韓国軍に善戦の可能性

2010.11.27
修正 同日 18:15


 今朝掲載した記事について基本的な数字に誤解があり、その後、新しい報道もあって大幅に書き直すべきであると気がつきました。書き直したものを以下に掲載しました。

 早く韓国軍の砲撃結果の詳細を知りたいものです。当初、反撃したのが遅いとの批判がありましたが、問題はどれだけの砲弾を目標に集中できたかであり、時間はそれほど大きな問題ではありません。韓国軍海兵隊第7砲中隊の名誉のために言うと、それほど悪くない戦果をあげた可能性があります。

 ただし、まだ被害と戦果の分析は基本的な情報の不足により完全でありません。こうした情報は時間が経つほど詳細になり、正確になるものです。あくまで現段階までに出た情報を元に考えてみます。まず、これまでに報じられたことを整理して、23日に何があったのかを確認しました。 (青色は韓国、赤色は北朝鮮軍を示します)

午前 北朝鮮が第4軍団のロケット砲1個中隊6門をケモリ基地へ配備。
午後

北朝鮮がロケット砲2個中隊(12門)を追加。

韓国軍が実弾演習を実施。K-9自走砲4門で南南西4.8kmの洋上へ1門15発、合計60発を発射。
4番砲の砲身に弾が詰まる。

14:34

北朝鮮軍が茂島とケモリ基地から延坪島の指揮所や建物に対して砲撃を開始(推定150発)。

1番砲の砲台に直撃。3番砲の外壁を破壊。
返却するために砲後部に集めた装薬に引火し、火災発生。1番砲と3番砲の電気系統が麻痺。1番砲は火災で使用不能。3番砲は鎮火。
韓国軍の対砲レーダー「AN/TPQ-37」は砲弾を探知できず、発射地点は不明。

14:46 北朝鮮軍の砲撃が停止。
14:47 韓国軍が目標座標が判明している自走砲3門を用いて茂島(ムド)基地の指揮所と建物に50発を応射。
15:12 北朝鮮軍が茂島とケモリ基地から延坪島に対して砲撃を再開(推定20発)。
15:25 対砲レーダーが発砲地点を特定。韓国軍がケモリ基地の発砲地点に向けて30発を応射(レーダー使用)。3番砲が参加し、自走砲4門で攻撃。
15:29 北朝鮮軍の砲撃が停止。

 対砲レーダーが動作しなかったのは突発的な異常か操作ミスでしょう。残念なことですが、こうしたミスはつきものです。

 北朝鮮軍が配備したロケット砲は18門、1門あたりのロケット数は機種により30〜40基です。1個中隊で180〜240基です。茂島基地の砲撃もあるので、最初の砲撃が150発との観測は少なすぎる可能性があります。1個中隊を半分に分け、90〜120基を発射し、残りの30〜60発が茂島の攻撃と見ることができます。

 韓国自走砲部隊は3門を使って50発を茂島に撃ち込みました。ケモリ基地はこの時点では無傷です。

 さらに北朝鮮軍が20発を発射し、韓国軍がケモリ基地に向けて応射すると北朝鮮軍は発砲を停止しました。東亜日報は2回目にも茂島からの砲撃があったと書いています。砲撃の常識として、砲兵は複数の敵から攻撃を受けても、同時にその全てに反撃するのではなく、1ヶ所に砲撃を集中するものです。自走砲隊はケモリ基地だけに照準を合わせたのです。

 しかし、20発という数字はやはり気になります。これはロケットランチヤー1門分にもならない数です。仮にケモリ基地が10基のロケットを発射したとします。これは10秒くらいで撃ち終わります。韓国軍が対砲レーダーで発射場所を特定し、応射するのに数分かかります。ケモリ基地に弾着があり、ロケット部隊に被害が出るか、掩蔽壕に隠れた後に攻撃を中心したかして沈黙します。この頃に茂島基地も沈黙したことになります。これは成り行きとして、納得がいきません。ケモリ基地に被害が出て、北朝鮮軍が作戦を中止したのでしょうか。考えにくいことですが、弾薬が底をついたのかも知れません。

 真相は分からないものの、3個中隊を配備して、1個中隊も使わないのなら、攻撃は頓挫したと言えます。自走砲隊は負けたのではなく、敵の攻撃を阻止したのかも知れません。

 1度目の韓国軍の応射で茂島基地が沈黙し、2度目の応射で短時間でケモリ基地が沈黙したことを考えると、韓国軍の砲撃は良好で、敵基地に致命的な打撃を与えたと推測することができます。これを裏づけるように、北朝鮮軍の無線通信で「ひどくやられている。被害が大きい」という報告交信があったと報じられていますが、残念ながら、どちらの基地かが不明です。

