不適格な海軍指揮官を摘み取る方法

2010.5.17


 military.comに、度重なる海軍指揮官の解任問題に関する長文の記事が載りました。スターズ・アンド・ストライプス紙からの転載記事です。14日付けの記事ですが、重要な内容なので、全訳を掲載します。

 

不適格な指揮官一掃に苦闘する海軍
2010年5月14日
スターズ・アンド・ストライプス紙 エリック・サラヴィン

 海軍は4月にお粗末なマイルストーンに達しました。それは、軍が不品行のために指揮官の将校を解任する必要がなかった、2010年で最初の月でした。

 1月1日から3月15日までに、海軍は7人の指揮官の将校を解任し、このペースは解任された将校が17人だった昨年の総数の2倍以上で、過去5年間を遙かに凌ぎます。

 解任の大半は不品行でした。たとえば、海軍とメディア筋によれば、グレン・リトル大佐(Capt. Glen Little)は性的な行為のために売春婦に20ドルを与えたために逮捕されたあとで、南カルフォルニア州、チャールストン海軍兵器廠の指揮官を解任されました。

 1月のUSSカウペンス前指揮官ホリー・グラフ大佐(Capt. Holly Graf)を含む、その他の解任は指導力の欠如のためでした。

 3月に監察長官の報告書が公表された後、グラフの残酷な行為、下品、倫理違反、下級将校に容赦なかったことは国中の注目を集めました。

 しかし、このような公私の行為に関する問題は普通は唐突に出てくるものではありません。

 監察長官の報告によると、グラフの疑わしい行為は少なくとも、彼女がUSSウィンストン・チャーチルを指揮した時、2003年以来続いてきました。

 なぜ、不適格な将校は戦闘艦や施設の指揮官を任される前に取り除かれないのでしょうか?

 報告書が今年末まで完成しない見込みのため匿名を希望した当局者によると、海軍監察部は再び答えを探しているところです。

 5年前、海軍が解任に関して似たような上昇を経験した後、監査長官は組織的な要因が解任の原因となったかを判断するために、1999年から2004年までの解任を再検討しました。

 その研究は、指揮官をよりよく準備するために指揮官学校の変革と課程のカウンセリングを勧告しましたが、誰が指揮官として失格となるかの前兆となるものを見出しませんでした。

 「いま問題が持ち上がり、(海軍は)将校の軍歴で早い時期に指標となったかも知れない傾向や兆候があるかを知るための研究へ、後追いの努力を始めました」と当局者は言いました。

 スターズ・アンド・ストライプス紙は、少佐から大佐までの現役および退役の海軍将校数名に、なぜ不適格な指揮官がすぐに特定されないのかを尋ねました。すべての現役将校は、公言することが自分の昇進の機会を危うくするかもしれないことを懸念して匿名を希望しました。

 最終決定を下す昇進委員会に出される初期の適性報告書からすべてのステップを変えるいくつかのアイデアと共に、いくつかの有力なテーマが出てきました。

責任感

 ある者は、彼らが監督する将校を評価する上級指揮官の責任感の欠如をあげました。

 現在は企業コンサルタントで、ベストセラー本の著者、マイク・アブラショフ退役大佐(Retired Capt. Mike Abrashoff)は、海軍は不適格な将校を指揮官に昇任する上級指揮官が結果に直面することがないので苦しんでいると言います。

 彼は上級指揮官それぞれの評価記録に、将校があとで指揮官を解任された誰かを推薦したかを書いて、基準線を持たせることを主張します。

 「もし指揮官が指揮官を彼らがする以上に真剣に評価して自分たちの義務を果たさないのなら、軍歴を終わらせるのです」とアブラショフは言いました。「ことが極めて悪くなったとき、推薦を行った人にはなんの責任もありません。グラフ大佐の軍歴には警告を示す印があり、彼女の人事の処遇はそうされるべきものではありませんでした」。

 一部の将校はアブラショフのアイデアを支持しましたが、たとえば将校が部下と親しくしていて、深刻な問題を予見する明らかな方法がなかった場合、上級指揮官は若干の保護を与えられるべきだと言いました。

 「一部は職務上は非常に素晴らしい指揮官で、前任の指揮官や適正報告書の書き手が合理的に知り得なかった性格上の欠点を持っていることが判明した者です」と、2003年から2005年まで強襲揚陸艦USSエセックスを指揮し、2007年に引退するまでディック・チェイニー副大統領(Vice President Dick Cheney)の特別顧問を務めたジャン・ヴァン・トル退役大佐(Capt. Jan van Tol)は言いました。

 しかし、部下の将校が深刻な職務上または性格上の欠点を持っているとき、公式または非公式に指揮官に警告できる情報の流れがあります。

 残念なことに、一部の指揮官は、彼らに指揮官に向いていないと告げるよりも簡単なので、そういう欠点を持った部下を昇進させます。

 「私は、指揮官は率直になることに絶対的な義務があると考えました。私は常に指揮官としてそれを行おうとしました。それは難しいことです。多くの指揮官はそうしたいと望んでいません」。

 これを回避するヴァン・トルのアイデアは、個人の適正報告書を昇進委員会と軍歴に関して将校に助言する海軍の詳述者だけが利用できるようにします。

 それでも将校は彼らの上官から非公式な評価を受け取り、詳述者から海軍全体の同輩の域に達するためのよいアイデアを得ます。しかし、評価される将校は決して自身の適正報告書を見ません。

