military.comが海賊の定義に関する記事を報じました。海賊の法律上の定義は以前から議論があり、確定していません。長い記事なので、要約して紹介します。
先月、マーク・S・デイビス地裁判事(District Judge Mark S. Davis)は、4月1日に米海軍のフリゲート「ニコラス(the Nicholas)」に対する攻撃に監視、5人のソマリア人に対する14件の起訴に対して、海賊行為を認めました。デイビス判事の判決は、4月10日の「アシュランド(the Ashland)」への攻撃に関するレイモンド・A・ジャクソン判事の判決とは反対でした。(関連記事はこちら 1・2)
ジャクソン判事は海賊法はそれが1819年に制定された時と同じく解釈されなければならないとしました。彼は1820年の海賊行為と洋上での強盗とだけ定義した最高裁判決を見つけました。アシュランドに対しては強盗行為がなかったので、彼は海賊罪を却下しました。政府は上告し、裁判は停止しています。
バージニア大学法科学校のジョージ・ラザーグレン教授(George Rutherglen)は「それが最後に完全に裁判になったのは19世紀でした。沢山の判例なしに、判事たちはむしろごく僅かの原理から判断しています」と言いました。
今週選出される陪審は、1819年以来初めて、アメリカで最初に誰が海賊かを決めることを求められるでしょう。4月1日の深夜直後、ソマリア沿岸で海賊パトロールを行っていたニコラスは小型スキフの男たちから攻撃を受けました。ニコラスは撃ち返し、スキフとその母船を追い詰めて、5人を逮捕しました。ソマリア人の一部は、彼らは本物の海賊に誘拐された漁民だと主張するとみられます。事件に関係したスキフは、1隻がニコラスの応戦で沈没し、他は逃走しました。母船はニコラスが曳航中に沈没しました。
海軍の目撃者と連邦捜査官は、何人かのソマリア人が海賊だと自供したと証言する予定です。裁判記録によれば、被告の一人、アブディ・モハメッド・グレワーダー(Abdi Mohammed Gurewardher)は、自分はコックとして雇われ、航法を援助したと言いました。その後、彼らは供述を変え、ニコラスに乗船中に虐待を受けたと言いました。グレワーダーは、海軍が自供しないと彼らをサメの餌にすると脅したと言います。
海賊行為で最大の科刑は終身刑です。他の関連する起訴は5〜25年の刑罰となります。
ロヨラ法科学校のデビッド・グレイジア教授(David Glazier)は、海賊行為には少しの判例しかなく、2人の判事が正反対の結論に達したのは驚くことではないと言います。「問題はアメリカの法廷では海賊は数回しか起訴されていないということです」。しかし、両方の裁判記録を読んだ後で、グレイジア教授はニコラス事件で、海賊行為の定義は1819年の最初の定義から進歩したとした「デイビス判事が正しい」と考えます。デイビスの98ページの意見は、海賊法の起源に関する歴史的な教訓を含みます。意見の中で判事は「すべての問題の完全な議論を提供し、広範に模索をする」と書きました。ジャクソン判事の簡素な21ページの判決は政府の立場を憲法違反だとして退けました。
オーストラリアのメルボルン法科学校の上級講師、ケビン・ジョン・ヘラー(Kevin Jon Heller)は、ジャクソン判事の判決を正しくも間違ってもいると言いました。ヘーグの戦争犯罪裁判でボスニアのセルビア人の元指導者ラドバン・カラジッチ(Radovan Karadzic)の弁護をするへラーは「私はジャクソン判事の判決は完全に意味をなすと考えます」と「opiniojuris.org」への投稿で書きました。「アメリカは都合がよいときだけ、海賊を終身刑にしたいときそれに頼り、民間の法廷にテロリストを入れることを避けたいときにそれを無視して、国際法を使おうとするべきではありません」。
グレイジア教授と同じく、ヘラーもジャクソンは海賊条約を含めて国際的な定義を考察できないことでは間違っていたと考えています。小さな判例に関して、2人の判事はどちらもノースウェスタン大学の法科学校のユージン・コントロビッチ(Eugene Kontorovich)の助けに頼りました。コントロビッチは両方の意見が意味があると言いますが、グレイジア教授と同じく、デイビスの判決の方を好みます。ジャクソンはいいところをたくさん突いたと彼は言います。誰かがパチンコや弓矢、あるいは岩を船に投げつけたら、それは海賊をやろうとしたことになりますか?。「ジャクソン判事が何に由来したかは分かりますが、それにも関わらず海賊行為の定義は極めて明白です」「今日の国際法では、成功しなかった、すべての暴力的な不法行為を含むのは極めて明白です」。
関連記事と合わせ読んでも、実に複雑な話で頭が混乱してくるようです。簡単にまとめれば、デイビス判事は、強盗が目的なら未遂であっても海賊罪が成立するとする点で、ジャクソン判事と意見が違うわけです。
この解釈なら、海賊罪に関するやっかいな問題はすべて解決します。つまり、襲撃の目的によって、海賊罪が成立するかどうかを切り分けができます。
「海保の巡視船に体当たりした中国漁船は、巡視船を威嚇し、逃走を容易にするのが動機だったのでしょうから、海賊罪にはあたらないことになります。もっとも、中国船の行為は社会通念上は海賊まがいと言えますし、動機も酒に酔っていたので、錯乱したのが本当かも知れません。
海賊ではない洋上の襲撃と海賊行為をしようとして失敗した場合を区別するのは分かりますが、一連の米艦襲撃は海賊行為の未遂のように見えます。そういう発想に至らないのは、海賊が元は海賊を行った者を処刑するだけの、残忍な刑罰であったためでしょうか。
日本の「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」では、未遂も罰することになっています。
海賊罪は、その行為すべてを裁く法ではないので、海賊罪が無罪でも被告は釈放されない場合があります。海賊行為として行われた傷害、殺人、誘拐などの犯罪は、なんであれ成立するのです。だから、海賊罪はその行為によって科される刑罰をさらに重くする役割を果たすものと言えます。よって、無理に適用しなくても良いという見方もあります。
私個人的にも、海賊の歴史を含めて、取り締まるための法律の歴史も、もう少し知識を収集する必要があると感じます。