アメリカが対ロ制裁強化、ロシアが報復を主張
BBCによれば、ロシア政府はアメリカとNATO軍の軍事活動がロシア国境付近で前例がないほど増加していることに懸念を表明しました。
電話会談で、セルゲイ・ショイグ国防大臣(Defence Minister Sergei Shoigu)もチャック・ヘーゲル国防長官(Chuck Hagel)に、ウクライナ紛争に関する発言を抑えるように要請しました。アメリカはNATOの同盟国を安心させるために東ヨーロッパに追加の兵を派遣し、ロシアに新しい制裁を科しました。制裁はウラジミール・プーチン大統領(President Vladimir Putin)の側近に関連する7人と17企業を対象とします。
その他の展開として、ウクライナ東部のハリコフ(Kharkiv)のヘナディ・カーンズ市長(Hennadiy Kernes)が撃たれて重傷を負いました。親ロシア分離主義者がコンスタンチノフカ(Kostyantynivka)の地方政府ビルを占領しました。ドネツク地方(Donetsk)では、棍棒と鎖で武装した親ロシア活動家が統一派の集会を襲撃しました。数名が負傷しました。
声明の中で、ショイグ大臣はヘーゲル長官と1時間の率直な会談を行ったと言いました。彼は東ヨーロッパでのアメリカとNATO軍の軍事活動には、ロシアを抑圧する必要性についての挑発的な声明がつきものだと強調しました。ショイグ大臣は、ウクライナ国境での軍事演習を行った後で、ロシア軍は定位置に戻ったとも発表しました。しかし、彼はこの地域に派遣されたロシア軍の全体数(4万人とされる)が減ったかどうかは言いませんでした。
一方、ヘーゲル長官はロシアの継続的な攻勢はより大きな外交的、経済的圧力で終わると警告しました。彼はロシア政府に、先週、スラビャンスク(Sloviansk)で親ロシア派のガンマンに拘束された欧州安全保障協力機構(OSCE)の軍事オブザーバー7人を釈放させるのを手伝うよう要請もしました。OSCEのロシア大使、アンドレイ・ケリン(Andrei Kelin)は先に、ロシア政府はオブザーバーを釈放するためのステップを踏んでいると言いました。
分離主義者はスラビャンスクで約40人(オブザーバー、記者、親政府活動家、ウクライナ治安組織3人)を拘束し続けていると、ウクライナ政府は言いました。
アメリカと欧州連合は先月のクリミア半島併合の後で、ロシア高官と企業のメンバーにビザ停止、資産凍結を科しました。月曜日、米政府はロシアのウクライナへの非合法的干渉とウクライナの民主主義を弱体化する挑発的行為への対応で、制裁のリストを追加しました。米政府は4月17日のウクライナ、アメリカ、欧州連合とのジュネーブ会議での成果(暴力や挑発的行為を控えること)に対して、ロシアが責任を果たしていないと批判しました。
セルゲイ・リャブコフ外務副大臣(Deputy Foreign Minister Sergei Ryabkov)は、ロシア政府の反応は米政府にとって辛いものになると言いました。
アメリカの資産凍結とビザ停止を受けたロシア政府高官7人には、長年の同盟者2人が含まれているとみられます。
イゴール・セチン
(Igor Sechin) |
大手石油会社ロスネフチ社(Rosneft)の社長。元KGB職員で、プーチン大統領の最初の2期の首席補佐官代理 |
セルゲイ・チェメゾフ
(Sergei Chemezov) |
ハイテク企業ロステック社(Rostec)。アメリカからは1980年代からの盟友と呼ばれる。 |
アレクセイ・プシコフ
(Alexei Pushkov) |
ロシア議会(国家院)下院の国際問題委員会の議長。 |
対象となった17社の大半は、以前の制裁リストで対象となった個人、アルカディ(Arkady)及びボリス・ロッテンバーグ(Boris Rotenberg)とジェナディ・ティムチェンコ(Gennady Timchenko)と関連があります。
欧州連合は火曜日に別の15人を制裁の対象として指名することになっています。
BBCによれば、親ロシア分離主義者はスラビャンスクで拘束したヨーロッパ監視団8人の1人を釈放しました。スウェーデン人の監視員は医学的な理由で釈放されたことが確認されました。
監視団は日曜日にメディアに出され、監視団の4人の母国、ドイツはこの動きに嫌悪感を示しました。残りの7人はまだ拘束されており、外交は彼らを自由にしようと試みています。監視団と一緒に捕まったウクライナ軍将校数名については言及がありません。
ウクライナ東部では、ガンマンが1ダースの町で政府ビルの占拠を続けています。
その他の展開で、ドネツクの分離主義者はテレビの地方局とラジオ局を占領し、ウクライナ語のかわりにロシアのチャンネルに切り替えるよう要請しました。バラク・オバマ大統領(President Barack Obama)はロシア政府が先週のジュネーブでの取り決めを実行するために指を上げていないと言いました。親ロシア派のガンマンは、ウクライナ治安機関の3人を東部で拘束したと言いました。ウクライナ政府は後で政府職員が拘束されたことを認めました。
プーチン大統領の敵対者で、元ロシアの石油王、ミハイル・ホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)が日曜日にドネツクを訪問しましたが、反政府派が占拠する市役所へ入ることを拒否されました。
OSCEの下で活動する外国人オブザーバーは、ドイツ、ポーランド、スウェーデン、デンマークとチェコ共和国出身です。彼らは日曜日にメディアに登場させられ、覆面のガンマンによってスラビャンスク市役所に連れて行かれました。ドイツ人監視員のアクセル・シュナイダー大佐(Col Axel Schneider)は、彼らはNATO軍の将校ではなく、分離主義者が言う主張に反し、武装した戦闘員ではなく、軍服を着た外交官だと強調しました。「我々は戦時捕虜ではありません。我々はスラビャンスク市長(自称)のポノマリョフ(Vyacheslav Ponomaryov)の客人であり、そのように扱われています」。
