ランド社の報告に見る中国脅威論の乖離
先日紹介したランド社の報告書をもう少し詳しく読んでみました(過去の記事はこちら 1・2)。報告書は640ページもあるため、読むのは全体のごく一部です。その内容が日本国内でいわれる中国軍の脅威とはかけ離れていることに驚かされます。報告書の概要と日本での認識の乖離を中心に解説します。
シナリオの受け止め方
まず、この報告書が取り上げた台湾と南沙諸島のシナリオについて、どう受け止めるべきかを考えておきましょう。現実的に書いてあるような危機が迫っているという訳ではありません。シナリオを設定しないと検討ができないので、米軍にとって最も負荷が高い状況を設定しているのです。というのも、こういう分析は軍が予算を獲得するための叩き台として活用されるものなので、地域の安定を目的にして、軍に何が必要かを考えるためのものだからです。(その結果、莫大な国防予算が執行されるのですが)
現実的には、大型旅客機300機をアメリカから買うような中国が台湾に侵攻し、商談を壊すような真似はしないと考えられます。そした政治的な状況は分析が長期的なものであることもあって、考慮はされていません。純粋に危機が起きたことを前提としているだけなのです。
だから、こういうシナリオが取り上げられたのだから、台湾が危ないと考える必要はないのです。中国による台湾侵攻は過去何十年にも渡っていわれながらも、一度も実行されていません。台湾を侵略すれば中国は国際的に大きな非難を受け、国連常任理事国としての面子を失い、経済活動の大半が停止させられることが予測されます。そうした不利益を顧みずに攻撃を決行するような判断を中国政府がくだすとは考えにくいといえます。この点は考え違いしないでください。
分析の手法
この報告書では、10項目について米中のどちらが有利かを判定しています。(前回10点満点で判定と書いたのは誤訳でした。正確には10項目について5段階で評価しています)
航空・ミサイル
①中国軍の空軍基地への攻撃能力で、米軍が前進航空基地を使えないようにする中国軍の能力を判定
②台湾と南沙諸島への航空作戦能力で、米空軍と中国空軍の制空権を得る能力を判定
③米軍の中国空域へ侵入する能力で、米軍が中国軍の防空を突破する能力を判定
④米軍の中国軍の空軍基地を攻撃する能力で、中国軍の空軍基地と基地の活動を低下させる米軍の能力を判定
海上
⑤中国軍の対水上艦戦能力で、中国軍の米航空母艦やその他の戦闘艦を破壊もしくは損傷する能力を判定
⑥米軍の中国海軍への対水上艦戦能力で、米軍の中国揚陸艦と護衛を破壊する能力を判定
宇宙、サイバー空間、核兵器
⑦米軍の中国軍の宇宙システムに対抗する能力で、米軍が中国軍の軍事衛星を使えなくしたり抑制する能力を判定
⑧中国軍の米軍の宇宙システムに対抗する能力で、中国軍が米軍の軍事衛星を使えなくしたり抑制する能力を判定
⑨米軍と中国軍のサイバー戦の能力で米軍と中国軍がサイバー戦から得られる軍事的優位の相対的能力を判定
⑩米軍と中国軍の戦略核の安定性で、両国が核攻撃を生き残り、報復する能力を判定
これら10項目で日本に特に重要なのは「6」でしょう。中国軍の揚陸艦とそれを護衛する艦隊を防ぐ能力は日本への着上陸侵攻が可能かどうかを判定するのにも使えます。それを踏まえて、結論の要約を読んでみましょう。
①中国軍の空軍基地への攻撃能力
アメリカの最近の戦争における航空戦力の重要性を考えると、この地域で中国がアメリカの能力を無力化する方法を模索することは意外ではありません。最も重要なことですが、中国軍は米軍の前進航空基地を脅かす弾道・巡航ミサイルを開発してきました。1996年には少数の通常兵器を搭載した弾倉ミサイルだけでしたが、中国の武器の在庫はいまや約1,400発の弾道ミサイルと少数の巡航ミサイルを数えます。大半は短距離のシステムとはいえ、それらは日本の米軍基地を攻撃できる増加しつつある中距離の弾道ミサイルを含みます。重要なことに命中精度も向上しました。半数必中界(ミサイルの半数が着弾する範囲のこと)は199年代の数百メートルから現在は5または10メートルへ減少しました。