何も答えていない集団的自衛権一問一答

2014.7.7


 内閣官房のホームページに、集団的自衛権に関する「一問一答」が掲載されましたが、その内容はひどいものでした。

 政府にとって不都合な質問も含まれているものの、肝心な部分には答えないことで誤魔化しをしているとしか思えません。

 明確に答えたと言えるのは、問10の徴兵制を否定した部分くらいです。

 例えば、問1の「なぜ、今、集団的自衛権を容認しなければならないのか?」については、従来の防衛方針の説明と同じ内容を答えており、何ら変化はないような説明になっています。現在の憲法解釈を変えたくて集団的自衛権行使を決めたのに、前と変わりはないという説明では意味がありません。

 問2については「合理的なあてはめの結果であり」と、変な日本語が書かれています。多分、「合理的にあてはめての結果であり」と書きたかったのでしょうね。

 問5では、「議論が尽くされておらず、国民の理解が得られないのではないか?」との問いに、「この論議は第一次安倍内閣時から研究を始め、その間、7年にわたりメディア等で議論され(後略)」と書かれていますが、政治家としての議論は国会での討議についてのみ数えるべきで、7年間も議論したというのは水増しというべきでしょう。

 問12では、「自衛隊員が、海外で人を殺し、殺されることになるのではないか?」との問いに、「自衛隊員の任務は、これまでと同様、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるというときに我が国と国民を守ることです。」と論点をずらして、答えを回避しています。本来は「これまで以上に海外派遣が増え、自衛官が人を殺し、殺される可能性は増えます」と書くべきでしょう。先に解説したように、管官房長官はホルムズ海峡での機雷除去の可能性があると言っています(関連記事はこちら)。解説したように、これは湾岸戦争が終わったあと、つまり平時に行った機雷除去とは違い、イラン軍との全面対決の中で行われる戦時の機雷除去です。集団的自衛権はこれまでの国際貢献とは違い、「国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守る」ための武力行使ですから、イランがホルムズ海峡を封鎖した時点で、集団的自衛権の行使があり得ることになります。つまり、護衛につく海自の艦隊が接近するイラン軍の攻撃機や船艇に対して攻撃を行うことは当たり前の話です。

 これに関連する問15では「国民生活上、石油の供給は必要不可欠ではないか?」との問いに、「石油なしで国民生活は成り立たないのが現実です。石油以外のエネルギー利用を進める一方で、普段から産油国外交や国際協調に全力を尽くします。」と、またもや話を逸らして答えています。石油が不可欠だから、それに関連する戦争をすることになるという危惧は当然、出てきます。そこに対する質問をあえて自前で用意したのは、国民に石油がらみの派兵に慣れておいて欲しいからでしょう。

 問22は「安倍総理はなぜこれほどまでに安全保障政策が好きなのか?」と、自虐ネタみたいな質問を掲げています。「好き嫌いではありません。総理大臣は、国民の命、平和な暮らしを守るために重い責任を負います。」などと答えていますが、私は安倍総理の軍事的無知は致命的なレベルで、そんな人が総理大臣をやっていること自体に不安を感じます。

 前にも書きましたが、海外の本物の戦争のニュースを読んだ後で、日本の集団的自衛権の記事を読むと、まるで別の惑星の話みたいな違和感を覚えます。それくらいズレた議論しかしていないのが実状なのです。それで戦争をするというのですから、これはもう「坊ちゃんの戦争」としか表現しようがありません。

 以下は一問一答の全文です。

【問1】 なぜ、今、集団的自衛権を容認しなければならないのか?
【答】 今回の閣議決定は、我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増す中、我が国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るため、すなわち我が国を防衛するために、やむを得ない自衛の措置として、必要最小限の武力の行使を認めるものです。

 
【問2】 解釈改憲は立憲主義の否定ではないのか?
【答】 今回の閣議決定は、合理的な解釈の限界をこえるいわゆる解釈改憲ではありません。これまでの政府見解の基本的な論理の枠内における合理的なあてはめの結果であり、立憲主義に反するものではありません。

 
【問3】 なぜ憲法改正しないのか?
【答】 今回の閣議決定は、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために必要最小限の自衛の措置をするという政府の憲法解釈の基本的考え方を、何ら変えるものではありません。必ずしも憲法を改正する必要はありません。

 
【問4】 国会での議論を経ずに憲法解釈を変えるのは、国民の代表を無視するものではないか?
【答】 5月に総理が検討の方向性を示して以降、国会では延べ約70名の議員から質問があり、考え方を説明してきました。自衛隊の実際の活動については法律が決めています。閣議決定に基づき、法案を作成し、国会に十分な審議をお願いしていきます。

 
【問5】 議論が尽くされておらず、国民の理解が得られないのではないか?
【答】 この論議は第一次安倍内閣時から研究を始め、その間、7年にわたりメディア等で議論され、先の総選挙、参院選でも訴えてきたものです。5月に総理が検討の方向性を示して以降、国会では延べ約70名の議員から質問があり、説明してきました。今後も皆様の理解を頂くよう説明努力を重ねます。