記者は後に、グループの1人が男2人に付き添われ、その後に走り去ったOSCEの車両に乗り込むのを見ました。
ポノマリョフ市長の広報官はロイター通信に、釈放されたスウェーデン人は軽症型の糖尿病であり、彼を自由にする決断をしたと言いました。
ドイツは彼らがメディアに出されたことを強く批判しました。フランク・ウォルター・シュタインメイヤー外務大臣(Foreign Minister Frank-Walter Steinmeier)の声明は「OSCE監視員とウクライナ軍を捕虜として衆目に曝したことは極めて不快であり、犠牲者の尊厳をひどく傷つけます」と言いました。シュタインメイヤー大臣は、ロシアは派遣団の他のメンバーができるだけ早くに釈放されるよう、分離主義者に影響力を行使する義務があると付け加えました。拘束された監視員はロシア政府が同意したOSCEの主要派遣団の一員ではありません。彼らはOSCE諸国の出身者であり、ウクライナ政府により招かれたと、機関の本部があるウィーンにいるベサニ・ベル記者(Bethany Bell)は言いました。
先に、ポノマリョフ市長は、ウクライナ政府が拘束した民兵と監視団の捕虜交換があるかも知れないと言いました。OSCEメンバーのロシアは、監視団を釈放されるため、可能性があるすべてのステップを踏むと約束しました。ウクライナ政府派民兵がヨーロッパ人を人間の盾として利用したと非難しました。
military.comによれば、ハリコフのカーンズ市長は地元の幹線道路を自転車で走行中に背中を撃たれました。暗殺未遂とみられます。
アメリカはすでにウクライナに300,000食の調理済み食糧を提供しました。ヘーゲル長官は追加の800万ドル分の非致死性の支援物資(寝袋、発電機、ヘルメット、通信機を含む)をウクライナ軍と国境警備隊へ送ったと言いました。
ミッチ・マコーネル上院議員(Mitch McConnell)、ジョン・マケイン上院議員(John McCain)を含んだ議員数名がオバマ大統領にウクライナに武器を送るよう要請しました。しかし、ホワイトハウスは月曜日に、焦点は非致死性の支援とロシアとプーチン側近への経済制裁だと言いました。
記事は一部を紹介しました。
最近の出来事の中から、気になる部分を抽出しました。まずい展開になっています。
分離主義者の動きが止められず、その動きがロシアの支援で活発化しています。分離主義者はロシアが後押ししているという安心感から、行動を激化しています。このレベルまでくると、自然消滅はあり得ず、ロシアが手を引かない限りは内紛が続くことになります。
ということは、アメリカはロシアがウクライナの転覆を放棄するまで締め付けを強化していくしかないということになります。それが成功するかどうかが紛争終結の鍵です。その成否は難しいように思われます。
プーチン大統領の周辺への締め付けが進んでも、プーチン大統領はやせ我慢をして方針維持を続けなければなりません。妥協すれば、周囲から弱くなったと見られます。それはプーチン派の弱体化につながり、政治的自殺だということになります。ロシアの政治風土からして、それをプーチン大統領が選択するとは思えません。仮に、ロシアの態度が変化するにしても、それはかなり先の話でしょう。
ロシアとしても、いま軍事介入することは得策ではありません。国際世論を納得させるような材料が揃っていません。材料が揃っても、ウクライナ軍の抵抗を考えると、ロシア軍にも相当な被害を覚悟しなければなりません。ただし、民兵がウクライナ軍にゲリラ戦を仕掛け、ロシア軍がそこを攻撃するというシナリオも考えられます。そうなった場合、作戦を成功させることは可能でしょう。その後、どうなるかは話が別です。かつて、アフガニスタンで経験し、米軍がイラクとアフガンで経験したゲリラ戦がはじまると、ロシア軍も成果をあげられなくなり、ロシア軍内やロシア国民にも厭戦気分が広がることになります。こうなると、十年越しの戦争を見なければなりません。日本の対ロ外交にも大きく影響することになります。
あるいは、ロシア国内でウクライナへの干渉に対する反対意見が盛り上がるという展開もあり得ますが、それが政治の流れを変えるまでに発展する可能性はかなり低いでしょうね。将来的には、そういう動きがロシアでも起きるようになるべきですが、今すぐには無理でしょう。
ショイグ大臣が言うとおりに、ウクライナ国境に展開したロシア軍が駐屯地へ戻ったのなら、その徴候は捉えることができます。軍事偵察衛星でなくても、商用衛星が鮮明な写真を提供する現代では、民間組織でも金と能力があれば、この程度の分析はできるのです。今のところ、アメリカからはコメントがないようですから、実際には動いていないのかも知れません。多分、ショイグ大臣は国際世論を静かにしたいので言ったのでしょうが、嘘ならすぐにばれてしまい、アメリカから批判されることになります。どうも、ロシアの手法は古典的な介入でありながら、一般に入手できる情報すら理解していないかのようです。ハリコフ市は、先日、ロシア軍が展開していることが分かっているベルゴロドに近く、その市長を暗殺しようとすることは、この方面での侵攻を検討しているという話になります(関連記事はこちら)。それは理解できるのに、ロシア軍が元の基地へ戻ったかを隠し通せると考えるのは、あまりにも筋が違うように思われるのです。それがクレムリン式の発想だとすれば、今後はそれを予測に反映しなければいけないのかとも思います。
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