兵器の射程は短距離(1,000 km)から中距離(1,000~3,000 km)へと向上しました。これら弾道ミサイルによる台湾海峡に最も近い嘉手納基地への攻撃に関するランド社のモデルは、比較的少数の正確なミサイルが敵対した初期において重要な日々に航空作戦用の基地を閉鎖させ、集中し、献身的な攻撃が単一の基地を数週間閉鎖するかも知れないことを示します。防御の向上、航空機のシェルターの強化、滑走路を素早く修理する方法、航空機の分散といった米軍の対抗手段は脅威を潜在的に減少させられます。しかし、大きな米軍の防御の技術革新を除くと、中国軍のミサイルの数と種類の増加は前進基地から活動する米軍の能力に対するほぼ間違いのない課題となるでしょう。攻撃の影響を受けやすいか、紛争の現場からより離れた基地から飛行することを余儀なくされる米軍航空機の割合が大きいため、基地設置の問題は戦場の上空で制空権を得る米軍の努力を大きく困難にします。
②台湾と南沙諸島への航空作戦能力
実質的に、どの東アジアのシナリオでも、米空軍と米海軍航空機は中国軍の攻撃を鈍らせる重要な役割を演じます。1996年以降、アメリカは既存の航空機を改良し、F-22とF-35を含む、いわゆる第五世代の航空機を導入しました。一方、中国は旧式な第二世代の航空機を入れ替え、それは1996年に中国空軍の大多数を現代的な第四世代の設計にしました。これらの第四世代の航空機は現在、中国空軍の戦闘機の約半分を構成します。これらの変化の正味の影響は米空軍と中国空軍の質的なギャップを狭くしてきましたが、閉じることはありません。考察される2つのシナリオにおいて、この変化の影響を評価するために、我々は適切な基地使用、飛行距離、戦闘力構造データを使う戦術・作戦航空戦闘モデルを採用しました。モデルはアメリカが西太平洋で中国軍の航空作戦を打ち負かすために維持する必要がある戦闘機の数を判定します。結果は米軍の必要数が1996年以降、数百パーセント増加したことを示唆します。2017年の台湾侵攻では、米軍指揮官は7日間の作戦で勝つために米軍に必要な基地活用をおそらくできません。彼らは時間的制約を緩め、より長期の作戦で勝つことはできますが、これは中国軍の航空作戦に対する地上軍と海軍の脆弱性を対応する長い期間そのままにします。南沙諸島シナリオはより簡単で、台湾シナリオの軍隊の約半数を必要とします。
③米軍の中国空域へ侵入する能力
米軍指揮官は中国軍の防空の発展について同様に懸念させられています。それは紛争時に中国の空域の中または近くで活動するのをより難しくします。1996年、中国軍の500発を越える長距離地対空ミサイル(SAM)は旧式なロシア製SA-2ミサイル(射程約35km)中国の複製品でした。2010年までに中国は二桁のSAMのために約200基のランチャーを開発しました。新しいミサイルはより洗練された追跡装置と200kmを越える射程を持ちます。より能力がある戦闘機と新しい航空警戒管制システムを装備した航空機と組み合わせられ、中国軍は統合防空システム(IADS)は恐るべき障害となりました。しかし同時に、米空軍はステルス機と新しいSEAD機(敵防空を抑制する航空機)を追加して侵入能力を改善しました。我々は台湾と南沙諸島シナリオでアメリカの攻撃機が中国の防空を突き破る能力を評価するためにターゲッド・カバーレージ・モデルを使いました。結果は中国の純益を示し、改良されたIADSが改良された中国の空域へ侵入する米軍の能力を中程度のリスクへと減らすことを示しました。我々の空域侵入モデルはスタンドオフ攻撃能力(敵射程外からの攻撃力のこと)、ステルス機、SEAD機は中国防衛の影響を低減するものの、台湾の反対側の侵入・目標攻撃能力を米航空機に危険を最小限にする能力が1996年と2017年の間で大きく低下することを示します。しかし、南沙諸島シナリオでは目標を突き破るアメリカの能力は遙かに強力なままです。これは重要で少数の米軍資産(スタンドオフ兵器とステルス機等)がずっと小さな目標群を攻撃するために配置されるためであり、関連する目標群が結局のところ、海岸に近いからです。
