北朝鮮の戦争準備はみせかけか?

2013.3.12


 最近、シリア内戦の理解に時間がとられて、北朝鮮関係の問題を取り上げられていません。国連が核実験に対して経済制裁を決定してから、北朝鮮が戦争をはじめるような動きを見せていることについて書きます。

 最近、北朝鮮は1992年の南北非核化共同宣言を破棄。板門店に設置されている南北赤十字間のホットラインを閉鎖。金正恩第1書記が7日に、韓国の延坪島と近い長在島防御隊と茂島英雄防御隊を視察し、「全軍将兵は全面戦を開始する準備ができている。敵が機微な水域でわれわれに再び少しでも手出しする妄動に出るなら、千載一遇の機会を絶対に逃さず、全戦線に正義の祖国統一大進軍の開始命令を下達する」と述べたとされます。朝鮮中央通信は7日、「朝鮮人民軍の兵士が既に決戦態勢に入っている」と報道。

 しかし、これらは核実験を続けるための心理戦であり、実際に総力戦に入る構えとは思えません。11日も開城(ケソン)工業団地は正常に稼働しているからです。北朝鮮が韓国の出資で北朝鮮領内に作らせた開城工業団地は北朝鮮にとって重要な資金源です。本当に戦争をするのなら、ここを閉鎖しないわけはありません。駐在している韓国人は拘束するか、追い出すかして、機材をすべて自分のものにする構えを見せるでしょう。というのも、工場を運営しているのは韓国人なので、北朝鮮は独力では工場を動かせないのです。戦争となれば、使えるものだけは使うという形にするはずです。

 金正恩第1書記の声明も、毎回、行われるものと変わりません。「敵が機微な水域でわれわれに再び少しでも手出しする妄動に出るなら」と条件付けをしているのは、こちらからは手出しはしないことを承知で言っていることであり、それなしには攻撃をしないことを宣言しているようなものです。また、延坪島の攻撃は成功したように見えますが、茂島は韓国軍の反撃で被害が出ているはずで、そこを視察したのは、むしろ逆効果のように見えます。延坪島砲撃事件は当時、当サイトで公開情報を基に詳しく検討しましたが、韓国軍の反撃はかなり成果をあげたはずだと判定できました(関連記事はこちら )。韓国の哨戒艦「天安」を撃沈した事件では、北朝鮮は関与を否定していますから、その潜水艦の基地は訪問できなかったのでしょう。通常戦力では、そんな程度の場所しか北朝鮮にはアピールできるものがないのです。

 だから、今回の挑発行為は、国際社会で地位を得るために核保有国となるために核開発を続けるため、国連の制裁に反発し、開発を継続するための工作と見るべきです。

 韓国政府はこうした北朝鮮の性質を理解した上で、偵察活動を強め、本当の侵攻があり得るかを調査し続けているはずです。

 延坪島砲撃以降、韓国政府は、攻撃を受けた場合の反撃の強度を強めると宣言しています。延坪島で手痛い打撃を受けた北朝鮮軍が、韓国軍の強力な反撃に耐えられるかどうかは疑問です。

 心配なのは、北朝鮮が核による恫喝が効果ありと考えている場合です。テポドン2号を打ち上げたのだから、世界は北朝鮮が核兵器を保有していると信じているはずだと考え、通常兵器による攻撃をためらわない場合は、実際に攻撃があるかも知れません。テポドン2号は韓国や日本を攻撃するには、射程が長すぎて使えないことから、ノドンミサイルに核兵器が搭載できるかどうかが問題です。核兵器の小型化に成功し、ノドンミサイルに模擬弾頭を積んで、打ち上げ実験を成功させていれば、理屈の上では、日本と韓国に核攻撃ができることになります。実際のことは分かりませんが、私はまだそこまで行っていないのではないかと考えています。というのも、日本と韓国、さらに在日・在韓米軍を含めて核攻撃できる態勢が完成しているのなら、北朝鮮は防衛戦ではあまり心配がいらない状態になっているはずです。次にやるべきは、経済力を高め、国民の不満を取り除くことです。それとは違う道を選択するのは、多分、そういうレベルではないからだと考えられるからです。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.