最初から進路を間違えた自衛隊の海兵隊

2013.7.26

 産経新聞の防衛に関する記事には間違いが多いのですが、25日配信の『防衛大綱中間報告 島嶼防衛、待ったなし 機動展開能力の充実重視』(千葉倫之記者)にも気になる記述があります。

 自衛隊が愚かにも「海兵隊的機能」という、政界発祥の言葉を採用したため、この部隊は世界配信用に翻訳された段階で外征用と誤解される恐れが出ました。

 産経新聞はすでに「海兵隊機能」と、さらに省略した表記を用いており、いずれは「自衛隊の海兵隊」と書くようになるかも知れません。誤解はさらに広まるでしょう。

 この記事は問題意識なしに書かれたようです。

 自衛隊は現在、島嶼防衛の専門部隊として陸自の西部方面普通科連隊(長崎県佐世保市)を擁している。だが、広大な南西諸島の防衛を担う人員は約660人。いったん上陸を許した離島を奪い返すには装甲の厚い水陸両用車が欠かせないが、今年度にようやく4両が研究名目で導入されるだけで装備面も心もとない。

 「装甲の厚い水陸両用車」と聞けば、素人は水陸両用車が弾を跳ね返しながら海上を進む場面を想像するでしょう。水陸両用車の装甲は大して強力ではありません。米軍の水陸両用車「AAV7」は当初、小銃弾程度にしか耐えられなかったのを、強化策を施して重機関銃に対応できるようにしたくらいです。これよりも強力な重火器の前にはまったく無力です。

 さらにいうなら尖閣諸島の魚釣島を水陸両用車で奪還できると考えるのも間違いです。水陸両用車で上陸できる場所が少ない上に、小高い内陸部から狙い撃ちされる危険があります。この島には水陸両用車が進撃できる場所はありません。だから、徹底した重爆撃のあと、ヘリコプターやゴムボートで地上部隊を上陸させ、残存兵がいないかを調べる作戦です。水陸両用車が使われるのは、もっと広い、たとえば与那国島のような離島です。

 上陸作戦の実施で重要なのは、水陸両用車というよりは、上陸前の砲爆撃です。砲爆撃により、敵や陣地を叩き、抵抗を不可能にしてから上陸部隊を陸揚げするのが定石です。つまり、水陸両用車が上陸するまでには、敵戦力をできる限り減少させるのです。そうしないと装甲が薄い水陸両用車が、乗員と共に撃破されます。

 映画『プライベート・ライアン』で、米軍が敵の猛反撃を受けるのは作戦の失敗であり、ああした状況を軍上層部が想定した訳ではありません。事前の砲爆撃で敵戦力を妥当するのに失敗すれば、現代でも同じことが起こります。

 この記事は、上陸部隊を支援する海自艦や空自機による砲爆撃は十分なのかを心配していません。上陸作戦の支援攻撃も、これから研究、武器購入が必要のはずです。たとえば、飛ぶ砲台のようなガンシップ「AC-130」のような航空機が必要です。空自は一日に何回の支援爆撃ができるのでしょうか?。海自艦の対地攻撃能力は不十分のはずです?。

 記者は勇ましく敵に突進すれば勝てると勘違いしているようです。それは産業革命以前の、英雄が戦場を支配した時代の話です。

 産経新聞はオスプレイの導入にも異を唱えないようです。

 防衛省は米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイの導入も検討しており、実現すれば機動展開能力は格段に向上し、災害対応にも資する。

 オスプレイが完全装備の隊員を本土で乗せて、離島まで飛んで戦うという構図はまず考えられません。洋上に設けた拠点(補給艦など)から発進するの普通です。前に書いたように、オスプレイには様々な欠点があります(過去の記事はこちら )。日本政府の中には、単に米軍と同じなら強いはずという考えでもあるのでしょうか。米軍の戦史を知っていれば、こんなことは言えないはずです。

 それに、防衛省は本気で災害対応にオスプレイを使う気なのでしょうか。ホバリングして、救助用ホイストで要救助者を引き上げる作業は、オスプレイのダウンフォースが強すぎて難しいでしょう。ある映像では、オスプレイから兵士がロープを使って降下する様子が見られます。兵士がローターが作る風の影響を強く受けているのが分かります。(映像はこちら

 もう一つ、オスプレイが地上に混乱が起きるほど、強い風を起こす映像があります。

 いずれも、ローターの径がヘリコプターとしては小さいために起きることで、直しようがない基本設計の問題です。こういう機体で、重傷者を担架に乗せて吊り上げたりできるのかという疑問があります。

 自衛隊の水陸両用部隊については、私は嫌な予感しか持てないのです。


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