映画評『ドローン・オブ・ウォー』
本来なら、映画評は「推奨メディア」のコーナーに掲載するところですが、本作は「推奨」とまではいかない内容だったので、「ニュース解説」に掲載します(公式サイトはこちら)。
内容に詳しく触れているため、本作を未観賞の人は以下の解説を読まないでください。
無人攻撃機にテーマを合わせた点は評価に値します。こうした時事的な問題を映画化するのはアメリカ映画が評価できるところです。しかし、作品はもう一つ印象が薄いところに留まってしまいました。それはなぜでしょうか。
問題は描いたものが加害者の苦悩だけになってしまったことです。被害者の苦悩は間接的にしか取り上げられていません。主人公のイーガン少佐は元戦闘機パイロットで、現場に戻りたがっており、任務に対して疑問を感じ、妻とも関係が悪化したことからアルコール依存症になっていきます。彼の行動を中心に物語は進みます。そのため、被害者の感情に共感しにくく、それが観客に罪悪感を生じさせかねません。
作品は無人攻撃機のパイロットに退役する者が多く、米空軍がボーナスを増額するなどして、引き留めに躍起になっている事実を反映しています(関連記事はこちら 1・2)。パイロットの心的障害も問題になっています。過去には心的障害を発症するのは、兵士と攻撃目標との距離が近い場合に限られていました。ところが、最も遠方にいるはずの無人攻撃機のパイロットが鮮明な映像を見ることで心的障害を発症するようになったのです。攻撃成果を確認するために、パイロットが現場を細かく観察しなければならないことが原因です。
しかし、無人攻撃機の問題は遠方からの観測だけで攻撃するため、誤爆をする可能性を秘めているという問題もあります。実際、これまで何度も無人攻撃機による誤爆事件が報道されています。こうして誤って誤爆されて死んだ人たちの人権はどうなるのかという問題は、パイロットが抱える問題よりも遙かに大きいと言わざるを得ません。
イーガン少佐がいくら苦悩しても、それは戦闘機に乗れないとか、夫婦生活がうまく行かないといった程度の話です。テロに無関係なのに殺された人たちの無念に比べると軽いのです。もっと別のストーリーを用いた方が無人攻撃機に関係する問題をより深く掘り下げられた気がします。
現実の問題がテーマの作品でも、ファンタジーの部分も必要です。本作はそれが乏しく、ドキュメンタリーのような内容に仕上がっています。
空軍がCIAの任務を肩代わりした点が事実かは私には分かりません。CIAにも無人攻撃機はあるので、こうした活動があったかは疑問です。もっとも、アブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件のように、CIAが指揮系統に介入して起こした事件をモデルにした可能性はあります。ジュネーブ条約は軍隊に適用され、CIAは何をしても法で裁かれないという問題を、製作者が作品に含めたかったのかもしれません。
また、強姦魔のタリバン兵を独断で殺した無人攻撃機パイロットがいたのは事実かも知れません。
しかし、事実を並べたらよい劇映画になるとは限らないのです。必要なのは現実の問題をどうやって観客の頭の中に取り込ませるかです。その点で、この作品はもう一つ成果をあげられずに終わってしまいました。
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