16人殺害米兵に死刑の可能性

2012.3.14


 米兵がアフガン人16人を虐殺した事件について続報がいくつか出ていますが、あまり詳細な記事はありません。

 military.comによれば、レオン・パネッタ国防長官(Defense Secretary Leon Panetta)が容疑者が死刑になる可能性を述べたことは、ごく簡単に報じられました。

 パネッタ国防長官の発言は日本でも報じられていますが、気になる点を紹介します。

 パネッタ長官はキルギスタンへ向かう航空機の中で記者に対して、容疑者は米軍の軍法で裁かれ、死刑の可能性があると述べました。「事件後のある時点で、(彼は)前進作戦基地に戻り、基本的には自分自身で帰ってきました」「何が起きたかを隊員に話しました」。死刑を宣告されるかを尋ねられると、「私の理解ではこうした事例では判決が出るかもしれません」と答えました。

 カルザイ大統領は犠牲者の親族で、脚を負傷した15歳の男の子、ラヒウラ(Rafihullah)と電話で話しました。彼は兵士が家の中で女性たちの服を引き裂き、侮辱したと言いました。「彼は私の叔父の家に来て、女性の後を追いかけ、服を引き裂き、侮辱しました」「彼は叔父、使用人、祖父を殺しました。彼は叔父の息子と娘を撃ちました」。

 military.comによれば、カルザイ大統領の兄弟2人、クェム(Qayum)とシャー・ワリド(Shah Walid)を含む代表団が追悼式のために現地を訪問し、タリバンの待ち伏せ攻撃に遭いました。代表団は車に乗り、無傷で待ち伏せを逃れました。タリバン広報官、カリ・ヨセフ・アフマディ(Qari Yousef Ahmadi)は、バランディ村(Balandi village)での代表団攻撃の犯行声明を出しました。タリバンは先に銃撃犯を斬首すると言いました。警察はタリバンがオートバイで村に来たと言いました。彼らは代表団を遠い並木の陰から待ち伏せしました。アフガン軍が撃ち返し、タリバンを殺しました。兵士と軍検察官を含めた2人が負傷しました。代表団は犠牲者の家族に死者1人に2,000ドルを、負傷者1人に1,000ドルの補償金を支払いました。

 東部のジャララバード(Jalalabad)では数百人の学生が最初の大きな抗議を行い、アメリカと犯人に対する怒りのスローガンを叫びました。カブールから東へ125kmにあるジャララバード大学で抗議する学生たちは激怒しました。「アメリカに死を!」「国民を殺した兵士に死を!」と叫びました。一部は兵士の裁判を要求した旗を掲げました。他の抗議者はオバマ大統領の人形を燃やし、キリスト教への嫌悪を示すために十字架に火をつけました。「我々が抗議する理由は、無辜の子供と国民をこの圧制者、米兵が殺したためです」と学生、サーダー・ワリ(Sardar Wali)は言いました。「我々は国連とアフガン政府にこいつの公開裁判を要求します」。

 タリバン広報官、ザビウラ・ムジャヒッド(Zabiullah Mujahid)は声明の中で、兵士は戦争犯罪人として裁かれ、犠牲者の親族によって処刑されるべきだと述べました。

 事件後、アフガンの政治家たちは、犯人がアフガンで裁判にかけられるまで、アメリカとの条約交渉の停止を要求しました。

 犯人はカンダハルで公判前の監禁中で、米陸軍当局は彼の完全な戦地派遣と医療の記録を再評価しています。アフガン駐留米軍指揮官、ジョン・アレン大将(Gen. John Allen)は、兵士は察知されることなく基地を出たと言いました。アフガン兵が彼が行くのを見て、これを米兵に報告し、彼は点呼を取り、容疑者がいないことを認識しました。捜索隊が編成されましたが、アレン大将はその後に何が起きたかを述べませんでした。

 犯人は2月1日にベランバイ(Belambai)、攻撃を受けた村から半マイルにある基地に配属されていました。

 その他、オバマ大統領が事件を完全に調査すると宣言した記事もあります(記事はこちら)。


 記事から目新しいこと、注目に値する事柄を集めました。

 兵士が死刑になる可能性は私も昨日から考えていました。これまでに分かっているだけでも、彼が行った行為は重大です。短時間であるものの無許可離隊をしています(基地に戻っているので脱走罪にはなりません)。その最中で16人に暴力を加えて、殺害しています。これが計画的な殺害(謀殺)か、ストレスに耐えられなくなって発作的に行ったのかで罪は違ってきますが、16人も殺害した点で、死刑を回避する術はなくなったと考えられるのです。イラクで戦友をそそのかし、少女を強姦して殺害し、家族を皆殺しにした事件の主犯、スティーブン・D・グリーンは除隊後に民間の裁判では死刑が求刑され、仮釈放のない終身刑を宣告されました(関連記事はこちら)。軍事裁判なら死刑の可能性があったと私は考えます。今回の事件では、脳外傷の程度なども考察する必要はあるものの、極刑は免れにくいと思われるのです。

 政治面を見ると、この事件はアフガン撤退に影響は与えません。むしろ、大統領選挙については、共和党候補者には難しい判断を迫ります。オバマ政権を批判するために「タリバンを殺せ」と叫ぶことが、ミット・ロムニー候補のような人にとっては、一層難しくなるからです。言えば言うほど米国民はこの事件を思い出し、戦いを続けば、再び事件が起きてアメリカの威信を傷つけることになります。多くの国民がアフガン撤退は正しい判断だと考えるようになり、オバマの続投を願うようになります。

 今後もこの事件は続報に注意していきます。


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