米軍で過去20年間最大のパワハラ事件

2020.8.25



 military.comによれば、米空軍で過去20年間で最悪のパワハラ事件が起こりました。military.com はこの件で2つの記事を報じていますが、最 初の記事ではなく、2 番目の記事を紹介します。

 米空軍ジェニファー・グラント准将(Brig. Gen. Jennifer Grant)が最初の一つ星の階級章をピン留めする9ヶ月前、彼女の昇進につながる数年間の彼女の行為を調査するチームのメンバーは、指揮官と対面するのをこれほど恐れる 空軍隊員を見たことがなかったといいました。

 コロラド州のシュリーヴァー空軍基地(Schriever Air Force Base)の第50宇宙航空団を指揮する間にグラントが作り出した風土は、部隊の隊員と指揮官のどちらからも「専制的」で「有害」と表現されました。これは指揮を執った 2017年6月から2019年6月までのグラントの期間についての空軍監察総監の122ページの報告によります。

 Military.comが入手した報告書によれば、調査官は60人以上の目撃者に尋問しました。監察総監はグラントにつ いてなされた3つの抗議、彼女が不健全な作業環境を作り出したこと、人びとを尊厳と尊敬をもって取り扱わなかったことと部下 から贈り物を不正に受け取ったことを証明しました。

 調査結果は2019年10月に発表されました。グラントは先月准将に昇進しました。

 第50宇宙航空団を率いる間のグラントの行為を調査する任務についたチームは、彼女が部下に定めた環境を「20年間でみら れた中で最悪」と表現しました。

 報告書によれば、彼女は「恐怖の文化」を作りました。報告書によれば、任務に誇りを持つ部隊は士気が崩壊し、「率直に、 ハッキリ意見を述べ、意味のある改革を提案するのを恐れる」ようになりました。

 「意思疎通のプロセスは停止しそうなまでに遅くなり、指揮系統の上下両方を抑圧しました」と報告書は述べます。

 それでも、おそらく最も厄介なのは、監察官が綿密な調査が必要だというグラントと空軍隊員の1人との間の3つの事件でし た。空軍隊員は2019年3月に自殺しました。同じ年に、空軍は自殺した隊員の数が33%上昇するのをみました。

 ある証人がいったように、グラントと空軍隊員は「数多く衝突しました」。

 「(彼女の死が)グラント大佐が原因と考えるかといえば、私はそう思いません」と彼らは調査官にいいました。「グラント大 佐が彼女の人生に追加のストレスと難題を生じさせたかといえば、そう思います」。

人生で最悪の年

 監察官の報告書が抗議を証明した後、彼女は宇宙航空団副指揮官、スティーブン・ホワイティング少将(Maj. Gen. Stephen Whiting)から訓告状(a letter of admonishment)を受け取ったと、空軍報道官、アン・ステファネック(Ann Stefanek)はいいました。

 訓告状は管理上の処罰の形式であるため、詳細は公に公開できません。非難は戒告状(a letter of reprimand)ほどではありません。

 グラントは現在、空軍司令部に配属され、立案・計画担当宇宙優位部(the Space Superiority Division with Plans and Programs)のチーフを務めていると、ステファネックはいいました。彼女は次の数ヶ月で彼女の部局が宇宙軍司令部へ移行するときに任務を続けると予測されますが、彼 女は空軍将校として勤務し続けるでしょう。

 上院は2018年11月26日に准将になる指名を受けとりました。この指名はその年の12月、彼女のリーダーシップのスタ イルに関する監察官の報告書が完成する約10ヶ月前に認められました。

 将軍はこの記事のインタビューの要請を拒否しましたか、空軍広報官を通じて声明を提供しました。

 「私は奉仕し、導き、成長することに喜んで取り組み続けます」とグラントはいい、「私はわが国、国民、任務に献身し続けま す」。

 ある証人はグラントが将軍になるのを心から望んだと指摘しました。この動きが上院により明らかになると、状況は変わり、グ ラントは「とてもよい人になった」と証人はいいました。

 しかし、証人はその前は違う環境だと説明しました。ある証人はグラントのために働くことを「人生で最悪の年」とよびまし た。

 「私は対処するためのシステムとして酒を飲みました」と彼は調査官にいいました。「惨めでした。私は(家族と共に)多くの 時間を過ごせませんでした。おそらく、おそらく、私は毎週泣いたといえます」。

 第50宇宙航空団の退役、辞職や海外派遣された隊員10人は、シュリーヴァー基地を去りたい理由の一部として曲がりなりに も彼女のリーダーシップをあげたと、報告書は述べます。

