日本政府は中国防空識別圏を3年前から認識
毎日新聞によれば、中国人民解放軍の幹部が、2010年5月に北京で開かれた日本政府関係者が出席した非公式会合で、中国側がすでに設定していた当時非公表だった防空識別圏の存在を説明していたことが31日、明らかになりました。
非公式会合は10年5月14、15の両日、北京市内の中国国際戦略研究基金会で行われました。発言録によると、中国海軍のシンクタンク・海軍軍事学術研究所に所属する准将(当時)が、中国側の防空圏の存在を明らかにしたうえで、その範囲について「中国が主張するEEZ(排他的経済水域)と大陸棚の端だ」と具体的に説明し、尖閣上空も含むとの認識を示しました。
また、この准将は「日中の防空識別区(圏)が重なり合うのは約100カイリ(約185キロ)くらいあるだろうか」と述べるとともに、航空自衛隊と中国空軍の航空機による不測の事態に備えたルール作りを提案しました。
人民解放軍の最高学術機関である軍事科学院所属の別の准将(当時)も「中国と日本で重なる東海(東シナ海)の防空識別区(圏)をどう解決するかだ」と述べたうえで、同様の提案をしていました。
中国の防空圏に尖閣諸島が含まれていれば、「尖閣に領土問題は存在しない」という日本政府の公式的な立場を崩しかねません。このため、日本側出席者の防衛省職員が「中国は国際的に(防空圏を)公表していないので、どこが重複しているのかわからない。コメントできない」と突っぱねました。
中国政府はこの会合の1年前の09年5月、沿岸から200カイリ(約370キロ)を超える海域に大陸棚の拡張を求める暫定申請を国連の大陸棚限界委員会に提出。12年12月に正式申請しました。これらの申請地点と、昨年11月に発表した防空識別圏はほぼ重なり合います。
日本政府は、一連の中国側の動きを踏まえ、防衛省・自衛隊が警戒・監視活動を実施。中国側が昨年初めから、対日安全保障政策の立案を担う国防大学や軍事科学院を中心に、防空圏公表に向けた調整を本格化させたことも把握していました。
非公式会合は「日中安全保障問題研究会議」と呼ばれ、日本側からは石原信雄元官房副長官を団長に、荒井聡首相補佐官(当時)や複数の事務次官OBが出席。現職の外務・防衛両省の職員も「オブザーバー」の立場で、議論に加わっていました。中国側は王英凡元外務次官を団長に、国防大学や軍事科学院などの幹部が出席しました。
記事は一部を紹介しました。
民主党政権下で、すでに今回の防空識別圏は分かっていたという話です。国民には何も知らされないまま、今回の騒動に発展したわけです。特定秘密保護法の下では、こんな情報も特定秘密になり、報道されることすらなくなるのかも知れません。
さらに重要なのは、軍事科学院所属の別の准将が「航空自衛隊と中国空軍の航空機による不測の事態に備えたルール作りを提案」という部分が目を惹きます。この発言は、先日紹介した中国国防部広報官の「我々は防空識別圏が重なる空域では、両国がコミュニケーションを強化し、互いに飛行を安全にすると考えます。(過去の記事はこちら)」「防空識別圏は安全地帯であり、リスク圏ではない。協力圏であり、対立圏ではない。(過去の記事はこちら)」という発言に共通します。広報官が批判をかわすために方便を述べたのではなく、防空識別圏は共存できるという中国の考え方が以前からあったことを裏づけられた形です。
逆に言えば、日本政府はこれらの事実を知りながら、中国が防空識別圏を設定した時に、偶発的な事態を懸念するとの見解を発表したことになります。この態度は、北方領土における我が国の主張と共通します。
2006年にこの地域で起きた吉進丸事件でも、日本はロシアによる北方領土の領有は認めないという原則から、日本漁船が境界線を越えて操業したことを無視し、ロシア警備艇による発砲だけを批判しました。この時、私は日本政府の主張は不当だと批判しました(過去の記事はこちら) 。
防空識別圏については、与那国島の3分の1の空域が台湾側の防空識別圏になっていたところ、2010年に日本が防空識別圏を宣言し、台湾から事前の説明がないと批判を受けたことがあります。
これでは、中国国防部広報官が言うとおり「日本側は常に他者を非難し、他国の評判を落とそうとしますが、彼ら自身の行動は決して批評しません」のであり、公正な立場に立てば、日本国民としては大変残念なことに、中国の言い分はもっともだと言う他なくなります。 また、日本外務省の悪い癖が出たというところです。原則を言い過ぎて、現実の安全を無視するのが日本外務省の欠点です。この硬直化した外交方針を政治家も批判せず、マスコミは尾ひれをつけて国民に流布し、真に受けた国民が外国嫌いになり、世論が右傾化するというパターンが近年繰り返されてきました。
中国が宣言した防空識別圏は、当初の印象よりも遙かに安全だと考えてよさそうです。現に、中国の福建省を1日に熱気球で出発した中国人男性が、尖閣諸島の南22キロ沖の海上で、海上保安庁のヘリコプターに救助された事件では、中国は何の抗議もしませんでした。この男性が「飛行計画」を中国に提出したのかとか、中国軍はこの気球を「識別」したのかという突っ込みは止めておきますが、海上保安庁が尖閣諸島付近で活動しても、中国は何も言わないことが図らずも確認された形です。
今後も防空識別圏については、慎重に中国の出方を分析する必要があるものの、相手の立場になって外交を考えてみるという習慣を持たないと、冷戦時のアメリカとソ連のように、無益な犠牲を出し続けることになると考えなければなりません。
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