交戦規定に関して佐藤参議が無知を披露
ヒゲの隊長こと佐藤正久参議院議員がまたしても意味不明の発言を行いました。今回のは自衛隊のためにならない悪質な発言でもあります。
佐藤議員の発言はフェイスブックに投稿されていて、内容は以下のとおりです。
【南スーダン駆けつけ警護訓練、共産・志位委員長、武器使用基準の公開を要求、全く的はずれな批判】
日本国民の命を守る為に駆けつけ警護が必要な場合もある。国民のリスクを下げる為に自衛官がリスクを負う場合もある。その為に日頃から厳しい訓練を通じて任務遂行能力を高めている。
国民の理解を得る為に訓練を公開すべきとの一般原則はあるものの、中には手の内を相手に晒すことができないものもある。武器使用基準や手順は、まさにそれにあたる。一般に、手の内を晒すことは任務にあたる自衛官のリスクを高めることになる。
その意味で、時には自衛官が命を守れと言いながら、手の内を晒すことは自衛官を危険に晒すことにも繋がる。まさに全く真逆のことを言っている。共産党は、自衛隊解消をうたった綱領も見直さないし、武器使用基準の公開は、現実的な指摘とは全く思えない。
志位委員長の議会発言の該当部分は、共産党のホームページによると、以下のとおりです。(該当ページはこちら)
政府は、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派遣する自衛隊に「駆け付け警護」や「宿営地共同防護」など、安保法制に基づく新任務を付与することを想定し、訓練を開始しましたが、武器使用基準などを定めた「部隊行動基準」も、いかなる訓練を行っているかも、いっさい明らかにしていません。すべて国民に隠して事をすすめるつもりでしょうか。当然、国会に報告すべきではありませんか。答弁を求めます。
実は、志位委員長の主張は的を射たものなのです。
武器使用基準は交戦規定のことで、部隊運用基準の一部です。交戦規定とは戦闘時に兵士が守るべき規則のことです。
その内容は主にジュネーブ条約に関係することで、民間人の保護に関することなのです。
兵士が味方を積極的に守り、戦力を敵に集中する技術、つまり、戦術に関することは、基本的な兵士の戦闘技術だから、交戦規定には含まれません。
ジュネーブ条約は国際法ですから、当然、公開されています。それに基づいた交戦規定が公開できないはずがありません。交戦規定はジュネーブ条約に合致する必要があるからです。
むしろ、非公開にしたら、日本がジュネーブ条約に違反した交戦規定を設定したと疑われる理由にしかなりません。
佐藤議員や彼の支持者は、志位委員長が利敵行為をしていると批判しますが、ジュネーブ条約に基づいた規則を公開したところで、敵に情報を与えるはずはありません。
米軍は交戦規定を印刷して兵士に配ります。カードに印字できる程度の内容だから、字数はそう多いものではありません。
下に以前に私が訳出したイラク侵攻時(2003年)の米軍の交戦規定を掲示します(掲載アドレスは失念)。
CJTF-7合衆国交戦規定カード
このカードに書かれた事柄は、君が君自身を守るために致死性の暴力を使用することを妨げるものではない。
1.以下の指示に従って敵軍と民兵部隊を攻撃できる。
a.絶対的確証(PID)が交戦の前に必要である。PID とは君の標的は合法的に軍事的な標的であるという「合理的な確信」のことである。PIDが得られない場合、君の直上の指揮官に判断を仰げ。
b.降伏したり病気や怪我のために戦えない者は誰であれ攻撃してはならない。
c.自分自身、所属部隊、友軍、君の指揮下に置かれた者や資産を守る正当防衛の場合を除き、下に示す例外を照準したり攻撃してはならない。
・民間人
・病院、モスク、教会、聖堂、学校、博物館、国家記念物やその他のいかなる歴史的文化的な場所
d.敵対的な勢力が敵対的な目的のために使っておらず、君の正当防衛のために必要でない限り、人混みや建物の中に発砲してはならない。
e.コラテラル・ダメージは最小限度にせよ。
