戦術の変化でAK-74小銃が不要に?

2011.11.7


 たまたまYahoo!ニュースで見かけて、サンケイスポーツの梶川浩伸氏が書いた「【軍事のツボ】カラシニコフ調達打ち切りが意味するもの」という記事を読みました。正直なところ意味不明の記事でした。

 国内記事は大抵の場合が2週間程度で記事が読めなくなるため、リンクは張っていません。しかし、全文を読みたい方のためにリンクを掲載します(リンクはこちら)。

 記事はロシア軍がカラシニコフ小銃「AK-74M」の調達を打ち切ったことから、その背景を探ろうとするコンセプトです。その内容をざっと要約します。

AK-74Mの原形となったAK-47は構造がシンプルで、各パーツ間のクリアランスが大きくて、砂や泥が入っても故障しにくい利点がありますが、これは命中精度の低下の原因でもありました。しかし、アサルトライフルは多数の弾をばらまくことに重点が置かれており、「だれでも、いつでも、そこそこの性能を引き出せる」メリットは大きいものでした。この戦術思想は第2次大戦でおこり、特に米軍が「M1ガーランド」で実現しました。このため、AK-47は世界で数億丁が出回るとされるほど普及しました。AK-47は口径5.45mmのAK-74へ発展しました。NATO軍や自衛隊が装備する口径5.56mmの弾はイラク戦争やアフガン戦争で射程が足りないという問題を抱えるようになりました。これらの有効射程は約500mです。実際には200〜400mで撃ち合うことが多いのですが、アフガンで谷を挟んで撃ち合うと1km近く離れることも多く、射程が短く、威力が足りないという問題が米軍などから起こりました。大規模な戦争から小規模な歩兵グループによる戦闘が増え、狙撃銃が注目を浴びるようになっています。ロシア軍がAK-74の新規調達を止めた理由はこうした戦術面の変化が影響しています。

 この記事は軍用銃の歴史を無視し、理論的にも矛盾を抱えているとしか思えません。

 AK-47はドイツ軍が開発した世界で最初のアサルトライフル「StG44」を模倣して作られた銃です。そして、アサルトライフルは「だれでも、いつでも、そこそこの性能を引き出せる」という銃ではありません。第2次大戦時、歩兵が携帯できる小型の連発銃はサブマシンガンという、拳銃弾を用いた機関銃でした。これこそ当たらないことで有名な銃でした。一方で、主流だったボルトアクション式のライフル銃はよく当たる一方で、連射が出来ない、大きすぎるという問題を抱えていました。そこで、サブマシンガンとボルトアクション式ライフル銃の長所を兼ね備えた銃を模索したのがStG44でした。これがアサルトライフル誕生に関する銃砲史の一般的解釈です。

 アサルトライフルは連射が出来る一方で、、サブマシンガンよりも威力があり、命中率が高く、射程も長いのです。弾をばらまくだけが目的ではないのは、単発モード(セミオート)が用意されていることでも分かります。一発狙い撃ちをしたい時はセミオート・モードに切り替えます。このモードでは一度引き金を引くと、弾が一発発射されます。M1ガーランドはセミオートだけの銃で、これを連発モード(フルオート)のアサルトライフルと同一視するのは誤りです。M1ガーランドは4発2列でクリップに装填された弾を銃の上から装填する機構です。8発を撃ち終わるとクリップが自動的に排出され、次のクリップを装填できます。これに比べるとアサルトライフルの弾倉は20発とか30発の箱形弾倉(マガジン)です。クリップ式は8発を撃ち終わらないとクリップが交換できませんが、マガジン式は任意の時点で新しいマガジンに交換できるという決定的な違いがあります。

 それに、第2次大戦は未だにボルトアクション式とセミオート式が主流の時代で、歩兵全体がアサルトライフルを持つようになるのは戦後の話です。梶川氏が言うような状況にはありませんでした。

 戦術的な要請がアサルトライフルから狙撃銃に重要性をシフトしたという見解も的外れです。第一、1kmも離れた目標はアサルトライフルでは撃ちません。これは大口径の狙撃銃と弾道計算コンピュータのセットで対処すべき距離です。この距離で狙撃を行うには、狙撃手の隣に観測員がいて、彼が弾道計算コンピュータで敵までの距離や標高差、風向きを入力して、遠距離用望遠照準器の修正値を狙撃手に伝えます。狙撃手はそれに従って照準器のダイヤルを動かして、狙点を調整して発砲します。かつては照準器は射撃場で調整した後は触らないものでしたが、最新型の照準器はそれが可能になっているのです。数百mの射程では必要ないことですが、1kmの遠距離射撃では必要なことです。こうした銃をすべての歩兵が持ち歩くことは非現実的で、日常的にタリバンと米軍が1kmの射程で銃撃戦をしているとは思えません。

 銃の威力が米軍で議題となったという話も実態と異なります。M4の威力不足は有効射程内で起きたことだからです。有効射程内で敵に弾が命中しても敵が倒れないという問題で、批判を浴びた米軍は弾を新しい型に変更して対処しました。これは過去に当サイトで何度も取り上げてきたことです。(関連記事

 戦術の変化についても、認識が正しいとは思えません。むしろ、短射程の市街戦が増えたこともあり、海兵隊が一部の部隊で、分隊支援火器をより射程が短く、装填数の少ないM27へ変更したりしているくらいです。(関連記事

 また、この主張が正しいとするなら、1km先を撃てるアサルトライフルへの置換は米軍でも起きるはずですが、そのような話はまだ聞いたことがありません。梶川氏の記事は、軍事知識を衒学的に用いただけで、理論的とは言えません。

 私には、AK-74調達中止の結果がもたらすのは、第三世界への在庫一掃セール、大量の銃の叩き売りだと考えます。それによって、アフリカなどで誘拐された男の子が兵士に仕立てられる「こども兵」がさらに増える危険こそ考えるべきです。



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