 ケモリ基地では多数の被弾の痕跡が見付かったと言いますが、車両の残骸はなかったのでしょうか。残骸の存在はロケット砲部隊が展開中に攻撃できたことの証明です。それらが見えないのなら、ロケットランチャーは応射が着弾する前に掩蔽壕に入ってしまったのです。

 茂島基地でも交通壕(塹壕をつなぐ壕)が埋没したと報じられています。砲台ではなく指揮所や建物を狙った場合でも、指揮所と砲台は交通壕でつながっており、ここに被害を与えられる可能性は十分にあります。

 もちろん、これは主観的な観察による推定であり、最終的には韓国軍や米軍による分析を待つ必要があります。戦史を見れば、砲撃は目標付近に集中しても、目標を破壊しない場合があります。

 逆に、北朝鮮軍の砲撃がお粗末だった可能性を北朝鮮自身が認めたかも知れません。「祖国平和統一委員会」が26日に出した声明は「韓国海兵隊の砲台に照準を合わせて砲撃した」と述べました。しかし、すべてが内陸部の砲台に向けられたとは信じられないほど、弾着は広範囲です。南端の展望台付近への攻撃は、何を狙ったのかすら不明で、照準を誤ったとしか思えません。

 私が「韓国軍施設9」とした場所は学校であることが分かりました(kmzファイルのダウンロード方法はこちらを参照)。私は北朝鮮軍がこの周辺を狙っていたので軍施設と判断しました。ニューヨークタイムズ紙によると、周辺には市民ホールや中学校がある市街地で、軍事施設はなさそうです。コネストの地図を見ても、ここは小学校であることが確認できます。強いて言えば、校庭は臨時の砲台となり得ます。ですが、この弾着は山腹にある砲台「韓国軍施設7」を狙ったのが、山頂を飛び越えて大きく外れたと見るべきです。目標と着弾点は、ざっと見て約1.3km離れています。

推定発砲地点から市街地への着弾点を結んだ直線。
図は右クリックで拡大できます。

 そして、この外れたロケットが民間人に大きな被害をもたらしたのです。これで北朝鮮の意図が分かりました。前に北朝鮮には韓国軍施設だけわ狙う方法もあったはずだと書きました。彼らとしては、これを行い、正規軍同士の戦いにしたかったのです。本来なら、ロケット弾は島の中心部にある自走砲基地一帯に落ちるはずでした。しかし、砲撃の精度が悪すぎて、弾着が拡散し、民間人を狙った大量虐殺に見えたのです。

 韓国の人たちは、決して失望する必要はありません。恥をかいたのは北朝鮮であり、韓国ではありません。

 こうなると海に落下した90発が現実味を帯びてきます。ぜひともどこに落ちたのか知りたいものです。それによって、北朝鮮軍のロケット砲の精度が分かります。

 さらに、砲座を破壊して実力を見せつけるのが目的なら、なぜもっと精度が期待できる曲射砲を使わず、旧ソ連の設計に基づくロケットランチャーを使ったのかという疑問も湧きます。曲射砲が使えない理由があるのかも知れません。

 砲兵の論理に従うと、目標に対してより多くの弾着を緊密に集めた方が勝ちなのです。その点では韓国軍の方が勝っていたように思えます。

 韓国軍に問題があったとすれば、北朝鮮軍がロケットランチャーをケモリ基地に集結させているのに警戒せず、定例の演習を行っていたことだと考えます。航空偵察を強化するなどしていれば、ロケットランチャーが発砲のために砲座に展開するところを捉え、発砲する前に自走砲の準備を整え、より効果的な応射ができたはずです。

 韓国人は日本人に似ていて、政府批判に傾注しがちです。このため、応射の不手際だけに話が集中していますが、北朝鮮による次なる挑発行為は、軍事常識に則ってまったく別の方法が使われると考えなければなりません。韓国が集中するべきなのは、より効果的な偵察、情報収集と応対する部隊にどのように適切にその情報を伝達するかです。これにより北朝鮮の奇襲効果を殺ぎ、応戦を容易にするのです。

 なお、韓国の自走砲に不発弾が命中したというのは、演習中に砲身に弾が詰まったのが、日本語に翻訳する段階で北朝鮮軍による攻撃とされた可能性があります。当サイトでも24日と25日の記事で北朝鮮軍の砲弾が不発弾だったと説明しましたが、間違いであったかも知れません。しかし、修正するだけの根拠もないので、当面はこのままにします。


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