military.comによると、2007年に当サイトでも紹介したハムダニヤ事件の被告、ローレンス・ハッチンズ3世軍曹(Sgt. Lawrence Hutchins III)が上訴審で無罪判決を受けました。
ハッチンズ軍曹は6人の海兵隊員と海軍の衛生兵1人を率い、2004年4月にハシム・イブラヒム・アワド(Hashim Ibrahim Awad)をイラクのハムダニヤ村で殺害したとされていました。法廷はこの判決が、ハッチンズに割り当てられた軍の弁護士が、2007年の裁判の前に不適切に解任された事実に基盤を置くとしました。この判決により、ハッチンズは釈放されます。事件は海軍法務総監部へ戻され、控訴するか、再審を行うかが決定されます。元海兵隊法務官のサド・コークレー(Thad Coakley)は、政府は上訴するだろうと言います。「海兵隊員の分隊長と海軍の衛生兵がイラク人の抑留者を誘拐して、本質的には殺人ですが、処刑したという、少なくとも、ある時点で立証された重大な陳述を得たとき。これを追求しないなら、どうやって海兵隊員が説明責任の基準を維持していることを示しますか?」。コークレーは、法廷の見解は触れていないので、この事件に関係のある事実の有効性は判断されていないと言いました。この見解は手続き上の誤りや弁護士と依頼人の関係維持の失敗に焦点があてられています。ハッチンズはカンザス州のレブンウォースの軍刑務所で11年の刑に服していました。判決は降格された彼の階級を復活させます。ハッチンズには5歳の娘がいます。他3人の被告は刑を終えた後で、名誉除隊(honorable discharge)か普通除隊(general discharge)で軍を去りました。
この事件は当サイトで何度も取り上げました。海兵隊員がイラク人警察官を殺して、武装勢力に見えるように偽装した事件です。トップページ下部の検索フィールドを使って、「ハムダニヤ」というキーワードで検索すると、15件も出てきます(最初の記事はこちら)。この事件が手続き上の問題で無罪となったのです。これが何を意味するかというと、最も責任が重い被告が無罪になり、給料が以前のままに戻り、軍に残れることになったということです。理由は不明ですが、判決時の報道では15年とされた刑の期間が、今回の記事では11年となっています(判決記事はこちら)。この事件で名誉除隊したのは、確認していませんが、被害者を解放するようハッチンズに進言した衛生兵だろうと想像します。このままだと、軍の司法に著しい不平等が生じます。米軍の除隊の種類は、「honorable discharge(名誉除隊)」「general discharge(普通除隊)」「other than honorable discharge(非名誉除隊)」「bad conduct discharge(懲戒除隊)」「dishonorable discharge(不名誉除隊)」の5種類があります。この他、本当に短期間しか在籍しなかった者は除隊以外の扱いになります。ハッチンズが他に大きな問題を起こしていない場合、どの扱いになるかは微妙な問題です。軍事裁判で最終的に無罪になった場合、軍刑務所にいても、そのために長期間勤務していなくても、それをペナルティにできるかどうかという問題があるからです。海兵隊法務部は、この事件を放置しないでしょう。もっとも、軍に残れても、ハッチンズ軍曹は出世からは見放された、日の当たらない仕事となることでしょう。除隊後の再就職も極めて困難なものになります。アメリカ企業は除隊の種類を採用の際に重視するからです。そのためにも、海兵隊は無罪判決だと困るという理由があるわけです。