ハマスが地下トンネル修理に着手

2009.1.26



 ガザ地区で、当然起きることが起きています。ワシントン・ポストによると、ハマスは、公然と地下トンネルの修理を開始しました。

 記事には一つのトンネルの規模が説明されていました。トンネルの深さは40フィート(約12.2m)、長さは250フィート(76.2m)です。15人の作業員が3ヶ月かけて完成させ、70,000ドルの費用がかかりました。イスラエルはこうしたトンネルが少なくとも300本あると見積もっています。一部のトンネルは出口にテントがかけられていますが、多くのトンネルの工事は日中、日常的な風景の中で行われています。あるトンネルはひどく壊れ、10フィート離れた場所から新しい穴を掘り始めています。

 私の記憶では、イスラエルはトンネルの6割を破壊したと主張しています。しかし、これはトンネル全体を倒壊させ、完全に埋めたという意味ではなく、トンネルの出入口付近に爆弾を落とし、命中させたという意味です。これではトンネルは一部が壊れただけで、他の場所から掘って穴をつなげれば、トンネルは再び使えるようになります。これらのトンネルも近いうちに修復され、また生活物資と武器が運び込まれることになるでしょう。記事には、トンネルを通じて子供向けのキャンデーが運び込まれる様子が紹介されています。

 私は今月1日の記事で、地上戦は歩兵をトンネルの出口まで進めて、それを完全に埋める必要があると述べてきました。長期駐留の可能性もあると述べました。そうしないと、ハマスの武装強化を止めることはできないからです。しかし、イスラエルは中途半端に戦闘を止めました。その結果、ハマスはトンネルの修理に着手したのです。イスラエルは当然、工事や物資搬入の様子を偵察していますが、停戦を既成事実化するためには手が出せません。ハマスは善戦したことが認められ、一層組織の力を増強するでしょう。いずれ、再びミサイル攻撃を始めるとみなければなりません。

 軍事の常識としては、イスラエルの停戦は不可解で、説明できません。戦争では勝っている方が停戦することはありません。実は、湾岸戦争の時にも、アメリカは勝っていたにも関わらず、一方的に停戦を宣言しました。その結果、フセイン政権は生き残り、アメリカは2003年に再びイラクに侵攻する羽目になりました。戦争目的を達成しない停戦が完全な停戦に行き着く可能性は低いのです。ガザ侵攻も同じ未来に行き着く可能性が高いと見なければなりません。

 オバマ政権の樹立が停戦を実現したという報道は理解できないものです。新大統領が就任する日は事前に決まっているわけですから、イスラエルはそれまでに停戦する予定で開戦したことになります。しかし、地上戦が開始されたのは3日で、大統領就任までに3週間もない時期でした。これだけの期間で先の戦争目的を果たすのは不可能です。普通の軍人なら、大統領就任までに地上戦を完了させるスケジュールではないと判断します。

 しかし、戦争の途中で、そのように方針が変更されたのだとすれば、それはイスラエル政府が何かの理由で弱気になったのだとしか考えられません。国際社会の反発がここまで強いとは予想しなかったとか、戦況が予想以上に膠着してしまった、などの理由が想像されますが、いずれも理由としては弱く、戦争遂行を中止するに値するものではありません。戦争においては、強い意志と理性的な判断を両立させなければなりません。それは相撲を取りながら、計算問題を解くようなものです。

 イスラエルの決断についてはっきりとした理由はつけられません。いくつかの可能性は指摘できますが、本当の理由はイスラエル政府の閣僚にしか分からないことです。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.