イスラエル軍はガザ地区の都市部の外縁部から人口密集地帯に向けて前進したようです。「戦闘は最終段階に入った」とイスラエル政府が発言するようになりました。中部と南部の戦闘状況は明らかではありません。ワシントン・ポストの記事によると、イスラエル軍の戦車がガザ市内に向けて少し接近したとのことですが、具体的な位置までは書かれていません(記事はこちら)。今のところ、中心部で地上戦によって大きな被害が出たという情報はありません。おそらくこれは、ベイトラヒヤ(Beit Lahiya、地図上ではBeit Lahia)など、ガザ市の北部にある都市の防衛拠点が陥落し、イスラエル軍がガザ市市内への進軍をはじめたのだと考えられます。イスラエル軍は地上戦を始めてから、9日目にガザ市内に入ったことになります。イスラエル軍部からは、早く予備役を投入すべきだという声が出ており、政治部がそれを抑えているようです。これは作戦が予定よりも遅延していることを連想させます。やはり、地上戦は計画通りに進んでいないと見て差し支えないでしょう。
しかし、戦況に関する情報は少なく、イスラエル軍の公式サイトに載っている情報も、それほど参考にはなりません。最近、IEDと狙撃手の位置を記入したハマスの地図が発見されたことが紹介されていますが、狭い地域の地図でしかありません(記事はこちら)。地図が発見された場所がガザ北部のアルアタラ(Al-Attara)で、9日付の記事に載ったことから、その前日頃に発見されたのだろうと思われます。
イスラエル軍はハマスに攻撃させて、攻撃拠点の位置を特定し、そこに砲爆撃を送り込んで沈黙させる活動を反復しているはずです。これまでにかかった時間と、ガザ市の面積を考えると、イスラエル軍が占領を完遂するには1ヶ月ほどかかる計算になります。それ以上にハマスが持ちこたえれば、ハマスが全世界から称賛を受けることになるでしょう。もっと早くに終われば、イスラエルが勝ったという認識が定着します。この辺がこの戦争のポイントと見て間違いなさそうです。
イスラエル軍は本国から補給を受け続けられるのに比べると、ハマスは事前に備蓄した物資が尽きると、することがなくなります。だから、ハマスは事前に相当な物資を溜め込んでいたと想像できるのですが、問題はそれがどれくらいあるのかです。イスラエルは補給切れの心配はありませんが、受け入れがたい損害を被ると、撤退を検討するようになります。ハマスの狙いはそこにあります。これは命懸けで、捨て身の戦法です。だから、現在の段階で交渉による停戦が実現することもありません。その結果、ガザ住民に被害が出続けます。ワシントン・ポストの記事によると、犬が死体を食べる姿が、難民キャンプに待避している住民により目撃されています。イスラエルは再びリーフレットを撒きました。それには、「ハマスに手を貸すな。テロリストが少しでも近くにいるのなら、家から待避せよ」と書かれています。この警告に意味がないことは、先に私が指摘したとおりです。記事には、住民とハマスは混在しており、至るところが砲撃されているので、住民がどこに行くべきかは分からないと書かれています。別のワシントン・ポストの記事には、「1階には民間人が、地下室にはハマスがいる」ような状況だと書いています。このため、ハマスを狙って攻撃しても民間人に被害が出るという構造が生まれています。だから、イスラエルは民間人の死はハマスの責任だと言うわけです。国際法は民間人に対する攻撃は禁じていますが、敵に対する攻撃は合法とします。攻撃の際に誤って民間人が死亡した場合は「やむを得なかった」という言い訳ができます。先のリーフレットは、その言い訳のために撒いているのであり、実質的には有効ではありません。
9日付のイスラエルのマーリブ紙による世論調査結果では、ハマスに対する軍事作戦について、イスラエル国民の91.4%が賛成しました。最近行われた世論調査では地上戦に賛成する人は19%に過ぎませんでしたが、短期間で激増しました。前に述べたように、これが脅威が目の前にある時の世論の典型的な変化です。国内メディアの中には19%という数字を杓子定規に解釈して、多くのイスラエル国民はハマス攻撃に反対だと論じたところがありましたが、それは勘違いだったのです。これは日本でも同じ傾向だと考えておくべきです。もし、日本に武力侵攻の危機が訪れたら、大衆は似たような傾向を示すでしょう。
ガザ侵攻には、「民間人の保護」と「白燐弾」という理解しておくべき国際法上の問題があります。
近年の国際法の改正で、民間人の保護は以前よりも一層厳しく守られるべきとされています。しかし、先に述べたような理由で、ガザ侵攻では住民は酷い危険な状態に置かれています。ガザ侵攻に関心がある人は、第4ジュネーブ条約、第1と第2の追加議定書を読んでみるべきです。イスラエルとハマスの双方が国際法を無視している姿が浮かび上がってきます。第4条約第15条には中立地帯の設定が定められていますが、イスラエル軍はそれを示していません。そうすれば、そこがハマスによって利用されると考えているのです。第23条には医療品、病院用品、宗教の行事に必要な物の自由通過が定められていますが、イスラエル軍は物資の輸送を制限しています。現地のNGOからは物資が底をついたとの報告が出ています。陸戦のルールであるへーグ条約では、民間人の被害を減らすために戦域の住民に事前通告するよう定めており、イスラエル軍はそれを守っていることになります。しかし、ジュネーブ条約ではもっと手厚い保護を要求しています。ガザ侵攻では多すぎるくらいの問題が起きています。
ガザ侵攻で白燐弾が使われたことが確実となりました。これは不思議ではありません。2006年のヒズボラとの戦いでも、イスラエルは白燐弾を使用したことを認めています。この問題を考えるには「化学兵器禁止条約」と「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」に目を通す必要があります。これについては、以前に記事を書いたので、それを読んでもらうのがよいでしょう(記事はこちら)。また、globalsecurity.orgの記事が参考になります。
国際法の条文はインターネット上でも簡単に手に入りますから、ぜひとも報道と比較検討してみてください。
ガザ侵攻に関する重要な情報源