④米軍の中国軍の空軍基地を攻撃する能力
中国の空域へ侵入することは、特に台湾の反対側の高い脅威の環境で、より危険になっている一方で、1996年以降の新世代の精密兵器はアメリカに新しい選択肢と強力な打撃を与えます。実質的に今日米軍が使う非誘導爆弾すべては統合直接攻撃弾のような誘導パッケージが装備され、それはそれを全天候型の精密兵器へと変えました。より長い射程で、米軍はスタンドオフ兵器多数を利用できます。それらは目標を数百km先から命中させる能力を持ち、増加する多種のプラットフォームで開発できます。このより長距離で多種類の精密・スタンドオフ兵器は米空軍により多くの目標を攻撃することを可能にして、それぞれの攻撃でより多くの損害を引き起こします。米軍の攻撃能力と中国軍の防衛能力の影響を評価するために、我々は台湾と南沙諸島から無補給の戦闘機の範囲内にある中国の空軍基地40カ所と南沙諸島を範囲に収める中国軍機少数への攻撃をモデル化しました。滑走路への攻撃は、1996年には米軍の空襲は中国軍の滑走路を平均8時間閉鎖できました。この数字は2010年までに2〜3日間へ増加し、2017年まで大体同じままです。4回の評価のすべてで、米空軍は効果的に南沙諸島の反対側の中国空軍基地すべてを作戦開始第1週の間閉鎖できました。地上攻撃は総体的なアメリカのパフォーマンスに数少ない光点を表す一方で、スタンドオフ兵器には限りがあり、より長期の紛争におけるパフォーマンスは要素が広範囲に依存することを指摘することは重要です。
⑤中国軍の対水上艦戦能力
中国軍は米軍の地上配備の航空戦力を無力化するための努力と同じくらいに米空母攻撃打撃群(CSG)を危険にさらすことに重点を置きました。中国は信頼できて、安定した水平線越え(OTH)の諜報、監視、偵察(ISR)能力を開発してきました。中国は2000年に最初の軍事用画像衛星を打ち上げ、2007年に最初の空中伝達レーダーシステムを開発しました。空中伝達システムは中国沿岸から2,000kmまでの目標を探知し、多くは不正確ながら位置を提供できます。中国の宇宙と電気分野の発展は衛星打ち上げの頻度を増やし、広範囲な最新型ISR衛星を配置することを可能にしました。最初の全世界対応の中国の対艦弾道ミサイルの開発は 米海軍指揮官達に新しい脅威の局面を示します。これらのミサイルの鎖を切ることは中国軍にとって非常な困難をもたらし、対抗策を開発するためにアメリカはあらゆる努力をするでしょう。よって、対艦弾道ミサイルは有名メディアがしばしば推測する一発で一隻を撃沈するような脅威ではないかもしれません。しかし同時に、中国の航空、特に潜水艦能力の現代化が進んでいることは、CSGへのさらなる信頼があり、困難な脅威を示します。1996年と2015年の間に、中国の現代的なディーゼル式潜水艦は2隻から37隻へ増え、4隻を除いて(魚雷と共に)巡航ミサイルを装備しました。ランド社のモデルは中国潜水艦隊の有効性(空母に対する攻撃を成功させる攻撃の回数で判定)は、1996年と2010年の間でおよそ一桁増え、それは2017年まで向上し続けることを示唆します。中国潜水艦は台湾と南沙諸島の紛争において米水上艦に信頼性のある脅威を示します。
⑥米軍の中国海軍への対水上艦戦能力
我々は中国軍の水陸両用作戦の能力と、米軍の中国揚陸艦を沈める潜水艦、航空、水上軍の能力を評価しました。我々は中国の水陸両用部隊を破壊する米軍の能力が1996年以降低下したものの、それでも恐るべきものであることを見出しました。中国軍の総合的な揚陸艦の能力は1996年と2017年で2倍になろうとしています。中国はより洗練された対潜水艦戦用ヘリコプターと艦船多数を展開しました。標的となる船が著しく増えたことに対応して、ランド社のモデルは米潜水艦が負わせる損害が1996年以降下落したことを示します。しかし、2017年でも米潜水艦だけで7日間の作戦で、上陸部隊の組織的な健全性を台無しにする損害にあたる中国揚陸艦の40パーセントを破壊できます。