M855A1はむしろ環境対応装弾

2010.10.31

 M855A1の関連記事を探ると、6月にarmytimes.comや米陸軍の公式サイトに記事()が載っていました。それらの中から重要な陸軍の6月の記事から、装弾の性能に関する記述を中心に要約して、この装弾を再考します。

 今年6月23日に、米陸軍はM855A1の出荷を始めたと発表しました。

 M855A1は1980年代初期から使われてきた5.56mmのM855と交換されます。

 当局者は、M855A1が現在の装弾において見られない様々な重大な進歩をみたと言います。それらには、硬質の目標に対する性能の向上、信頼性の向上、全射程における一貫した性能、正確性の向上、発射時の閃光の減少、弾速の向上が含まれると、彼らは説明します。

 テストで、M855A1は特定の種類の目標に対して、現在の7.62mmボール弾よりもよい性能を示し、過去に別々にされた2つの装弾の性能差をぼやけさせました。

 弾頭は重量を加えたり、追加の訓練の必要なしに、これらの改善を具現化します。

 性能強化弾(The Enhanced Performance Round)は、陸軍の環境への責任に対する関与を直接支援することにおいて、年間2,000トンの鉛を製造工程から除去する、環境に優しい弾頭を含みます。

 ピカティニー兵器庫(Picatinny Arsenal・kmzファイルはこちら)の戦略弾薬システムの計画マネージャーがM855A1の計画を管理しています。計画マネージャーのクリス・グラッサーノ(Chris Grassano)は「陸軍は兵士にとって可能な限り最高の5.56mm装弾を生産するために、先進の科学、モデリングと分析を利用しました」と言いました。

 全体で、陸軍は新しい装弾はすべての期待に達するか、上回るのを確実にするために、すべての100万発以上を発射しました。M855A1は疑いなく、最も完全にテストされた小口径弾です。陸軍は最近、生産率を限定した初期のM855A1の製造を完了し、次の12〜15ヶ月間で2億発以上を生産する、完全な生産率での製造フェーズを始めています。

 M855A1性能強化弾は、陸軍の小口径弾の計画にわたる大規模な環境対応効果が生んだ最初の環境に優しい装弾です。他の環境対応への努力は、5.56mm曳光弾、7.62mmボール弾と環境対応型雷管があります。

 アフガニスタンの兵士は、この夏に新しい改善された装弾を使い始めます。

 さらにWikipediaの記事を紹介します(記事はこちら)。

 M855A1で使用される新しい62グレイン(4g)の弾頭は、単体の銅のコア部分に、19グレイン(1.2g)の鋼鉄製のコーン状の貫通体が重ねられています。M855A1装弾は2009年8月に、試作品のビスマス合金のコアが高温で信頼できない弾道を示したために保留にされました。米陸軍は熱問題を解消するためにビスマス合金(bismuth-tin alloy)を銅に変更しました。


 昨日更新するつもりができなかったので、本日更新を行いました。

 まず、古い記事を参照したM855A1の説明では、ビスマス合金(bismuth-tin alloy)が使われているとしているのがありますが、最終的には銅に変更されている点に注意してください。

 新弾の変更点から気がつくことを書いてみます。

 米軍は政界から環境対応への切り替えを迫られていました。すでにバイオ燃料を航空機に使う試みが行われています。そうした中、鉛を使わない弾を開発する必要があってM855A1が誕生したわけです。鉛弾については、狩猟などの分野ではすでにスチール弾への変更が済んでいて、対応が遅れていた軍隊がようやく追いついたという方が正しいと思われます。文中の環境対応の雷管も、爆薬として使われるトリシネートや硫化アンチモンが有毒とされるので、代替品に交換したものだろうと思われます。

 重い鉛を使わなくなっても、弾頭の重量は旧弾と同じになりました。弾頭の重量は貫通力や弾道の安定に大きく影響します。先端部分を鋼鉄にしたので貫通力が高まったのは当然としても、正確性と弾速が向上したのは火薬を増量したとか、より高い圧力を生む火薬に変更したのでしょうか?。その上で閃光が減ったのなら技術的に大きな進歩ですが、なぜかその点はほとんど書かれていません。おそらく、最も重要な部分は公表されていないのです。

 それからピカティニー武器庫について書いておきます。ここは実態としては武器庫ではなく、兵器研究所です。Google Earthで確認して頂ければ分かりますが、極めて広大な土地に研究所が置かれていることが分かります。その面積を計算してみたら、東京ドーム562個分もありました。これを見るだけで、米軍という組織の巨大さが分かります。同じ道を行こうとしても、日本には無理です。

 本題に戻ります。以上から、兵士たちから出された威力不足と装弾不良の問題がどれだけ解決されたのかを考えるのは困難です。

 鋼鉄の貫通体が硬質の目標に対するダメージを向上するのは当然です。しかし、人体のように軟質の目標に対するダメージについては、何も書かれていません。現場の兵士はM855A1を試射して、硬質の目標にきれいに穴が開くのに驚くかも知れません。硬質の標的での実権は簡単にできますが、軟質の目標に対する実験は粘土を大量に用意しないといけません。よって、固い目標で実験してお茶を濁すことは簡単です。前の記事には、M855A1の弾頭はより早く壊れて、大きなダメージを作ると書いてありました。これはある程度想像できます。弾頭は鋼鉄と銅の2種類の物質を結合して作られています。鉛単体よりも変形はしやすいでしょう。

 29日の解説で、M855A1は目標に命中したときに斜めになっていると解釈したのは私の間違いで、目標に命中したときに斜めになるのです(記事の該当部分は修正、削除しました)。2つの異なる材質で作られた弾頭は、単一の素材で作られた弾頭よりも、元々分離した2つの物質であることにより、命中したときに斜めになり、壊れやすくなるのです。しかし、これはやはりダムダム弾のように、弾頭が割れて傷口を大きくする銃弾を禁止する国際法のグレーゾーンを狙っていると思われます。狩猟の分野でも、十分に獲物を殺す力を持たない弾丸を用いることを禁じています。スズメしか殺せない散弾をカラスに向けて撃ってはいけないということです。ゾッとする話ですが、人間が獲物の戦争においても、このルールは生きています。その点でも、口径を大きくする改修方法は理想的だと思っていました。

 また、弾の形状や重量が変わらず、火薬の変更は不明ですが、弾丸にあまり変化がないとすれば、装弾不良の問題は無視されたも同然です。これは過去のテストで、類似する銃の中でM4小銃は最も悪い成績だったのに、問題なしとされたことにより無視されたのでしょう(関連記事はこちら)。今後、M855A1による装弾不良事件が起こらないかに注目して行きたいと考えます。



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