2.致死性の暴力を含め、君は君に対して敵対的な行為を行ったり行おうとしている者から君自身を守るために暴力を用いることが許される。君は以下を防衛 するのに同等のレベルの暴力を使うことが許される。
・所属部隊、その他の友軍(イラク警察と保安部隊を含む)
・敵捕虜と抑留者
・殺人や強姦のような致死の可能性があるとか重大な身体的危害を引き起こすような犯罪者に直面した市民
・指定された組織あるいは資産。赤十字社・赤新月社の要員、国連と合衆国や国連が支援する組織
発砲する前に警告せよ
時間が許すなら、大きく明瞭な声で警告を与えてもよい。
キィーフ・アーミック(止まらないと撃つぞ)
アーミィ セ・ラ・ハク(武器を捨てろ)
3.もし彼らが君の任務の完遂を妨げたり、重要な情報を持っていたり、正当防衛のために必要なら、民間人を拘留してもよい。
・敬意と威厳をもってすべての人々と彼らの資産を扱え。
・イラクの保安部隊と警察は武器を携帯する権限を与えられている。
4.致死性の暴力を含め、以下のものを含む資産の種類を守るために必要性のある暴力が認められている。
・公共施設
・病院と公衆衛生施設
・送電及び石油関連施設
・連合軍と捕獲した敵の武器と弾薬
・金融機関
・指揮官が指定した他の任務に必要な資産
忘れるな
・敵対的な勢力と軍事目標だけを攻撃せよ。
・同士討ちを避けよ-近くにいる部隊やイラク警察と保安部隊に注意を払え。
・可能なら民間人と彼らの資産を守れ。
・略奪や盗みをはたらくな。
・威厳と名誉をもって行動せよ。
・戦争の法律を遵守せよ。違反行為を見つけたら報告せよ。
・君は常に君自身や他人を守るために、致死性の暴力を含めて必要性のある暴力を行使する権利を有している。
この交戦規定は君の指揮官が別の交戦規定へ変更を命じるまで有効である。
これに近い時期の交戦規定の原文で、かなり似たもののpdfファイルがあります。1ページ目の下段中央の「CLFCC ROE CARD」の部分です。(pdfファイルはこちら)
交戦規定が秘密になったら、日本国民は派遣部隊がなにをするかについて、まったく安心できない状態になるでしょう。派遣部隊が謀略を仕掛けて、わざと敵と交戦をはじめても、国民は理由を知ることが許されないのです。
また、交戦規定に違反した隊員がいて、自衛隊がそれを隠蔽しても、国民は知ることができません。
交戦規定の問題で隊員が死傷しても、隊員の家族は抗議するための手がかりすら手に入りません。
幹部が交戦規定に違反した命令を出し、隊員が国際法違反を理由に拒否した場合、自衛隊がその隊員を命令違反で処罰しても、誰もおかしいと思わないでしょう。
なにより、交戦規定が秘密なのだから、派遣部隊の隊員はやりたい放題。士気は乱れ、ならず者の集団になる可能性すらあります。
事実、外国では交戦規定を公開しています。報道記事の中にも、交戦規定の中身に関する記述は珍しくありません。
たとえば、2003年4月1日、米中央軍のブルックス作戦副部長が「民間人の服装をしていても、武器を持っていることが確認できたら攻撃せよ」という交戦規定が「携帯電話を持っている場合でも攻撃せよ」に変更されたと述べたことは記事になっています。
イラク人が米軍の近くで携帯電話を使うと、しばらくして砲弾が落ちてくることがあり、米軍はイラク人が携帯電話でイラク軍に米軍の位置を教えていると判断したのです。私服姿の者は民間人と推定し、攻撃対象からはずしていたため、兵士に躊躇なく撃つよう指示したのです。
以下、実例をあげて、近年、交戦規定に関して、どんな問題が起きたかを説明し、交戦規定を
兵士が交戦規定に不満をもつ場合
交戦規定について、真っ先に聞くのが、兵士からの不満です。
特に、アフガニスタンでタリバン兵を攻撃しようとすると、女性や子供がタリバン兵が立てこもる建物の窓に立ち、米兵が攻撃をためらう事例が多発しました。あるいは、女装と子供がタリバン兵に弾薬を届ける場合もあり、民間人への攻撃が禁じられている米兵にはフラストレーションになったようです。
