米軍の脱走兵がベトナム戦争後最低に

2011.11.9


 military.comによれば、昨年、米陸軍の脱走率はベトナム戦争以来で最低へと激減し、専門家は景気の失速、より優良な新兵、イラクでの米軍縮小のお陰だと考えています。

 「陸軍は現在、採用する兵士をかなり選べる状態にあります」「そのためにアメリカが提供できる最高の人を陸軍に連れてて来ています」と国防総省広報官、スティーブ・ワーレン中佐(Lt. Col. Steve Warren)は言いました。

 脱走率は、同時多発テロの攻撃に引き続いて実際に跳ね上がり、2001年に4,399人の兵士が持ち場から逃げ、2005〜2006年にイラクが崩壊すると増え始めました。2007年にピークになった脱走率は4,698人に達し、それは陸軍の登録簿の1%のすぐ下で、1970年に記録が利用できるようになってから陸軍の最高の脱走率です。2002年の陸軍報告書は脱走者とAWOL(無許可離隊)の兵士は通常、より多くの要請が兵士になされ、志願の基準が引き下げられた戦時に上昇することを見出しました。こうした脱走は「ストップ・ロス」のような、イラク戦争の一部の間に義務期間が過ぎた大勢の兵士を現役につかせたままにしたプログラムが行われている時にも上昇しました。

 もう1つの要因は、重罪犯、高校中退者、最低の成績の新兵の受け入れを拡大して、陸軍が採用基準を緩めることを余儀なくされたことかも知れません。それは米経済が数十年で最もひどい景気失速に落ち込んだ2008年に変化しました。2010年の会計年度には、僅か1,202人が脱走兵とされたあとで登録簿から抹消されました。この数字は2009年の1,717人から3割減少し、脱走率は1973年以来で最低です。

 経済が新兵のやる気と兵士の保有に一役買う一方で、脱走はより複雑で個人的なことが多いと、バーナード・トレーナー(Bernard Trainor)は言いました。彼は1974〜1976年に米国北東部で海兵隊の採用を指揮し、イラク侵攻の高く評価された歴史の共同執筆者です。「経済は影響力を持つようになりましたが、100パーセントの要素ではありませんし、人々を軍隊に惹きつけ、駆り立てる沢山の他の動機があるので、私はこれ以外のパーセンテージを知りません」とトレーナーは言いました。「よって、彼らはよりよく選抜できるので、より質の高い者を得て、自然に不平の率と脱走率が低くなっています」。

 メリーランド大学の軍事社会学者、デビッド・シーガル(David Segal)は、1970年代に研究家のD・ブルース・ベル(D. Bruce Bell)と共に現象を研究しました。彼はベトナム戦争期に脱走した兵士たちは一般的に、経済や家族の問題、あるいは彼らが軍隊生活に馴染めなかったためにそうしたと言いました。ベトナム戦争の苦々しい遺産と志願制軍隊の初期は軍を薬物乱用、人種闘争、質の低い訓練生で悩ませました。FBI捜査官が海兵隊の脱走兵をトレーナーのニュージャージー州、ガーデン・シティの本部に連れてきて、軍隊内のトラブルの証拠は実質的に毎週ありました。「我々はベトナム期の脱走兵は第2次大戦と朝鮮戦争と似ていることに気がつきました」「彼らは若く、未婚で、教育が低く、精神的な適正が低いと分類され、より低い技術の軍務に、より低い給与等級にありました」と彼は言いました。わがままな兵士が暴力を恐れたり、他の海兵隊員に殺されることを恐れて持ち場を放棄したと言うことは珍しくありませんでした。「脱走兵のほとんどは怠け者で、卑劣な奴でしたが、生活の質と彼らの見解ではリーダーシップがあまりにもひどいために、当時脱走した人たちはかなりいました。それは理性的な決定でした」とトレーナーは言いました。今日の兵士は、徴兵制や初期の志願制の脱走兵よりも、年長で、よく教育を受け、結婚して、より技術のある職務を持っているようだとシーガルは言いました。

 陸軍にも、ベトナム期にはなかった、財政・社会問題に対処する、兵士と彼らの家族を助ける多くのプログラムがあります。

 陸軍は兵士が1ヶ月間無許可離隊をした後で脱走兵と分類します。大半は任務の最初の年を終えていない階級の低い兵士です。

 戦時に義務を放棄した兵士は処刑されることがあります。しかし、陸軍の裁判記録は1990〜2007年に1,213件だけの脱走事件が審理されたことを示し、平均して1年に71件を少し上回ります。その時期の間、少なくとも43,810人が脱走しました。「彼らを追放する普通の方法は、『第10章』と呼ばれている管理分離(administrative separation)、軍事裁判の代用による除隊です」とかつて陸軍弁護士で、ヒューストンの南テキサス法科大学教授、ジェフリー・コーン(Geoffrey Corn)は言いました。


 記事の更新が遅れて申し訳ありませんでした。

 記事にあるように、2007年に米軍の脱走兵が非常に多くなりました。このことは過去の記事で取り上げています(記事はこちら)。

 そういえば、紹介しませんでしたが、米軍にギャングが入隊しているという記事がmilitary.comに掲載されていました。ギャングも軍隊に逃げ込む時代なのです。

 たった4年でこうなったのは、やはり米経済の冷え込み以外に考えようがありません。2008年9月に大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した、いわゆる「リーマン・ショック」によって、 経済が落ち込み、就職が困難になったことから、軍務に未来を求める若者が増えたのです。多くの大学が将校訓練教程を持ち、将校になる訓練を受けやすいアメリカでは、これはごく当たり前のことなのです。軍が運営する学校を出なくても、業績を上げれば高位まで昇進できるというシステムも、若者にチャレンジ精神を与えています。一定期間を務めれば、学歴がない者には進学のチャンスも与えられ、恩給も約束されます。急にアメリカの若者の愛国心が高まったわけではありません。

 この記事の数字は頭に入れておくとよいかも知れません。日本でしばしば耳にする愛国論も、結局は机上に理屈に過ぎません。景気が悪くなると、若者は軍隊に仕事を求めるものなのです。

 これが現在の占拠抗議活動に退役軍人が参加している理由だということも忘れるべきではありません。アメリカだけでなく、ヨーロッパでの経済混乱、テロ問題など、もはや従来の感覚では将来を推し量れない時代へ来ています。それを考える上でも、この記事は重要です。



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