北朝鮮がテポドン2号打ち上げを準備中

2016.1.28

 CNNによれば、北朝鮮北部の東倉里にある西海衛星発射場を監視している米国の偵察衛星で、同施設への機材搬入や人の出入りが加速している様子がとらえられ、米軍や国際社会が警戒を強めています。

 米当局者によると、ここ数日で人の動きがあり、ミサイル関連機器や燃料が同施設に運び込まれていることが、衛星画像で確認されました。北朝鮮は、同施設から打ち上げられるのはあくまで人工衛星だと主張する見通し。ただ米当局者は、発射されるのは大陸間弾道ミサイルだと見ています。北朝鮮は2012年にもこの施設から人工衛星を積んだロケットを打ち上げたと発表し、平和目的の打ち上げだったと強調。これに対して米国や日本や韓国は、人工衛星を装った長距離弾道ミサイル実験だったとして非難していました。北朝鮮は今月に入り、初の水爆実験を成功させたと発表しています。


 2012年の打ち上げに続くテポドン2号の打ち上げが行われるようです。この打ち上げに際して、注意すべき事柄をまとめておきます。

 東倉里の発射場は西海岸側にあり、ロケットを真南へ打つための施設です。舞水端里の発射場は東海岸にあり、ロケットを真東へ打つための施設です。今回もまた、東倉里から打ち上げるということですから、テポドン2号は今回も真南へ向けて飛ぶはずです。

写真は右クリックで拡大できます。

 真東へ打ち上げるにはロケットに地球の自転の力を最も加えられるので、最大飛距離を測定するのに最適です。また、これは静止衛星を打ち上げるために必要な軌道でもあります。真南の場合、時点の力は利用できませんが、極軌道衛星を打ち上げるための実験ができます。他の方位に向けて打ち上げないのは、実験としては真東や真南へ打ち上げて性能を調べるためです。他の方位へ正確に打ち上げるにも、最初にこの二方向に正確に打ち上げられるかの確認が必要です。ロケットを完成させるためには20回程度の打ち上げ回数が必要といわれていますから、北朝鮮が任意の角度へ向けて打ち上げる可能性はまずありません。真南だと韓国や日本の領域をかすめる程度で済みます。

 もし、テレビ番組にロケットの専門家という人が登場し、北朝鮮がどちらへロケットを飛ばすかなど分からないと述べたら、その人はロケットの専門家ではありません。これまでもテレビ番組で「ロケット専門家」という人がとんでもない意見を述べることが何度も起きていますので、ご注意ください。

 2012年4月13日に北朝鮮は東倉里からテポドン2号を打ち上げましたが、韓国政府の発表では打ち上げから135秒後に機体が1段機体を分離したのか二つに分かれ、その後、上昇を続けた方の機体は高度151kmで降下を開始し、降下しながらバラバラに分離して墜落しました。

 このテポドン2号の墜落を探知したのは韓国軍で、自衛隊はまったく探知できませんでした。杉本正彦海上幕僚長は17日の記者会見で「海自のイージス艦は探知できなかったのが事実」「破壊措置に適した位置に配置していたために、ミサイルの落下位置から遠く離れていた」と述べました。海自はイージス艦3隻を配置し、2隻を沖縄方面で迎撃に最適の位置に、もう1隻を日本海に配置しました。日本海のイージス艦はまったく不要でした。東京に迎撃ミサイルを配置したので、その前方にイージス艦を置くという発想でしょうが、東京方面にテポドン2号が向かう可能性がないのですから、これは軍事的発想としては最悪です。こんな方針を採択してしまう防衛省には疑いの目を向けるしかありません(過去の記事はこちら)。韓国が日本のイージス艦が韓国領海に近づくことを許さないと考える人がいるかも知れませんが、その懸念はありません。この年の5月には、韓国政府から「日本が公海上にイージス艦を配備するのは日本の権利で、韓国と協議する必要はない」との見解が出されています(過去の記事はこちら)。2012年12月の打ち上げで、自衛隊がどんな配備をしたのかは分かりませんが、防衛大臣が「我が方としてレーダーに写っており」と述べ、落下した物体全ての位置を記者会見で説明しています。

 テポドン2号を迎撃できるなんて信じている自衛官はいないと、私は信じていました。迎撃は政治的な圧力を北朝鮮に与えるための工作と信じていました。ところが、自衛隊は本気で、全力で迎撃態勢を敷いていたのです。正直、強いショックを受けました。自衛隊は信頼に値しない組織だと分かった瞬間でした。今度の打ち上げでも、同じような失敗をしないことを祈っています。

 日本はテポドン2号に対して、やるべき対処をしていないのです。日本は2009年4月の打ち上げ時に、日本海に落下する1段機体を回収するチャンスがありながらやりませんでした。私は3月19日には機体を回収すべきと主張していました(過去の記事はこちら)。民主党の白真勲氏が同年4月7日の参院外交防衛委員会で浜田防衛大臣に機体を引き揚げることを提案しています(過去の記事はこちら)。提案を受けながらも、日本政府は何もしませんでした。そんなことをすれば、日本に危険が及ぶと考える人がいるかも知れません。2012年に北朝鮮は日米韓がロケットの落下物を迎撃、回収する準備をしていることについて、実施されれば「無慈悲な攻撃で懲罰する」と警告しましたが、韓国が機体を引き揚げても何もしませんでした(過去の記事はこちら)。

 こんな調子なので、集団的自衛権の行使に関する議論でも、テポドン2号が日本を経由してアメリカに向かうと嘘をつき、それを迎撃しないのは日本の恥だと、無知な人たちを煽ったのです。

 テポドン2号の構造においては、2009年4月と2012年12月で使ったジェットベーン式のエンジンなのか、2012年4月に使って失敗したジンバル式なのかが注目されます。

 ジェットベーンは噴射口の中に設置した金属の板が噴射の方向を変える方式です。構造は簡単ですが、効率が悪い方式といえます。ジンバル式はエンジンの向きそのものを変える方式で、構造が複雑で、効率がよい方式です。もし、ジェットベーンをまた使うようなら、技術的な進歩は認められず、ジンバル式なら進歩がみられたということになります。

 下の写真はジェットベーンが使われたテポドン2号です。噴射口の下に黒い棒状の物がぶら下がっているのがジェットベーンです。ジンバル式にはこれがありません。

2009年4月
2012年12月

 東倉里は当面、天気はよいようですが、気温が低いようです。打ち上げられる天候かどうかもみていく必要があります。

 


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