テポドン危機を煽るメディアたち
北朝鮮のロケット打ち上げについて様々な報道がありますが、理解のない内容の記事が多いようです。3月25日付けの記事から問題点を拾い出してみました。
読売新聞の「北朝鮮ミサイル、30日にも破壊命令…二段構え」の記事は、破壊措置命令について何の疑問も指摘していません。
「玄葉外相は24日、沖縄県庁で仲井真弘多知事と会談し、『北朝鮮がミサイルを発射した時、イージス艦とPAC3を展開した2009年を参考に万全を期すよう、政府全体で検討している。必ず沖縄に相談があると思う』と協力を要請した。」と書いています。当サイトで指摘しているように、2009年の対応は間違っていました。さらに「まずイージス艦のスタンダード・ミサイル3(SM3)により大気圏外での破壊を試みる。撃ち漏らした場合は地上配備のPAC2と、2段階で対応する。」と書かれています。
大気圏は高度80〜120kmまでとされており、領空の上限は明確な規定はないものの高度100kmが有力とされます。SM-3は最高高度500kmで目標を破壊でき、実験でも160km以上の高度での実績があるとされますが、これは日本政府が宇宙空間を飛行するロケットを撃墜するという宣言をしたことを意味します。つまり、SM-3が高度100kmを越えてテポドン2号を撃墜したら、北朝鮮は「平和利用の実験用ロケットを日本が不法にも破壊した」という攻撃の口実を与えることになります。それに対するシナリオも用意しているという報道はまったくありません。しかも、墜落してくるロケットの部品はテポドン2号の性能を解析する重要な手がかりになるかも知れないのに、それをPAC-3で撃破してバラバラにしてしまうと言っています。危険が少ない場合は破壊しないというシナリオもないようです。
産経新聞の「金正恩氏が打ち上げる『光明星3号』は金正日の執念がこもったICBM」の中では、「発射統制センターなど電子化された近代的な施設があり、米ケネディ宇宙センターに似ているとされる。」と書かれています。本当に電子化された発射統制センターだと確認が取れているのかは疑問です。多分、記事が言う発射統制センターは発射台を見通せる山の上にある建物のことでしょう(kmzファイルはこちら)。この建物は12×20mと比較的小さく、最小限の設備があるようにしか思えません。多分、打ち上げに招待される科学者やマスコミはここに案内されるのでしょう。ケネディ宇宙センター(kmzファイルはこちら)とは似ても似つかない低劣な設備です。種子島宇宙センターとも似ていません(kmzファイルはこちら)。ロケットは遠くの組立工場で組み上げられ、そこから発射台に運ばれて行きます。通常、他の基地では組立工場と発射台は直線の通路でつながれているのに、北朝鮮は曲がりくねっていて、距離が1.25km程度もあります。ロケットは巨大なクローラーに乗せて立てたままで発射台に据え付けられますが、北朝鮮ではトレーラーで運ぶのです。そもそも施設の間近に民家が点在していること自体が信じられません。これらはすべて工事を最小限度にするために、元々ある土地をできるだけいじらずに細工して、無理矢理施設を建設したことを示しています。
さらに氏名が表記されていない軍事専門家がこう言っています。「東倉里を使う理由は一つしかない。09年より長い射程のミサイルを撃つということだ」。どこも書こうとしませんが、私は今度打ち上げられるロケットはテポドン2号か、その改良型と考えています。改良型なら射程も伸びているかも知れませんが、それほどの変化はないと考えます。当サイトで何度も書いているように、東倉里を使う理由はいくつかあります。元々、この基地の立地は極軌道衛星を打ち上げるために適しています。東に向けて打ち上げれば北朝鮮の本土を通過するために、事故の心配があります。そのため、海に向けて打ち上げるのです。舞水端里の基地と合わせて使うことで、静止衛星と極軌道衛星の両方を開発しようとする意図を実現しているわけです。
産経新聞の「北、新ミサイル基地『東倉里』とは 燃料注入捕捉、米韓軍の空襲 困難」には、「最大の特徴の一つが、燃料供給装置が地下にあることだ。このため燃料注入が始まっても、偵察衛星では捕捉できない。」と書かれています。だから、舞水端里よりも危険な弾道ミサイル発射基地だと言いたいようです。この指摘はほぼ意味がありません。軍事用にこの施設を使おうとすれば、どの道、大きなロケットを発射台に組み付ける必要があります。その時間だけでも破壊するのに十分な時間かも知れません。発射台のタワーには舞水端里にはあるクレーンが見られません。どうやってロケットを組み立てるかは不明ですが、横にして組み立てて、機械で起こすのかも知れません。ノドンは1時間程度で発射できるのに、なぜテポドン2号で大騒ぎするのかまったく理解できません。
また、韓国情報筋として「中国との国境に近く、有事に米韓軍が空襲することは困難」と書かれています。これは話が逆で、平時よりも有事の方が攻撃はしやすいのです。有事なら国境から50kmも離れた場所を空爆するのは難しくありません。「日本の軍事専門家も『地形上、北朝鮮からのレーダー追跡が比較的容易な位置にある』と分析している。」というのも、単に日本列島が軌道上にないから、調査用の船が動きやすいというだけでしょう。
大したことのない危機を大げさに書くなと言いたくなります。明らかに、平和で退屈気味の日本に刺激を与えるための、エンターテイメント感覚で報道が進んでいます。退屈が刺激を求め、意味のない危機の中に身を置かせようとしています。特にテレビは最悪のメディアで、建設的な意見よりも、怒りにまかせた批判を国民に推奨しています。こうなると人々は冷静に考えようとしなくなり、怒るか怖がるかのどちらかで、結論として「専門家にすべてお任せします」ということになります。そして、専門家が訳の分からないことをやっているのです。これが日本の危機管理です。自民党政権時代に確立された間違った対応が、経験不足の民主党政権に引き継がれたのです。
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