 「これは(上級指揮官を)選定委員会に対してずっと率直にさせます」と彼は言いました。

厳正なシステム

 ヴァン・トルはシステム自体が適正な将校を昇進させる海軍の能力を麻痺させていると信じています。

 彼は、システムは革新的な将校が勝敗における差を作る特質である、計算済みのリスクをとることを思い止まらせると言います。多くはどんなリスクも結果としてミスになり、彼らの昇進を失わせることを恐れます。間違ったリコメンドは軍歴をぶちこわしかねず、低姿勢を保つことはより安全です。

 それが昇進プロセスにおける危険であるならば、上級指揮官はミスを犯しそうな将校を落とすかも知れません。

 不適格な指揮官が昇進する別の方法は、上級指揮官の目をひくことをなんでも避けることで軍歴を築いて、システムの裏をかくことです。不適格な将校は、劣勢の将校に対して、僅かに裕利に評価されることでも昇進の推薦を得ます。彼はベストである必要はなく、平凡なグループでベストであればよいのです。

限られたプロセス

 結局、年に一度の指揮官評価委員会は、誰が海軍の上級の階級に昇進するかについて言う最大のものです。

 その決定は、公式の記録と適正報告書、各候補者のボスによる能力評価のコレクションに基づき、各将校の最初の勤務期間にまで遡ります。

 「我々は、我々の指導力が将校の実績のレベルと能力を正確に判断しているとみなします」と、水上戦闘配置の責任者で指揮官評価委員会のメンバーだったデビッド・シュタインドル大佐(Capt. David Steindl)は言います。

 委員会の規模と手法は海軍の専門分野で変わりますが、水上戦闘の分野は一般的に13〜17人の将校を含みます。それぞれが沢山の人事ファイルを評価します。

 その後、評価者は候補者の適正報告書を大きなスクリーンに掲げた部屋に集まります。評価者は各将校のために論拠を提示します。彼らは秘密投票に基づいて、0〜100のスコアをつけます。

 一部の将校はその客観性で評価委員会の手法を称賛しました。

 しかし、現役水上戦闘将校の1人は、ある将校が戦闘艦の舵を取るべきかを決定する最終的なチャンスには、軍の販売部の従業員さえ通過する面接試験がないと指摘しました。

 17人の大佐と提督の前で厳しい尋問を受けることは、人事ファイルでは見つけられなかったものを現すかも知れないと、将校は言いました。

変革のためのアイデア

 アブラショフは評価委員会が企業の手法から利益を得ることができるかも知れないと思っています。

 一部の企業が部下からの見解を取り入れる360度の評価を用いるように、アブラショフは指揮官の潜在力に関する上級下士官の視点は重視すべきだと考えます。

 海軍はカウンセリング・ツールとして360度の手法を使いますが、指揮官の評価での意志決定のためにはこれまで使いませんでした。

 USSベンフォールドの艦長として、アブラショフは副艦長を艦長に推薦しないことを決める前に、非公式に彼の下士官のトップである最上級兵曹長に意見を聞きました。

「私は自分がすべての角度からそれを見ていることを確認したかったのです」とアブラショフは言いました。「最上級兵曹長が乗員に対する指導力の効果を一番よく知っています」。

 インタビューを受けたほとんどの将校は、指揮官の指名に関して、上級兵曹長にいかなる公式な情報提供を与えることに同意しませんでした。インタビューを受けた現役の最上級兵曹長は、返報が自分の将来の職務に悪影響を与えるため、彼は自分のボスに誠実な評価を与えることはほとんどできないだろうと言いました。

 アブラショフは、指揮官の最高と最低の間にある性格的な特性を調べるために、指揮官を評価する行動テストを行うことも提案しました。

 「商業分野には、マネージャを選ぶことで、オーダーメイドの性格プロファイルをひとつの要素として使う、大きくなりつつある動きがあります」と彼は言いました。「もし海軍が似たプロファイルを、指揮官の将来における成功を予測する手段として用いる最前線にあったなら興味深いでしょう」。

(記事終わり)

 当サイトでは、ミサイル巡洋艦カウペンスのグラフ大佐の解任(記事はこちら)、原潜シカゴのジェフ・シーマ中佐の解任(記事はこちら)を紹介したことがあります。

 コメントを書く時間があまりなくなってしまいました。この記事は海軍の慣習に深く触れていて、一部は理解しにくい部分があります。「詳述者」は指揮官の昇進に関して詳しいことを知る者を指すのでしょうが、個人的に候補者にアドバイスする指揮官経験者のことを言うのかどうか、詳細が分かりませんでした。

 艦船の指揮官と部下の間には、しばしば問題が起こります。海上自衛隊でも時々、部下と上官の間に深刻なトラブルが起こり、それが報じられることもあります。こうした問題は通常、伏せられて、内々に解決されるので、報じられた事件はごく一部ということになります。しかし、米海軍では解任がかなり多いようで、ここまで多いとはショックです。

 この記事は不適格な指揮官を発見する方法について書かれていますが、艦長や指揮官の任務を続ける中で問題人物となる可能性がないのかが気になります。構造的に不良指揮官を生む形になっていないかという研究も必要だと、以前の解任報道を見たときに感じました。

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