部隊内の暴力に甘い処分の自衛隊
朝日新聞デジタルによれば、陸上自衛隊第4特科連隊(福岡県久留米市)で連隊長を務めた男性1等陸佐が、連隊長だった2年前に訓練中に隊員を組み伏せて負傷させたとして、処分を受けていたことがわかった。防衛省陸上幕僚監部によると、1等陸佐は「訓戒」以下の処分を受けた。陸自は、懲戒処分ではないことなどを理由に処分内容の詳細を公表していない。
陸幕などによると、1等陸佐は2014年8月、十文字原(じゅうもんじばる)演習場(大分県別府市)であった訓練の際、敵襲などを警戒する役目をしていた隊員(当時1等陸士)が確認を怠ったため、組み伏せて打撲などの軽傷を負わせたという。
同年9月、上級部隊の第4師団(福岡市)による年次の意識監察(意見調査)で隊員から情報が寄せられて判明した。陸幕広報室は「訓練中の隊員の不適切な対応を矯正するための指導だった。訓練指導の一環としては問題ないが、結果として隊員が負傷したことについては問題があった」と説明している。
まったく恥ずかしい事件。
米軍ではおよそ耳することがない珍事と言ってよいでしょう。1等陸佐は米軍なら大佐。当時1等陸士は上等兵に相当します。大佐が上等兵を叱責するために組み伏せたなんて話は聞いたことがありません。
第2次世界大戦中、米陸軍のジョージ・S・パットン大将が負傷兵の見舞いのために病院を訪問した時、PTSDで怪我をしていないのに震えていた兵士を見つけ、手に持っていた手袋で頬を叩いた事件がありました。マスコミがパットン大将を批判した上、病院にいた兵士からも批判の声が出たため、彼は公式に謝罪を行いました。
このように、米軍では将校は兵を叩かないものなのです。
もっとも、そうではない軍隊は世界中にあります。中東では上官が部下に装備品を売りつけて儲けていますし、ロシアの特殊部隊は劇画『北斗の拳』みたいな、強い者だけが生き残る世界と聞きます。
しかし、我が自衛隊がこういう状況でよいのでしょうか。
この種の話は、兵隊同士の間のいじめとして起きることは、当サイトで過去に様々な事例を取り上げてきました。幹部(将校)によるいじめは、むしろ聞くことが珍しいのです。確かに米軍でも、いじめが自殺を引き起こしたこともありますが、米軍は軍法によって当事者を裁きました。
2011年にダニー・チェン二等兵(Pvt. Danny Chen)がアフガニスタンの基地で自殺した事件では、人種差別による虐待を行った件で、中尉、軍曹、技術兵らが軍事法廷に起訴されました(記事はこちら 1・2・3)。
米軍は隊内のいじめを許しません。その時に必ず聞かれるのは「我々の価値観に反する行為」という言葉です。
これを遵守するために、米軍では上官は部下に、救護が必要な場合を除いては触ることが許されません。海軍の赤道祭では、はじめて赤道を通る隊員に手荒いお祝いをする伝統がありましたが、最近は「過度な接触は禁止」とされています。
米軍がこうも規律に厳しいのは、戦地に派遣された時にも規律を維持するためです。普段から、上官の暴力が横行しているようでは、戦地での敵兵や民間人の扱いでどんな問題を起こすとも分かりません。実際、そうした戦地での敵兵、民間人に対する事件も多発しており、不法行為が発覚した隊員はすべて軍法によって処分されています。
友軍の米軍と違い、第三世界の軍隊みたいな真似をして、この幹部は恥ずかしくないのでしょうか。友軍である米軍には、一体どう説明するつもりなのでしょうか。
自衛隊は国連部隊としても活動し、世界各地で人道支援を行う立場にあります。現地で暴力事件を目撃した場合はしかるべき対処しなければならない立場にあります。正義の側に立つべきなのに、いじめる側に回ってどうするのでしょうか。
さらに、この幹部は指揮系統を混乱させています。1等陸士には直接指導すべき上官が多数いるのに、それを飛び越えて行動しています。これは指揮系統を乱す行為であり、幹部ならやってはいけないことです。1等陸士の行動が気になるのなら、直上の上官に指示するよう手配すべきです。
自衛隊の公報が劣悪なのはいつものことです。先に挙げた記事のように、米軍なら、この種の情報はもっと公開します。
「訓練中の隊員の不適切な対応を矯正するための指導だった。訓練指導の一環としては問題ないが、結果として隊員が負傷したことについては問題があった」
訓練指導の一環として問題がないとし、結果として隊員が怪我をしたことだけを指摘する発表は、まったく受け入れがたく、日本人として恥ずかしく思うばかりです。
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