military.comによれば、海兵隊の分隊がイラク人24人を殺害したとされるハディーサ事件で、被告の弁護人は海兵隊が事件を棄却する準備を模索していると述べました。
被告フランク・ウートリッチ2等軍曹(Staff Sgt. Frank Wuterich)の民間弁護人ヘイザム・ファラジ(Haytham Faraj)は、海兵隊が被告の軍弁護人を退役させたため、彼の防衛手段が危険にさらされたと軍判事デビッド・ジョーンズ中佐(Lt. Col. David M. Jones)に述べました。もう1人の民間弁護人ニール・パケット(Neal Puckett)は、海兵隊の狙いは事件を棄却することにあるとAP通信に語りました。パケットは、海兵隊が2008年に、ウートリッチの弁護人だったコルビー・ボーキー中佐(Lt. Col.)が反対したにも関わらず、中佐を退役させたと言います。
被告弁護団は、これを「ハッチンズ・モーション(Hutchins Motion)」と呼んでいます。これはローレンス・ハッチンズ三世3等軍曹(Sgt. Lawrence Hutchins III)の有罪判決が、この春、彼の弁護人が2007年の裁判前に辞めさせられたことを理由に不公正な裁判とされ、棄却されたことを指します(関連記事はこちら)。
当初、8人の海兵隊員が謀殺で起訴されましたが、6人は起訴を取り下げられ、1人は無罪になりました。ウートリッチ3等軍曹は無罪を主張しており、この事件の最後の被告です。裁判は9月13日にはじまる予定です。
ハディーサ事件は当サイトで何度も取り上げてきた、イラク侵攻中の2005年11月19日に起きた虐殺事件です(関連記事はこちら)。
事件の概要はこうです。事件当日の早朝、移動中のウートリッチ3等軍曹が指揮する分隊がIEDによる攻撃を受けました。下車した海兵隊員たちは、武装勢力の姿を追いかけて付近の家に侵入し、銃撃を繰り返しました。結果として24人のイラク人が殺害されましたが、死んだのは女性や子供を含む住民ばかりでした。ウートリッチが事件を報告した後で、現場に手を加えたらしい証拠もあがり、虐殺事件だけでなく、隠蔽の問題も浮上し、ウートリッチの上官らも取り調べを受けました。過去記事や、その中にあるリンク、あるいは「ハディーサ」というキーワードで検索すると、様々な記事が読めます。特に、ワシントン・ポスト紙のイラスト地図へのリンクは有益です(関連記事はこちら)。
当初から、海兵隊は被告らを裁くのに消極的でした。これは殺人ではなく、戦闘のカオスに突入した兵士の行動だから、犯罪とすべきではないというわけです。そこで、裁判に瑕疵を生じさせ、裁判そのものを成立させないようにしようというわけです。これが、アフガニスタンで、スタンリー・マクリスタル大将が新しい方針を発した後に起きた場合、現地指揮官の命令に反したということで、被告たちの起訴と有罪は免れなかったでしょう。しかし、当時のイラクでは従来の正規戦の交戦規定が有効であり、24人を誤って殺しても、コラテラルダメージとみなしてもらえたのです。この調子では、被告全員が無罪になるでしょう。
このように、兵士を戦地に送り込めば、こういう問題が避け得ないことを、私たちは知っておく必要があります。これは米軍だけでなく、自衛隊を含むあらゆる武装組織で起こります。自衛隊の訓練展示を見学するのは、軍事を知る上で有益ですが、それが実戦とは違う、デモンストレーションであることを忘れるべきではありません。訓練展示はシナリオに沿って隊員が演技をするのであり、「戦場の霧(fog of war)」と呼ばれる不確定条件がある実戦はまったく別のものです。訓練展示を見ただけで満足してしまうような人なら、実戦の問題は考察できません。人間は同じような誤りを繰り返す生き物です。我々にできるのは、過去の戦史から未来を的確に予測することだけなのです。