アレッポ近郊に化学兵器による攻撃か?

2013.3.20

 BBCによれば、シリアの国営メディアが反政府派が化学兵器を使ったと報じました。

 シリア政府の閣僚はそれを「危険なエスカレーション」で、新しい反政府派が行った「最初の行為」だったと言いました。しかし、化学兵器の監視団体とアメリカは、化学兵器が使われた証拠がないと言いました。シリア政府と反政府派は共に、この攻撃がアレッポの北部にあるカーン・アル・アサル(Khan al-Assal)で起きたと言いました。アメリカは主張を慎重に調査していると言い、ロシアはシリア政府の主張を支持しました。確認されれば、これは2年間のシリア内戦で最初の化学兵器が使われたことになります。

 「テロリストは化学物質を積んだミサイルをアレッポ州のカーン・アル・アサル地域(Khan al-Assal・kmzフィアルはこちら)へ発射し、民間人を中心に15人が死亡しました」と国営メディアSANAは言いました。「テロリストは化学物質を積んだミサイルをアレッポ州のカーン・アル・アサルへ発射し、民間人を中心に15人が死亡しました」と国営メディアSANAは言いました。

 「我々は今朝早くカーン・アル・アサルでの政府の攻撃を耳にして、化学剤を搭載したスカッドを撃ったと信じました」と。アレッポの高等軍事評議会の公報、カジム・サデディーン(Qassim Saadeddine)は言いました。「それから突然、我々は政府がそれらを我々の責任にしたことを知りました。反政府軍はこの攻撃を行っていません」。

 反政府派のアレッポ・メディア・センターは、カーン・アル・アサルに地対空ミサイルが撃たれたあと、民間人の中に窒息と毒物の症例が出ており、政府軍による毒ガス使用の結果が疑わしいと言いました。

 化学兵器禁止機関(OPCW)のアーメット・ウズムク事務局長(Ahmet Uzumcu)は、アセスメントのために探知し得る症状を特定しようとしていると言いました。彼は報道以上の情報は持っていないと言いました。

 ホワイトハウス広報官、ジェイ・カーニー(Jay Carney)は、化学兵器が使用されたという訴えを立証する証拠はないと言いました。彼は詳細は示さずに、何であれ化学兵器を使うことは「重大な結果」をもたらすというオバマ大統領の警告を繰り返しました。

 シリアの情報大臣、オムラン・アル・ゾアビ(Information Minister Omran al-Zoabi)は、86人がカーン・アル・アサルで負傷し、事件を「危険な拡大」だと呼びました。彼は反政府派を支援するトルコとカタールがこの攻撃に法的、道義的、政治的な責任があるとも言ったと、国営テレビは言いました。

 トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相(Prime Minister Recep Tayyip Erdogan)は、化学兵器が使われたことへの関連をすべて否定しました。国営のアナトリア通信社(the Anatolia news agency)は「トルコは化学兵器を決して使いませんし、我々は装備品の中に化学兵器を持っていません。これはシリア政府に利益しかない活動です」という首相の言葉を引用しました。シリアは化学兵器で国民を攻撃し、攻撃を続けています」と彼は言いました。

 アサド大統領の同盟であるロシアは、大量破壊兵器が反政府派の手に落ちたという事実は「極めて深刻な懸念」だと言いました。外務大臣の声明は「内戦が新しいレベルへあがった」と言いました。

 シリア政府は膨大な化学兵器を貯蔵していて、それらの安全と使用される可能性は国際的に広く懸念材料となっています。

 シリアの反政府派グループが選出した、反政府派の支配地域の首相、ガサン・ヒット(Ghassan Hitto)を選出は、就任演説でシリア政府との対話を除外しました。「我々はアサド政権との対話の余地がないことを国民に確認します」と、彼はイスタンブールで、記者とシリア国家評議会のメンバーを前に言いました。ヒット氏はダマスカス生まれのIT技術者で、何年もアメリカに住んでいました。

 military.comによれば、シリア政府は化学兵器の攻撃で少なくとも25人が死亡し、86人が負傷し、その一部は重傷だと言いました。

 SANAは、子供を含んだ犠牲者が病棟に見える場所でストレッチャーの上にいる映像を報じました。

 シリア国家評議会は、アレッポ近郊の化学兵器の攻撃をまだ調査中だと言いました。「化学兵器を使う者すべてに、我々は対抗します。誰であっても」とモアズ・アル・カティブ(Mouaz al-Khatib)はイスタンブールで言いました。「我々は化学兵器を使って民家人を殺す者に対抗します。しかし、正確な情報を手に入れるまで少し待ってください」。