 
【問6】 今回の閣議決定は密室で議論されたのではないか?
【答】 これまで、国会では延べ約70名の議員からの質問があり、総理・官房長官の記者会見など、様々な場でたびたび説明し、議論しました。閣議決定は、その上で、自民、公明の連立与党の濃密な協議の結果を受けたものです。

 
【問7】 憲法解釈を変え、平和主義を放棄するのか?
【答】 憲法の平和主義を、いささかも変えるものではありません。大量破壊兵器、弾道ミサイル、サイバー攻撃などの脅威等により、我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しくなる中で「争いを未然に防ぎ、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために、いかにすべきか」が基点です。

 
【問8】 憲法解釈を変え、専守防衛を放棄するのか?
【答】 今後も専守防衛を堅持していきます。国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを、とことん守っていきます。

 
【問9】 戦後日本社会の大前提である平和憲法が根底から破壊されるのではないか?
【答】 日本国憲法の基本理念である平和主義は今後とも守り抜いていきます。

 
【問10】 徴兵制が採用され、若者が戦地へと送られるのではないか?
【答】 全くの誤解です。例えば、憲法第18条で「何人も(中略)その意に反する苦役に服させられない」と定められているなど、徴兵制は憲法上認められません。

 
【問11】 日本が戦争をする国になり、将来、自分達の子供や若者が戦場に行かされるようになるのではないか?
【答】 日本を戦争をする国にはしません。そのためにも、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しくなる中で、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために、外交努力により争いを未然に防ぐことを、これまで以上に重視していきます。

 
【問12】 自衛隊員が、海外で人を殺し、殺されることになるのではないか?
【答】 自衛隊員の任務は、これまでと同様、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるというときに我が国と国民を守ることです。

 
【問13】 歯止めがあいまいで、政府の判断次第で武力の行使が無制約に行われるのではないか?
【答】 国の存立を全うし、国民を守るための自衛の措置としての武力の行使の「新三要件」が、憲法上の明確な歯止めとなっています。さらに、法案においても実際の行使は国会承認を求めることとし、国会によるチェックの仕組みを明確にします。

 
【問14】 自衛隊は世界中のどこにでも行って戦うようになるのではないか?
【答】 従来からの「海外派兵は一般に許されない」という原則は全く変わりません。国の存立を全うし、国民を守るための自衛の措置としての武力の行使の「新三要件」により、日本がとり得る措置には自衛のための必要最小限度という歯止めがかかっています。

 
【問15】 国民生活上、石油の供給は必要不可欠ではないか?
【答】 石油なしで国民生活は成り立たないのが現実です。石油以外のエネルギー利用を進める一方で、普段から産油国外交や国際協調に全力を尽くします。

 
【問16】 日本は石油のために戦争するようになるのではないか?
【答】 憲法上許されるのは、あくまでも我が国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るための必要最小限の自衛の措置だけです。

 
【問17】 従来の政府見解を論拠に逆の結論を導き出すのは矛盾ではないか?
【答】 憲法の基本的な考え方は、何ら変更されていません。我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しくなる中で、他国に対する武力攻撃が我が国の存立を脅かすことも起こり得ます。このような場合に限っては、自衛のための措置として必要最小限の武力の行使が憲法上許されると判断したものです。

 
【問18】 今回の閣議決定により、米国の戦争に巻き込まれるようになるのではないか?
【答】 憲法上許されるのは、あくまで我が国の存立を全うし、国民の命を守るための自衛の措置だけです。もとより、外交努力による解決を最後まで重ねていく方針は今後も揺らぎません。万が一の事態での自衛の措置を十分にしておくことで、却って紛争も予防され、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。

 
【問19】 今回の閣議決定により、必要ない軋轢を生み、戦争になるのではないか?
【答】 総理や大臣が、世界を広く訪問して我が国の考え方を説明し、多くの国々から理解と支持を得ています。万が一の事態での自衛の措置を十分にしておくことで、かえって紛争も予防され、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。

 
【問20】 今回の閣議決定によっても、結局戦争を起こそうとする国を止められないのではないか?
【答】 日本自身が万全の備えをし、日米間の安全保障・防衛協力を強化することで、日本に対して戦争を仕掛けようとする企みをくじく力、すなわち抑止力が強化されます。閣議決定を受けた法案を、国会で審議、成立を頂くことで、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。

 
【問21】 武器輸出の緩和に続いて今回の閣議決定を行い、軍国主義へ突き進んでいるのではないか?
【答】 今回の閣議決定は戦争への道を開くものではありません。むしろ、日本の防衛のための備えを万全にすることで、日本に戦争を仕掛けようとする企みをくじく。つまり抑止力を高め、日本が戦争に巻き込まれるリスクがなくなっていくと考えます。

 
【問22】 安倍総理はなぜこれほどまでに安全保障政策が好きなのか?
【答】 好き嫌いではありません。総理大臣は、国民の命、平和な暮らしを守るために重い責任を負います。いかなる事態にも対応できるよう、常日頃から隙のない備えをするとともに、各国と協力を深めていかなければなりません。

 


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