 ある空軍隊員は調査官に、留まって、グラントのために働くのは健全ではないと感じたので、彼は一年間の海外派遣を志願した といいました。

 「またグラント大佐のために働かなければならないなら、人びとは留まっていました。私は出て行くと考えます」とある証人は いいました。「(他の指揮官が)『留まる人びとが必要だ』といったメッセージを出す時代には、彼女のスタイルは移行期の空軍 にネガティブな影響を与えるもう一つの分野のように感じます」。

 報告書は同時期に「多くの自殺者」がいたとも記します。16年間勤務し、後に自殺したテキスト・メッセージの写真は、彼女 がグラントと問題を抱えていたことに言及しました。

 「(彼女は)いま、まさに私を破壊できます」と空軍隊員は書きました。「私には(軍歴)20年まで行かせない、あまりにも 多くの時間があります。ここでの短い間に、私のキャリアは大きく急降下しました。私は満足なまでに認められそうにありませ ん。彼女がなにかと私を追いかけるのにはうんざりします」。

 承認は調査官に、彼らは空軍隊員が「グラント大佐は単に彼女を嫌っているよういに感じた」といってよいと思うといいまし た。「その隊員は強いストレスを感じ、とても不安がっていました」。

 「個人的に、職業的に、人生で最悪だった」と、彼女は死ぬ前に証人にメッセージを送りました。「打ち負かされた気分で す」。

 調査官はグラントに事件について尋ねました。彼女は、その隊員は彼女がかなり気にかけた者だと答えました。

 「本当に、本当に私の頭を悩ませ、困らせました」とグラントはいいました。「しかしあなたは、隊員でもはやここにいない者 を持ち込んで、その者が言ったという言葉、彼女が言わなかったと私が知ることを言う。指摘するなら、それについてはとても間 違ったことがあります。あなたを納得させるためにそれが絶対に真実でないと言うために何が必要になるのか、私には分かりませ ん」。

ダミー人形を踏むがごとく

 グラントはここ数ヶ月間で幕僚を軽視したと分かった少なくとも2人目の空軍将官です。ドーン・ダンロップ少将(Maj. Gen. Dawn Dunlop)も、国防総省の「Special Access Programs Control Office」の指揮官の座から更迭される前に譴責されたと分かったと「Air Force Times」は月曜日に報じました。

 観察総監はグラントが繰り返し、任務に必要な報告と双方向のコミュニケーションと信頼を抑えるやり方で、直接の指揮官と部 下を間接的に攻撃し、批判したことを見出しました。公式な会議の間に人びとを問い質す彼女の手法は、議題が目の前にあるテー マから個人のプレゼンティングに変わると、批判の言葉と個人攻撃へと移ることがよくありました。

 ある証人は、会議の間に、個人攻撃が頻繁に続いたため、グラントは「ダミー人形を踏みつけ」ようと躍起になったかのよう だったといいました。

 「彼女のボディランゲージは変化した」と報告書は述べます。「彼女は『苛立ち』、低くてより悠然としたトーンで、強調した 確信的な言葉で話し、歯を食いしばり、指を指して、もっぱら怒った態度を示す」。

 ある事例では、グラントは席につく人々に体を乗り出して、調査役のオブザーバーを含めた他人に聞こえるに足る声で「彼は自 分が何を言っているか分かっていない」といって説明役を辱めました。

 調査官たちは、彼らは「そのようなことは見たことがない」と書きました。チームがグラントに報告書への回答を提供するよう 求めると、彼女は弁護士から受けた助言に従い、黙秘権を行使しました。

 尋問の間、調査官はグラントが「時々、証人が述べたような態度を示していた」と指摘しました。

 「調査チームは、彼女は下品だから決して指さないと主張しながら指を指した」と報告書は述べます。「彼女は唇をすぼめ、目 を細め、時々動揺しているように見えました」。

 証人はチームに、彼らがグラントに批判され、侮辱されたり蝕まれたり、恥をかかされたり、貶められたり、言葉で切り捨てら れたり、無視されたり、オフィスを移動させられたりしてきたといいました。ある人は、小包を投げつけられたことを思い出しま した。

 調査中に出来事を思い出した証人の85%は、人びとと交流するグラントの手法について否定的な報告をしたと、調査官は書き ました。

 「グラント大佐は怖れと脅迫を注ぎ込む環境を作り出しました。それはコミュニケーションと報告を抑え、彼女の部下の安心と 士気を弱体化させました」と報告書は述べました。「そうすることで、(空軍宇宙軍の)監察総監はグラント大佐が作り出した状 態は監察総監チームが20年間に見てきた最悪のものと結論しました」。

