1号機は地震翌日朝に炉心溶融

2011.5.16


 3月31日夜に1号機に入った作業員の線量計が300ミリシーベルトを示したことから、津波ではなく、地震で圧力容器か配管が壊れた可能性を東京電力が認めました。その後、原子炉の異変が津波の直後から始まったことも報じられ、やはり津波が原因だという報道もあります。

 なにげなく出てきた数字ですが、これまで3月11日のデータは公開されていないと聞いていたので、かなり驚きました。もっとも、そのデータは中央制御室のデータで、作業員の線量計のデータではありません。東電はデータが機械の中にあると言うのですが、なぜか未だに公開されていないと、今月2日の「はんかく祭」の講演で聞きました(記事はこちら)。どうしても公開しなければならなくなるまで、重要なデータは言わなくてよいという東電の体質は変わっていません。

 また、東電の試算では、地震発生の11日午後2時46分から45分後の津波で冷却機能が失われたと仮定すると、同日午後6時頃までには燃料棒の上まで水位が下がり、午後7時30分には燃料棒を覆う被覆管が損傷しはじめ、午後7時50分頃に燃料の中央上部が崩落。午後9時には燃料本体が融ける2800度に達し、12日午前6時50分には燃料棒の大部分が落下したと考えられます。

 これらの事柄がいまになって判明したということ自体、私には信じられません。東電は最初から分かっていたのではないかと思うのです。だから、11日のデータが公開されずに来たのではないかと想像します。

 原子力には素人の私でも、緊急停止しても原子炉は高温が続き、その状態で冷却機能が失われれば、温度が上昇し、炉心が損傷しかねないことくらい分かります。11日午後3時42分には津波によって電源が失われ、それにより冷却機能が機能しなくなりました。多分、ここで緊急炉心冷却装置が作動したはずですが、午後4時36分には1号機と2号機でこの装置による注水ができなくなりました。しかし、菅直人首相は午後4時54分に放射能漏れはないと説明しました。ところが、午後7時50分には枝野幸男官房長官は放射能漏れの危険があるとして、原子力緊急事態を宣言しました。12日午前11時20分には、1号機の水位が低下し、一時的に燃料棒が露出し、燃料棒が損傷する炉心溶融が起きた可能性を原子力安全保安院が発表しました。しかし、枝野官房長官は炉心溶融が起きていたとしても一部だけであり、全体が溶融する事態には至っていないと言いました。

 この辺から、私は政府発表に不信感を持つようになりました。発表の内容と推定される状況に差がありすぎました。12日に掲載した記事で、私はこう書いていました。

 ところで、福島第1原発の状況を今朝から注意してニュースを見ていました。状況は最悪の方向に向けている可能性があります。しかし、政府の発表は極めて緩いもので、疑問を感じていました。原子炉の水位が下がって燃料棒が露出し、水を注入しても水位が下がっているのです。

 私が言う「最悪の状況」とは、言うまでもなく完全な炉心溶融のことです。炉心を停止しても、崩壊熱は高温で、その状態で冷却機能が失われれば何が起きるかは明白でした。いま思えば、この予測はあたっていたわけです。

 完全な炉心溶融が起きているのではないかという記者の質問に対して応えた時、枝野官房長官は、燃料棒全体が融けてしまう完全な炉心溶融を「メルトダウン」と呼び、一部の溶融を「炉心溶融」と表現したため、以後、マスコミは両者を分けて報道し、これは最新の報道においても続いています。これについて、私は3月13日に解説をしていますが、枝野官房長官の術語の使い分けは間違っています。(記事はこちら

 原子力安全保安院が部分的な炉心溶融を宣言した時、完全な炉心溶融が起きていたことになります。この最も重要な状況認識において、政府当局は完全に誤っていたわけです。

 やっと、ここまで状況が判明したわけですが、情報開示の問題はまだあります。

 1号機の圧力容器の穴は数センチとされますが、一体誰が穴の大きさを確認したのでしょうか?。1号機は十時間も空焚きが続いたのに、これだけの小さな穴で済むと断言できるのでしょうか?。莫大な量の水が数センチの穴から全部漏れたと考えるのは馬鹿げています。東電は2号機と3号機でも炉心溶融が起きた可能性があると認めたものの、記事は「東電は炉内の温度などから、2、3号機は1号機より燃料の損傷が少ないと推定している」とも言っています。1号機よりも2号機、3号機の方が出力が大きいのだから、より損傷も大きい可能性があると、なぜ考えないのでしょうか?。

 最近、3号機の圧力容器の上端で温度が急上昇しており、東電は「注水用配管から水が漏れている可能性がある」として、別の配管で注水する方針との報道がありました。この期に及んで、確認されるまでは3号機の炉心溶融は起きていないものとしているのです。

 東電の対処そのものに対する疑問もあります。

 東電は、冷却水にホウ酸を混ぜることにしました。最初、海水を注入したのは、塩分が中性子線を吸収するためで、淡水に切り替えたあとは塩分濃度が下がったためとしています。海水は内部を腐食させるので、アメリカからの警告で淡水に切り替えたはずです。また、アメリカの専門家からは、海水の中の成分と反応して小さな連鎖反応を起こしている可能性も指摘されています(記事はこちら)。ホウ酸を投入するのは正しいのでしょうが、海水にも危険性はあるのに、それを無視して、正しい対処を続けてきたと言いたげな発表は信頼できません。

 なお、電源車が使えなかった問題で、設備が津波で使用できなくなったためと報じられました。当初週刊誌が報じたような電源ケーブルが短かったことではないらしいのですが、これもさらなる確認が必要でしょう。


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