巡航ミサイルを装備した米航空機と水上艦も対水上艦戦に参加します。冷戦終結後の数年間、アメリカの新型対艦巡航ミサイルは比較的、優先度が低いままで、この分野でのアメリカの進歩は世界中で足並みを揃えませんでした。しかし、過去数年間にわたり、米軍は高い脅威の環境により適合させるためにミサイル開発に焦点を合わせ直しました。中国の水陸両用部隊に対する米軍の能力が幾分低下したとしても、潜水艦、航空機、水上艦の攻撃のコンビネーションは、それでも中国の水陸両用部隊と着上陸侵攻を実行したり維持する彼らの能力に深刻な脅威を与えます。
⑦米軍の中国軍の宇宙システムに対抗する能力
526個の稼働する人工衛星を持つアメリカは、132個の人工衛星を持つ中国がするよりも遙かに大きな軌道上のインフラを持っています。しかし、中国は宇宙空間での努力を加速してきました。2009年から2014年までの人工衛星の打ち上げの平均回数は、2003年から2008年までの2倍以上で、1997年から2002年までの3倍以上です。他国がそうした展開を合理化することを恐れ、他の種類の軍事作戦のために宇宙空間での支援に依存することもあり、アメリカは歴史的に対宇宙空間の能力を展開することをためらってきました。しかし2002年、ワシントンは方針を変え、精選された対宇宙空間能力へ資金提供を承認しました。2004年、敵の通信衛星を妨害するよう設計された対通信システムが初期の稼働能力に達しました。米軍は実験的または軍民両用のシステムを利用することもできました。レーザー測距衛星は他の対宇宙空間システムの正確な位置データを提供できました。高エネルギーレーザーシステムのようなさらに強力なレーザーは潜在的に中国の人工衛星の光学センサーの目をくらませるために使えました。実際上、政治上の考察がそうした破壊的な攻撃に対して強い重荷になるものの、米軍は潜在的に運動エネルギー兵器として改良型の要撃弾道ミサイルを使えます。全体的に、アメリカは地球上の作戦を支援するために宇宙空間を活用することでリードするものの、対宇宙空間能力は比較的未発達なままです。
⑧中国軍の米軍の宇宙システムに対抗する能力
中国は対宇宙空間能力の広範な範囲を追求してきました。2007年に中国は高度850kmで稼働していない中国の気象衛星に対するミサイル試験で運動エネルギーを使う対人工衛星能力を示しました。2014年7月、中国は弾道ミサイル迎撃の3度の試験も発表しました。これらの試験は対人工衛星試験と同様の高度で行われ、ほぼ間違いなく対人工衛星兵器や任務でも採用される技術を使用しました。最終的に、政治的な考察、エスカレーションへの恐れ、中国のシステムのスペースデブリへの脆弱性が中国軍が運動エネルギー攻撃を使用することを阻止するかも知れません。恐らく、もっと恐れるのは、中国軍のロシア製のジャミングシステムと軍民両用の高出力無線送信機です。それはアメリカの通信・ISR衛星に対して使えるかも知れません。アメリカ同様、中国はレーザー測距衛星を使っており、それはアメリカの衛星を目くらまししたり、攻撃の他の形を促進するために軌道を追跡するかも知れません。中国の攻撃能力に加え、特定の米人工衛星軍にもたらされる脅威の程度は高度、数、衛星群の中の人工衛星の軌道、攻撃に直面して機能を維持するためのアメリカのシステム能力に依存します。我々はアメリカの宇宙に基盤をおく機能7つへもたらされる脅威を評価しました。それらほとんどに対する脅威の程度は増加しています。通信衛星(ジャミングにさらされます)と画像システム(数は少数、4個は低軌道上)への脅威は特に厳しいです。アメリカの全地球位置測定システムとミサイル警報システムの2つのケースでは、衛星の機能と数量を更新したり向上させることは大幅にリスクを減らすかも知れません。
⑨米軍と中国軍のサイバー戦の能力