これについて、2009年に米軍は解決策を見出しました。アフガン駐留米軍指揮官になった特殊作戦軍指揮官のスタンリー・マクリスタル大将は、敵が攻撃していても、必要がない場合を除いて、住居を攻撃するなと命じたのです。住民を味方にするには、危害を加えないことが第一という対武装勢力戦略の基本に立ち戻ったのです。(過去の記事はこちら)
交戦規定違反で責任者が辞職する
2009年9月、NATO軍がアフガニスタンで、民間人142人を誤爆し、死亡させた事件に関して、国防副大臣ピーター・ウィッチャートと参謀総長ヴォルフガング・シュナイダーハン大将が引責辞任する事件が起きました。
当初、空爆は適正に行われたとされましたが、最終的に現地指揮官ゲオルグ・クレイン大佐が空爆を命じたとき、トラックの周りに民間人がいる可能性を排除できていなかったと判断されたのです。シュナイダーハン大将は辞任する必要はなかったのですが、本人が希望しました。(過去の記事はこちら)
こういう事件も、交戦規定が公表されていなければ、国民は何があったかすら分からないでしよう。
兵士の家族が交戦規定に不満を抱く
2009年、居住者がいる可能性がある住宅の500メートル以内に砲爆撃を行わないと交戦規定が変わりました。
米陸軍のケビン・ビーム軍曹は小火器とロケット砲による攻撃を受けました。兵士たちが負傷し、衛生兵は彼らに接近できませんでした。軍曹は砲撃を要請しましたが、新しい交戦規定により却下されました。戦いの後で、話を聞いた彼の父親で元海曹長のクリス・ビームは、ランディ・フォーブス下院議員、マーク・ワーナー上院議員、ジム・ウェッブ上院議員に電子メールを送り、「私は政治家が立てた非常識な政策のために、我が子が死体袋に入って家に戻ってくるのを望みません」と伝えました。
こちらが攻撃を受けた場合は攻撃を止めて、退却すればすみますが、待ち伏せされたなどの場合、近くに人家があるという理由で砲爆撃が却下されると、現地部隊は苦戦します。しかし、単に現場が遠く、航空機が到着するのに時間がかかった場合でも、交戦規定が原因だといわれる場合もあり、原因は客観的に分析される必要があります。
しかし、元海曹長であっても、交戦規定について基本的なことを知らないのには驚かされます。交戦規定はワシントンでは作りません。担当する軍隊が現場の意見を取り入れつつ作成します。イラク、アフガン戦では中央軍司令部です。マクリスタル大将が作成し、司令部が承認する形をとったはずです。(過去の記事はこちら)
家族からの要請で議員が軍へ交戦規定の改正を求める
マクリスタル大将の方針が実施された翌年の2010年、海兵隊基地を選挙区に持つ共和党のウォルター・ジョーンズ下院議員は、新しい交戦規定が頻繁に米兵の命を奪っていると主張しました。
彼は、戦闘で死んだ現役の海兵隊員とその家族が一定の間隔でこの問題について接触してくると言って、下院軍事委員会に審理を要求しました。
3月25日に、彼は下院軍事委員長のアイク・スケルトン下院議員に書簡を送り、「交戦規定が頻繁に命取りになっており、その上、我々の軍人を法的危険に置くことが分かったのを知ることは、自己防衛の権利における我々の基本的な信条に反抗します」「また、亡くなった軍人の家族に、我々の政府の関心が外国の国民の心をつかむことで、彼らの息子が自分自身を守ったり、彼が頼りにする航空支援すら妨げると説明するのは法外に難しいのです」と、公聴会を開くように求めました。(過去の記事はこちら)
審理が行われたかは確認していませんが、交戦規定の内容について、議会も無関心ではいられないことを示す話です。
もし、交戦規定が機密なら、日本の国会議員は派遣部隊の隊員から意見を出されても、「それは機密ですからあなたとお話できませんし、議会で取り上げる訳にもいきません」と、門前払いにすることになります。これが民主国家の姿でしょうか。
以上のように、交戦規定は秘密ではなく、深刻な問題を含んでいるが故に広く議論されるべきものです。それを利敵行為を理由に公開を拒否する佐藤議員の主張は、民主的な議会にふさわしいものではありません。フェイスブックには彼の支持者が、志位委員長はけしからんという発言が次々と書き込まれていますが、彼らはそういう物言えぬ社会を望んでいるのでしょうか。
|