国防長官候補マティスが水責めを否定

2016.11.24


 military.comによれば、次期国防長官の候補となっているジェームズ・マティス退役将軍(Retired Gen. James Mattis)は、テロ容疑者の尋問で「ビールとタバコ」がよりよい選択肢だと彼に述べて、水責めに関する態度を再考させる提案をして、次期大統領ドナルド・トランプ(Donald Trump)を驚かせました。

 トランプはマティスからの助言は、軍とCIAの尋問で水責めと拷問へ戻るという選挙中の公約を進める件で重荷になるといいました。

 彼が「狂犬マティス」と呼ぶ男との先週の会議で、トランプは「『水責めについてどう思う』と尋ねたら、驚いたことに、彼は『私はそれが役に立つと思ったことがありません』といった」といいました。

 トランプはマティスは彼に「私はいつも分かっていました。タバコ一箱とビール一杯をもらえれば、拷問でやるよりも、それでよりうまくやります」と述べたといいました。トランプは完全に納得している訳ではないといいました。「私は考えを変えたとは言っていません。いいですか、我々には首を刎ねたり、鉄の檻で人々を溺れさせる人たちがいるのに、我々は水責めを認めていないのです。しかし、私は(マティスからの)その答えに感銘を受けたといいます」。

 トランプはマティスを「高い敬意を受けた人です。事実、私は何人かの将軍に会いました。彼らは彼が最高だといいます。彼は真剣に、真剣に国防長官に検討しています」と呼びました。

 「私は将軍のためのときであるかも知れないと考えます」とトランプはいいました。しかし、彼が指名を受け入れれば、軍将校が閣僚ポストにつくことを禁止する7年間ルールについて、議会からの免責が必要となります。

 66歳のマティスは海兵隊の伝説となった44年間の軍務のあと、2013年に退役しました。

 トランプは火曜日に、選挙期間中に彼が変更した報道と批判した「The New York Times」の記者と編集者との広範囲で穏やかなインタビューでコメントしました。

 「The Times」は水曜日にインタビューを掲載しました。

 同紙のマギー・ハーバーマン(Maggie Haberman)からの水責めに関する質問への長い答えの中で、トランプは、マティスがジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権で認められていた水責めとその他の拡張尋問テクニック(enhanced interrogation techniques)を禁止する軍事司法統一法典が支持する現在の方針に同意することを知って驚いたと再びいいました。

 トランプは、方針を変えると決めるなら、世論によって最終的に導かれるだろうといいました。「それがアメリカ国民にそれほど重要なら、私はそれを選ぶでしょう。私はそれに導かれるでしょう」と彼はいいました。

 「しかし、彼が言ったと私が思うよりも、マティス将軍がそれがとても重要性が低い、ずっと重要性が低いと気がついていました」。「私は彼が狂犬マティスとして知られていることを知っていますよね?。狂犬には理由があります。私は彼が、それは素晴らしいものです。それをなくさないでください、というと思いました」。

 ところが、マティスは「『いえ、タバコと飲み物をいくらかくれれば、わたしはうまくやります』と実際にいいました」とトランプはいいました。

 退役CIA、軍、司法省とブッシュ政権当局者は、ジュネーブ条約が禁止する水責めの有効性の問題で両方の側にいました。

 2009年に就任すると、バラク・オバマ大統領(President Barack Obama)は拡張尋問テクニックの使用を禁じる大統領令を出しました。

 アリゾナ州選出共和党で上院軍事委員会議長のジョン・マケイン上院議員(Sen. John McCain)は先週、水責めに関する政策を変えようとするなら、手のひらの上で戦うだろうとトランプに警告しました。

 「合衆国大統領がしたいことや誰かがしたいこと何とも思いません」とマケインはいいました。「我々は水責めをしません。我々はそれをしません」。

 ベトナム戦争で捕虜として拷問を受けたマケインは「人々を拷問で苦しめるかどうかを、アメリカ人に関していうことですか?」といいました。

 マケインの発言に、ハリファックス国際安全保障会議のパネルディスカッションで拍手がわきました。

 トランプには投票しなかったと言った上院議員は、マティスが国防長官候補となったことを歓迎しました。


 記事の最後の部分はあまり重要ではないので省略しました。

 マティスもアメリカの軍人だったということでしょうか。ジュネーブ条約(国際人道法)に反する行為を軍に命じようとするトランプに賛成しないと明言し、トランプがそれを公言したのです。

 非公開の会合での発言を公言するということは、トランプがかなり拷問の否定に動いている証拠でしょう。あるいは、マティスを切り捨てて、別の者を国防長官に据えるつもりかも知れませんが。

 マティスが言いたいのは、タバコとビールをテロ容疑者に与えることではなく、信頼関係を築いて情報を聞き出すという、米軍本来の尋問方法に戻るべきだということでしょう。

 また、拷問を認めれば、拷問を禁止している軍法と矛盾し、軍内部の司法に大きな悪影響を及ぼします。マティスはそれを回避するためにウィットを交えて答えたのでしょうが、トランプは言葉通りに受け取ったのです。

 拷問については、統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード海兵大将が米議会で否定する発言をしています。(関連記事はこちら

 オバマ政権下で民主党がまとめた報告書では、拷問によって得られた重要情報は一つもなかったとされています。

 トランプはそれを知らないのかも知れませんが、オサマ・ビン・ラディンの隠れ家のヒントとなった証言も、雑談の中で出た言葉がきっかけだったといわれます。

 効果がないことを、国際法に違反するのに軍人に認めることは不合理の極みですが、トランプにはその意識はありません。

 トランプは次々と選挙期間中の公約を翻しています。クリントンのメール問題も告発しないと宣言しました。選挙中は刑務所に送ると叫んでいたのにです。彼の変節は彼の支持者を怒らせ、自分への不満として成長していくはずです。

 余談ですが、自民党の憲法改正案には、公務員による拷問と残虐な刑罰を禁止する第36条「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」から「絶対に」が削除され、例外を認めるかのような内容になっています。



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