中国のサイバー活動はアメリカとその同盟国で大きな懸念の源となりました。中国からの敵対的なサイバー・スパイ活動多数が中国軍とつながるという強力な証拠があります。中国軍は少なくとも1990年代後半から組織化されたサイバー部隊を維持してきた一方で、アメリカのサイバー部隊は2009年にやっと形成されました。それでも、戦時下の状況の中、アメリカは多くが思うようにサイバー分野で十分にやっていないかも知れません。サイバー部隊は国家安全保障局と密接に活動し、洗練されたツールキットに大きく頼ることができます。さらに、ありそうなサイバー攻撃の総体的影響を評価する中で、目標となるユーザの技術、ネットワーク管理、総合的な弾力性は少なくとも攻撃者の能力と同じくらい重要です。これらの分野すべてで、アメリカは相当なアドバンテージを満喫しますが、中国のパフォーマンスは向上しています。中国のサイバーセキュリティは疑わしく、民間人のコンピュータはマルウェアによる世界最高の感染率で苦しみます。それでも、両国は紛争の中でサイバー分野で重大な奇襲に直面し、インターネットに接続された機密化されていないネットワークに依存するため、アメリカの兵站活動は特に脆弱です。
米軍と中国軍の戦略核の安定性
核兵器については双方が満喫するアドバンテージよりは、危機の安定性相互的な核兵器の関係の機器における安定性を判定します。具体的には、相手の第一撃に直面した両国の第二次攻撃能力の生存力を検討します。両者が第二次攻撃能力に対する生存力を維持する場合、強者と弱者の両方の第一撃をしようとする誘因は弱まり、安定性はその感覚において強化されます。分析は核攻撃の目標の数、機動性、堅牢性と共に、両者の攻撃兵器の数、射程、正確性を検討します。中国は1996年以降、核戦争部隊を現代化し、品質を改善しただけでなく、量を増やしました。中国は道路機動型DF-31(CSS-9)と大陸間弾道弾DF-31(ICBM)、 094型原子力潜水艦(SSBN)、射程約7,400kmの12発を搭載できるJL-2潜水艦発射型弾道ミサイルの導入で生存性を向上させました。2015年4月、米国防総省は中国が複数が独立して照準できる再突入体をDF-5ミサイルの一部に追加したと発表し、中国は現在次世代の道路機動型ICBM、SSBN、SLBMを開発しています。アメリカは核兵器の現代化のために大きな資金提供を行いましたが、戦略兵器削減条約(START)と新しいSTART両方への関与を続け、中国と対照的に、配備された弾頭の数と戦略的輸送システム(重爆撃機、ICBM、SSBN)の数を減らしています。中国軍の核部隊の追加と米軍の減少にも関わらず、2017年ですら、アメリカは弾頭で少なくとも13対1の数的な優位を満喫するでしょう。評価したどの年においても、中国軍の第一撃はアメリカに報復能力を与えないことはできませんでした。中国の生存性は大きく向上しました。核攻撃交換モデルは、2003年でも少数の中国のシステムが米軍の第一撃を生き残るだけかもしれず、この結果も大きくは攻撃の前に中国が配備している単一の信頼性のない夏級原潜(094型の事)を配置することに大きく依存していることを示します。2010年と2017年の事例では、より多くの中国軍の弾頭が生存し、外国の指導者は中国に対する武装を解除する第一撃をいかなる信頼性の程度においても考えることはできませんでした。
以上のような考察の結果、報告書は次のようなチャートに結論をまとめました。色が緑色になるほどアメリカが有利で、赤くなるほど中国に有利です。南沙諸島ではアメリカが優勢です。台湾では強い優位性を持つとはいえませんが、台湾軍がいることを考えると、総合力では勝っているといえるはずです。今後、問題点が改善されれば、問題はさらに小さくなります。
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日本に関係が深い「米軍の中国海軍への対水上艦戦能力」の本論の部分(201〜225ページ)については、もう少し時間をかけて読んでみたいと思っています。
報告書から見る中国軍の沖縄侵攻
大陸まで200km以下という狭い台湾海峡を隔てた着上陸作戦においても、米軍単体で圧倒的に有利な状況であることがお分かりでしょう。潜水艦部隊だけで中国軍の水陸両用部隊の40パーセントを破壊できるのです。これに水上艦や航空機が加われば、もっと多数の艦船が破壊され、台湾軍による攻撃も加えれば、事実上、上陸作戦を成功させることは不可能なのです。
