ランド社の報告が指摘する中国揚陸部隊の脆弱性

2015.9.29


 ランド社の報告書により、中国軍の着上陸作戦能力では日本に侵攻するのは困難であることが明らかになりました。台湾への侵攻能力も怪しいのに、さらに遠方にある日本への侵攻は無理と考えるのが軍事の常識です。(過去の記事はこちら )。 

 報告書は2017年までに予定された軍備に基づいており、その後のことは不明です。中国軍がさらに遠征能力を増強し続けるなら、日本は警戒すべきです。しかし、今年の安保法制議論の中で、突然、中国軍が沖縄に侵攻するという途方もない見解が示されたことは、日本の安全保障議論がいかにいい加減かを示しています。「政治目的があって、それに合わせて脅威が用意される」のが日本の伝統です。

 ランド社は台湾軍の協力は考慮に入れず米軍だけで戦う場合を想定しました。まずは自力による武力解決を検討するのは軍事の基本です。日本も自衛隊だけでの防衛を検討すべきなのですが、なぜか米軍ありきで議論され、純粋に自衛隊だけでの防衛について日本国民は知らされません。自衛隊のみの防衛力が判定できなければ、防衛政策は決められないのに、なぜか政府もマスコミもそこは避けるのが慣例となっています。

 中国軍の侵攻能力についてさらに知るために、ランド社の報告書から「⑥米軍の中国海軍への対水上艦戦能力」をさらに読み込んでみます。記憶しておくと使える数字も多数書かれています。私の私見も加えながら要点を述べます。以下、文字が草色の段落は私の私見ですので、注意して読んでください。

中国軍の水陸両用部隊

 上陸作戦に不可欠な揚陸艦の数は1996年の54隻が、2015年には89隻に増加し、2017年も同じと見込まれます。その内訳は203ページの一覧表に書かれています。

 かつて、私がネトウヨを説得するために2010年の報道記事を使ったところ、記事が古い、その後に新造艦が多数就航していると笑われたことがあります。しかし、隻数は2010年は94隻でより多いのです。旧式艦が新型に置き換えられた結果ですが、輸送能力は2010年が2.6個師団、2017年が2.7個師団で大差はありません(203ページ、表8.1)。彼らは単に数字だけ見て、実態には斟酌しません。

 興味深い数字を眺めておきましょう。これらの数字が分析に用いられました。

 台湾海峡を渡る平均的な距離は120海里(約222.2km)。侵攻部隊が15ノット(時速約27.8km)で進むと、約8時間で越えます。揚陸艦の規模から海岸での上陸には1時間かかります。次の運搬に先立ち、揚陸艦の再積載、燃料補給、整備に12時間必要です。10隻で構成する揚陸艦の船団は約24分間の間隔に分けて押し寄せます。海軍陸戦隊3個旅団に加えて、中国は2007年から2012年の間に、水陸両用機械化歩兵師団2個師団を創設しました。台湾筋は2015年にこの師団が2個から4個へ増えたと報告しました。

 揚陸艦隊には護衛、水上戦闘、補助、囮の艦船も含まれ、7日間の作戦で見ると、何の抵抗も受けない場合、2010年には13個師団、2017年には13.5個師団を運べます。

 これは興味深い数字です。距離が台湾海峡の3倍もある沖縄に侵攻する婆、移動にかかる時間を考えれば、7日間に運べる部隊数は激減します。第一陣として投入できるのは最大2.7個師団で、荷物を降ろした揚陸艦は少なくとも24時間かけて大陸へ戻り、準備に24時間かけた後に、また24時間かけて沖縄を目指します。つまり、第二陣が到着するのは早くても上陸日から4日目です。次は7日目。これはかなり不利な作戦です。

潜水艦による迎撃

 米潜水艦は他の船と揚陸艦を見分けるために、揚陸艦隊から12海里以内(約22.2km)にいなければなりません。魚雷の最大射程は24海里(約44.4km)です。米潜水艦の攻撃成功率は魚雷一発につき1.0から0.8です。攻撃後、潜水艦が次の攻撃の前に位置を変えるために2時間かかるとします。

 中国軍のヘリコプターは船団の両側面を12海里離れ、高度100フィート(30メートル)で飛び、哨戒機は船団上空を高度300フィート(91メートル)を飛びます。ヘリコプターの海上レーダーの範囲は12海里、哨戒機は21海里(38.9キロ)です。24時間の監視で一度に使えるヘリコプターは総数の15〜20パーセント、哨戒機は25パーセントです。ヘリコプターの数は2010年には60機、2015年には71機、2017年は71〜73機。哨戒機は2010年が28機、2015年が6機、2017年が6機。

 中国軍の浮遊機雷とアクティブソナーは台湾海峡が狭いため効果を生まないとみなし、モデルに加えませんでした。

 接触する度に、米潜水艦は2分間潜望鏡をあげることで、2隻の目標を識別できるとみなします。

 中国軍は米潜水艦をレーダー、視覚、潜水艦の攻撃により知ることができます。潜望鏡をレーダーで探知するのは困難です。魚雷は米潜水艦の0.5海里以内に投下しなければならず、その場合の攻撃成功率は50パーセントと仮定します。

 2003年までは米潜水艦は中国軍の揚陸艦を100パーセント破壊でき、2010年は73パーセント、2017年は41パーセントです(212ページ、表8.4)。対して損耗はほとんどなく、2010年で1.07隻、2017年で1.82隻です(213ページ、表8.6)。

 時間がないので水上艦については省略します。コメントも簡単にします。ざっと見たところ、中国はもっと対潜空母を持たないと、日本へ侵攻できないのではないかと思われました。距離が長い分、ヘリコプター搭乗員への負担は重くなり、発着する場所が必要になります。


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