 ジュネーブの「the Gulf Research center」のアナリスト、ムスタファ・アラニ(Mustafa Alan)は、アサド政権は反政府派が化学兵器を手に入れたとは言っておらず、「我々は反政府派はそうした兵器を手に入れていないと考えています」と言いました。「私はシリア軍が化学兵器を使い、それを反政府派の責任にしようとしているとは決めつけたくありません」「この政権の唯一の戦略は、反政府派の中傷誹謗と国内で起きる悪いことのすべてを反政府派のせいにするのを続けることだけです」。

 化学兵器を持っているかどうかについて、シリア政府の方針は否定も肯定もしていません。しかし7月に、外務相広報官、ジハード・マクディッシ(Jihad Makdissi)は記者会見で、シリアは外国の攻撃があった場合にだけ化学・生物兵器をつかうと言いました。その後、外務省は、そうした兵器を持っていることを認めないと言い、この問題を曖昧にしようとしました。

 しかし、シリア政府は神経ガス、マスタードガスを持っていると信じられています。それらを搭載できるスカッドミサイルも持っており、一部の人権活動家は火曜日の攻撃はスカッドミサイルによるものと言いました。

 ゾアビ大臣は、毒ガスを積んだミサイルはナイラブ地区(Nairab district・kmzファイルはこちら)からカーン・アル・アサルに発射されたと言いました。

 報じられた攻撃は、反政府派が先月、そこにある広大な政府施設を占領する前に数週間激戦があった、アレッポのちょうど西の地区で起こりました。施設は政府軍の砲撃基地へ姿を変えた駐屯地数カ所と警察学校を含みました。


 まず、化学兵器の攻撃が本当にあったのかを確認するのが先決と思われます。証拠が病院の映像だけでは、情報操作とも考えられるからです。BBCの記事にはSANAが報じたビデオ映像が掲載されいてますが、昨年12月にハリディヤ・バヤダ(Khaldiyeh-Bayada)で毒ガスが使用されたと報じられましたが、あとで確証が得られないとも報じられました(関連記事はこちら )。BBCの記事が、今回の事件が最初の毒ガス使用というのは、12月の事件が疑わしいからです。

 しかし、今回の事件は前回よりも疑わしいように思えます。負傷者の症状は比較的軽そうです。前回の映像では、苦しがっている人たちが確認できましたが、今回はそこまでの患者は見えません。症状が重すぎて無言だとも言えますが、抱えられれば歩けるような人もいます。

 アレッポの高等軍事評議会とアレッポ・メディア・センターが確認した事実が何なのかも知りたいところです。ロケットが飛んで行くところを誰かが目撃したのか、毒ガスによる犠牲者が出たのを目撃したのか、といった情報があるはずです。

 いずれにせよ、反政府派によるものでないことは間違いありません。アナリストのアラニ氏が言うように、もし反政府派に化学兵器を奪われたら、シリア政府は反政府派がそれを使う前に、奪われた事実を公表するはずです。そうしないと、反政府派が使って、自分たちのせいにするかもしれないと考えるためです。

 状況証拠としては、反政府派が首相を選出したのに合わせて事件が起きたことがあげられます。反政府派の地固めを妨害するための工作かも知れません。本当に毒ガスを使ったのか、事件を捏造したのかは分かりませんが、シリア政府はとにかく反政府派の前進に泥をかけたいのです。ロシアがシリアと調子を合わせて、事態を既成事実化しようとしている点も気になり、偶然とは思えません。

 最近、シリアのやり方に変化が出たことに注目する必要もあります。これまでは自力で何とかしようとしてきたのに、積極的に外国を巻き込もうとしています。レバノン領内を攻撃したのも、その一環です。化学兵器による攻撃に外国勢力の関与を臭わせることは、今後は近隣諸国も巻き込んだ内戦をするという意思表示のようなものでしょう。

 だとすれば、今後、似たような動きが次々と起きてきます。そこに注目したいと思っています。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.