先日紹介した、ロシアのドミトリー・ロゴツィンNATO特使が「アフガニスタンの麻薬生産高が2001年以降で10倍になった」と言ったのが気になり、資料を調べてみました。(前の記事はこちら)
国連薬物犯罪オフィスの報告書「The Afghanistan Opium Survey 2009」の7ページに載っているグラフが実態を物語っています。
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アフガンの大麻の耕作面積(単位 ヘクタール) |
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アフガンの大麻の生産高(単位 トン) |
2001年だけ、アフガンの大麻畑の耕作面積と大麻の生産高が激減しているのです。翌年には例年並みに復活し、結果としてはロゴツィン特使が言う程度の増加となったわけです。しかし、2001年を境に見ると、前と後では3〜4割は平均して生産高が増えていると言えます。対テロ戦争の成果はまったくなかったことが明らかで、当時、海上自衛隊をインド洋に派遣するために与党が宣伝したことは、やはり何の意味もなかったのは間違いありません。実は、2001年に耕作面積が激減し、そのために生産高も落ちたのは、タリバンが大麻の栽培を禁じたからです。京都大学経済研究所の論文「The Economy of Opium and Heroin Production in Afghanistan and Its Impact HIV Epidemiology in Central Asia.」の9ページに、2000年にタリバンが復活したとき、大麻の栽培や使用を禁じたと書いてあります。これを読んで、私もタリバンが一時的に大麻を禁じ、あとで解禁したことを思い出しました(参考 アハメド・ラシッド著「タリバン」 講談社刊)。こんな基本的な情報はすぐに確認すべきだったと反省しました。
よって、ロゴツィン特使が言ったことは「数字のマジック」に過ぎず、妥当とは言えません。しかし、平均すると大麻の生産は右肩上がりで増えています。2007年まで耕作面積と生産高は増加を続け、減少が見られた2008〜2009年でも、2001年以前よりも高いレベルにあります。ロシアの主張には一定の合理性は認められます。
前述の本「タリバン」によれば、オマル師はタリバンが国際的な承認を得られることと引き替えに、大麻栽培を2年間停止すると宣言したことがあります。アフガンの大麻規制はタリバンに任せた方が簡単だという皮肉な現実を、我々はタリバンに代わってアフガンの大麻問題を解決するために、よく知るべきです。