大陸からの距離が650kmもある沖縄に関していえば、中国軍はもっと大きな打撃を受けることになります。中国軍艦船は3倍以上ある距離を移動するため、攻撃を受ける回数が圧倒的に増え、航空機による支援が困難になるのです。海上自衛隊の潜水艦は中国軍の潜水艦よりも遙かに静かで、航空自衛隊には航空機に搭載する対艦ミサイルもあります。これらをすり抜けたとしても、陸上自衛隊の対艦ミサイルが待っています。
インターネット上には、中国軍は強力で自衛隊などひとたまりもないと言う人がいます。しかし、ランド社の分析を見る限り、むしろ不可能に近いということができるのです。
台湾侵攻で日本も攻撃されることに気がつかない日本人
台湾シナリオでは、日本の米軍基地が自由に使えることを前提にしています。そして、このことは不思議なくらい日本では語られません。「台湾の防衛だから、台湾の個別的自衛権の話。日本は関係ありませんよね」と考える人がほとんどでしょう。
台湾とアメリカは集団的自衛権の同盟を結んでいます。アメリカが中国と国交を回復したため、それまでの「米華相互防衛条約」の代わりとして、1979年4月に「台湾関係法」が米台間で制定されました。条約の名前は変えたものの、この条約はアメリカが台湾に武器を提供したり、台湾が攻撃されたらアメリカが参戦すると定めています。このため、台湾有事の際には在日米軍の基地が使われることになります。特に、沖縄の嘉手納空軍基地は主要な攻撃の発信源となります。従って、中国は間違いなく、こういう米軍基地を巡航ミサイルや航空機で攻撃します。同じことは北朝鮮と韓国に関してもいえます。朝鮮半島で戦争になった場合、同じことが起きると想定できます。
基地は広く、滑走路や建物を狙った攻撃が外れたとしても、基地の敷地内に落ちるとは言い切れません。特に弾道ミサイルの着弾の制度は低く、数km離れた場所に落ちたとしても不思議はありません。早い話、日本人が流れ弾で死ぬかも知れないということです。基地周辺の人は迷わず遠方へ逃げるべきです。他の地域にある米軍基地も攻撃を受ける恐れがありますし、そうした基地は市街地の中にある場合が多い点も問題です。しかし、「国民の安全が第一」といいながら、日本政府は何の対処もしていません。避難すべき地域を指定することもしませんし、避難訓練もしません。海外だけでなく、国内においても国民の安全は「自己責任」だということなのでしょう。要するに、極東で本当に戦争が起きるなんて、自公政権も防衛省も考えていないのです。安保法制に関して日本国内で語られた「中国脅威論」はアメリカで言われていることと乖離しています。ずれた説明でも、国内メディアは批判しないし、むしろ政府が流す情報を垂れ流します。その結果、多くの日本人が本当の脅威に気がつかず、政府の主張を受け入れるのです。本当はこれこそ売国的行為なのに、指摘する者は少数です。これは日本の防衛最大の悲劇です。
集団的自衛権の欠点
「集団的自衛権で抑止力が高まり、日本はより安全になる」というのが自公政権の主張です。しかし、すでに指摘してきたように、台湾とアメリカの集団的自衛権は日本に対する攻撃を引き起こします。朝鮮半島についても同じです。ならば、日本はアメリカに台湾や韓国と集団的自衛権の条約を結ぶなというべきでしょうか?。実は、台湾と韓国への軍事的支援は日本にある米軍基地を介して行われます。従って、日本、台湾、韓国の三カ国とアメリカの軍事同盟はどれかが切れると、相互に不都合が生じる構造になっているのです。日本がアメリカと条約を破棄すると、台湾と韓国への支援が困難になります。台湾や韓国との条約がなくなると、日本と条約を結び続ける必要性は急速に薄れます。こんなに密接な関係にあるのに、なぜか日本でまったく議論されないのはまったく疑問です。
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