 グラントは調査官に、彼女は人びとが「(監察総監告発)システムを武器にしていると感じるといいました。

 報告書は、監察総監チームに尋問された60人を超える人びとにグラントに対する告発を提出したものはいなかったと指摘しま した。何人かは彼女の知性と高い基準を指摘し、彼女は「賢くてハードワーカーだ」といったと、報告書は述べます。

 「私は彼女の知性を疑いません。私は彼女の洞察力と彼女が航空隊を動かそうとする方向性を疑いません」とある人は証言しま した。「グラント大佐は確かにこの航空隊を、統合部隊の範囲の戦闘能力の観点から、よりよい場所にしています。しかし、(彼 女の)リーダーシップのスタイルは、航空隊があり得た場所へ持っていくための彼女の能力を制限していました」。

 興味深いのは、この最悪の指揮官、グラント大佐を告発した証人がいないのに、監察総監が調査して、対応したことです。おそ らく、記事中にある調査役のオブザーバーは無作為に会議に出席して、会議の様相を調査する役目で、オブザーバーがグラントの 態度を危険視したところから調査が始まったのではないかと想像します。これは日本の自衛隊ではおよそ考えられないことです。

 最近、文春オンラインが「退職者続出 陸自の第1空挺団長は“パワハラ”常習者で通称『ハカイダー』」「陸 自第1空挺団長 『ハカイダー』のパワハラ、動かぬ証拠を入手した」という2つの記事を掲載して、戒田重雄陸将 補を批判しています。河野太郎 防衛大臣は、この記事を評価せず、対処しない構えです。トップがパワハラを認めないことで、陸上自衛隊でのパワハラはますま す激化するおそれがあります。

 「訓告状」という処分が軽いと考える人がいるかも知れませんが、これは昇進に影響を与えます。「戒告状」だと、軍歴は事実 上終わりという厳しい処分です。有能故の問題だったので、戒告状にならなかった訳ですが、再び同じ問題を起こしたら、今度は 戒告状が出されるでしょう。しかも、グラントは宇宙軍への編入が認められませんでした。グラントがパワハラを行ったのは、宇 宙航空団を万全な形にして、宇宙軍へ編入されたときに直ちに戦力になるようにするためだったはずです。宇宙軍での自分の活動 に未来を感じていたはずです。これはグラントを失望させるに十分です。それを見越した厳しい処分だったと、私は思います。

 米軍の不祥事の処分は自衛隊に比べると数段厳しく、アフガニスタン駐留米軍指揮官が、一度の失言で大統領の怒りを買い、辞 職したことがあります。軍も一階級降格の処分を考えましたが、大統領と国防長官が止めました。(関連記事はこ ちら

 米軍の規律の厳しさは昔からです。警察予備隊の創設に関わったフランク・コワルスキー大佐も、視察した韓国軍で上官が部下 を殴打するのを見て、それが日本軍から教えられたやり方と知り、警察予備隊でビンタを禁止したと書いています。また、列車内 で座席でもめて市民を殴った隊員を免職にするよう総監に命じています。ジョージ・パットン大将が第2次世界対戦中に兵士の頬 を手袋で叩いて、後に謝罪したように、米軍はこの種の体罰を受け入れません。コワルスキー大佐の配慮も、日本人自身にやる気 がないので、彼が望んだようには日本の防衛組織は育たなかったのです。


 米軍に比べると、自衛隊の規則は本当に甘く、軍事裁判もないので、ノビノビやっているように思えますが、実際はパワハラの 巣窟です。旧日本軍からの伝統をしっかりと受け継いでいます。数十年前は、教育隊にいる間は新人同士の私的制裁を教官が一切 許さなかたっと聞いたこともありますが、いまはそうではありません。自衛官が好きでやっていることだから、放置すればよいの かというと、海外派遣が増えた現在、派遣先でこの種の事件が起きると、それはそのまま日本の恥になります。現地人との間でト ラブルに発展する可能性もあります。そうなれば、派遣を受け入れている国との間の問題にもなりかねません。なにしろ、ジュ ネーブ条約すら適当にしか教育しない自衛隊ですから、自衛官が法的な常識をもっているかは疑問です。戒田陸将補みたいな人が 出世するのですから、相当に変な奴がいてもおかしくありません。そして、問題に対処するための「監察総監告発システム」のよ うな制度が自衛隊には一切ないのです。

 このように、自衛隊は米英仏などの軍隊とかけ離れています。軍人同士で、この件について議論するのは不可能です。そもそも の常識が違いすぎます。話があうのは、おそらく、ロシア軍くらいでしょう。そんな現状になっていることを、一体、何人の自衛 官が認識しているのでしょうか?。
 

 


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