、冷戦中の化学実験で米兵に多大な被害が出ているかも知れないと主張した記事を紹介しました。これについて復員軍人援護局(The Veterans Affairs Department: VA)は、そうした被害は6%だけだと回答したとmilitary.comが報じました。
しかし、去年までに湾岸戦争の帰還兵の約88%の申し立てが処理されており、今年初期までにイラクとアフガニスタンから帰還した帰還兵の90%以上の申し立てが処理されていることを、VAの資料が示しています。VAは、帰還兵のグループの条件が著しく違うので、そのような比較は不正確であり、兵士たちが実験を受けたのは30年以上前で、医学研究は問題とされるような関連性を認めていない、と主張しています。
米国防総省によれば、1962〜1973年の間に、プロジェクト112(Project 112)とプロジェクトSHAD(Project SHAD)と呼ばれた実験に6,440人の軍人が参加し、居場所が分からない者や死亡した者を除いた、4,438人の退役軍人がそれらの実験に参加したことを通知されました。これらの実験の最中、兵士たちはサリンやVXを含んだ、本物、あるいはシミュレートされた化学・生物的な薬剤に知識を与えられることなく曝されました。5月の時点で、VAはこの実験を受けた退役軍人から641件の申し立てを受けており、39件は認められ、56件は審議中で、546件を却下しました。
これを調査している米議会からはVAに対して批判的な声があがっています。冷戦中には、軍の秘密実験に関して、さまざまなうわさ話が囁かれました。それはすでにパルプマガジンに書かれていたUFOと結びつけられ、さらに膨れあがりました。米軍が宇宙人の死体を解剖したとか、地球を宇宙人に売り渡すとかいう話は、なかば真実とされ、この種のテレビ番組が繰り返し放送されていました。いま考えると、それらはまったく不正確な内容でしたが、そうした話を生むほど、冷戦中にはさまざまな出来事があったのです。化学・生物剤の問題も、それらの一環ですが、これは本当の話です。これ以外にも、兵士に本当に被爆させる核実験も行われていました。いずれも「本当」という実感が感じられないほど現実離れしています。敵軍の兵士を使った実験の話は存在しますが、これらは味方に対して行われた実験です。人間は使命感を与えられると何でもやるといわれていますが、これらはその証拠です。
なぜこうしたことを人が行うのかは分かりませんが、その傾向を把握することはできます。祖国を守るための防衛活動は、しばしば味方に対する激しい攻撃ともなり得るのです。たとえば、裏切り者捜しに躍起となり、挙げ句の果てに無実の者を裏切り者として告発・処罰・処刑するといった行為があります。「敵」に指向されるはずの攻撃が「味方」に向けられることには、一種の「倒錯」を感じます。人間は心理の根底では敵と味方を見分けられないのかも知れません。カラスは白色の個体が生まれると、こうした「アルビノ」を取り囲んで殺してしまいます。どこか自分たちと違った者は敵だと解釈する傾向が生物の中に見られます。それに近い性質が人間にもあるのではないかと、私は考えます。動物と人間の自己防衛の比較は興味深い研究になるはずです。その視点から、過去の戦争を眺めることには意義があります。我々が正しいと考えて行っている防衛活動は本当に正しいのかを振り返るために。