「ハート・ロッカー」好評発売中!

2010.9.6

 映画「ハート・ロッカー」の批評をやるつもりが、諸般の事情で遅くなりました。すでに、タイトルは発売が始まっています。

 まだ、すべての機能は確認していないのですが、字幕や吹き替えについてはチェックを終えました。私は14ヶ所のシーンのセリフについて、意味が違うとか、問題はないけど直した方がよいと指摘しました。結論から言って、吹き替えについては、私が指摘した事柄がほぼすべて反映されています。字幕は直せるものについて対応してもらえています。このため、字幕と吹き替えで微妙に意味が違っているセリフがいくつか生じました。字幕には字数の制限があり、吹き替えにはセリフを発声する時間の制約があります。字幕監修者にも意見が当然あるわけで、すべて直してもらえるわけではないと思っていましたが、予想以上に対応してもらえたので、私としては満足です。

 私が指摘したのは、単語の軍事的な意味を字幕監修者が十分につかめず、別の意味や、分かりにくい意味に訳した部分だけです。翻訳は人によって訳し方が異なるもので、基本的に字幕の訳はほとんどすべてが問題ないものでした。私の意図は、もう少し訳を正確にして、観客により正確に作品を理解してもらえるようにすることでした。

 修正されたセリフの一例を示します。公開版の字幕では、エルドリッジのセリフ「Be all that you can be.」が、実は米陸軍の新兵採用テレビCMで使われてきたキャッチコピーであることが反映されていませんでした(関連記事はこちら)。過去の戦争映画でも、採用時の印象と配属後の実態の格差を表現するために、新兵募集のキャッチコピーがセリフとして使われてきました。ここは是非とも、それを反映させたいところでした。

 「green zone」はフセイン宮殿周辺の中枢地帯で、米軍が最重要警備区域にしているバグダッド市内の一角です。ここには要塞まがいの米大使館もあります。字幕では「緩衝地帯」と訳されました。しかし、緩衝地帯は対立する勢力の中間地点に設ける非武装地帯を指します。私は「最重要警備区域」と訳し、「グリーンゾーン」とルビを振る案を提示しました。残念ながら、字幕では据え置きとなりましたが、吹き替えでは「グリーンゾーン」と訳されています。国内報道でも繰り返し使われた言葉でもあり、同じ時期に同名の映画が公開されたこともあり、観客も理解してくれるだろうとみなされたようです。

 日本語版は、日本の観客が十分に楽しめる内容になっています。Blu-ray版を観賞したところ、映像も非常に美しく、映画館で観た印象と変わりません。

 同梱の小冊子には、プロダクションノートなどの他に、映画評論家・町山智浩氏の批評が掲載されています。本作を愛国的な作品と誤解する人がアメリカにも多いことを指摘し、映画制作者の本来の意図を的確に指摘している、興味深い批評です。



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