「The Sentry」報告書 総括部分(1)
「The Sentry」報告書の総括部分の日本語訳の第1回目です。今回紹介するのは「この戦争の源泉」と「南スーダンの暴力的泥棒政治への対抗策」の「1.狙いを絞った制裁」で、47~51ページです。(報告書の原文はこちら)
この戦争の源泉
2016年8月初旬、和平への国の短期での復帰を終わらせた、ジュバで再開した戦闘の後、南スーダンのサルバ・キール・マヤディット大統領(President Salva Kiir Mayardit)は、ケニヤの報道記者とのインタビューの間に「現在の戦争の源泉は何ですか」と、大げさに尋ねました。「この戦争の源泉は、私が大臣たちに彼らが手に入れたものを返せとたしなめ、私が彼らが金を隠している銀行へ行って探し、私がこれらに対する処置を行おうとしたということなのです」。
「これらの大臣の一部は、アパートを買い、とても美しい家、別荘を買っていました」とキール大統領は言いました。「彼らはそれをケニヤに隠し、明らかにすることを拒否します」。
キール大統領は、政敵の家と隠し資産にのみ言及していました。そして、ある意味ではキール大統領は正しいのです。SPLA-IOのメンバーは、特に、南スーダン国外の多くの場所に美しい家を持っており、多くの資産は隣国ケニヤにあります。調査員は、レイク・マシャル副大統領(Vice President Riek Machar)の家族が海外で豪華な生活を楽しみ、時々、エチオピアのアジスアベバの大きな家で、ケニヤのナイロビの豪華なゲーテッド・コミュニティの美しい別荘に住んでいることを発見しました。
訳註 ゲーテッド・コミュニティは塀で囲まれた、警備員付きの高級住宅街のこと
しかし、キール大統領はラビングトンの彼自身の家に言及することを怠りました。彼は国の残りの部分がひどい経済危機に直面するときに、ルリに建設された広大な地所に言及しませんでした。彼は妻で、ファーストレディのマリー・エーヤン(Mary Ayen)が相当な利益を得ているようにみえる通信・建設会社について語ることを一切省略しました。彼の声明は、彼の思春期の息子が2016年2月に法人化された持ち株会社の株式25%を保有したこと、そして、他の人が油と銀行業務からギャンブルから航空まで広範囲にわたる経済分野で営業捨ている会社の株を持つ一方で、彼の他の子供たちが重大で重要な南スーダンの銀行株を持ち、その他の者は石油から銀行、ギャンブルと航空の広範な経済分野で営業する会社の株式を持つことも示す書類を曲解しました。キール大統領は最も親しい同盟者、ポール・マロン大将(Gen. Paul Malong)がウガンダとケニヤに邸宅と彼らに同行する多数の高級車を持つことに触れませんでした。キール大統領の声明は、軍隊のために兵器を購入する責任を負う当局者、マレク・ルベン・リアク少将(Gen. Malek Reuben Riak)の個人銀行口座を通過したようにみえる300万ドルについて言葉を含めませんでした。
2016年8月のキール大統領の声明にないものは、南スーダンで国を乗っ取ったネットワークが国を破滅的な内戦へ放り込んだことを大半は彼の政治的同盟者が組み立てたという事実であり、彼が中心人物であるという事実への言及すべてでした。
南スーダンで政権を握っている排他的集団による富の急速な蓄積は、それが国に対して破壊的だったのと同じくらい大胆で、図太いものでした。これらの泥棒政治家たちは、誰も近くで見ていないかのようにビジネスを行い、彼らの行為が発見されても措置がとられないため重要ではありません。南スーダンでの大量の残虐行為に責任がある高官たちは、なんとかして財産を蓄積できましたが、国残りの部分はその結果に苦しみ、基金同様の状態を経験しました。セントリーの調査は、この報告書で概説された当局者たちが、継続する戦争と、その中で行われた残虐行為から利益を得て、これまでに彼らの行動に対する説明責任が行われていないことを強く示唆します。
セントリーが入手した情報はさらに、南スーダンの大量の残虐行為と人権侵害に責任がある高官の多くは、キール大統領の取り巻きグループにいるその他の者たちが蓄えてきた富を知っていることを示します。この報告書で論じた書類は、たとえば、キール大統領とマロン大将の成人の子供たちが同じ石油会社「Nile Link Petroleum」の株式を保有することを示します。セントリーが接触した時、マロン大将の継子は、彼は「望んだ特権をなんでも得られた」、そしてマロン大将とキール大統領が彼の鉱山ベンチャーに関与したと主張しました。マロン大将とガブリエル・ジョク・リアク将軍(Gen. Gabriel Jok Riak)(国連の制裁下にある)はウガンダで互いに隣り合う豪華な家まで持っています。
この報告書で概説された政治家と軍高官は南スーダンの富の横領における唯一の共謀者ではありません。これらトップの当局者たちは、意識的にまた無意識的に手助けする、国際的な銀行、ビジネスマン、企業、武器ブローカー、弁護士の助けなしには盗めなかったのです。しかし、武器ディーラーは重要ではあるものの、問題の小さな部分です。キール大統領の12歳の息子が2016年前半の時点で、株式25%を持つ会社、「Combined Holding Limited」を設立するための書類仕事は、企業弁護士の手とジュバの企業株式登録機関を通過しなければなりませんでした。マレク・ルベン・リアク中将(Gen. Malek Reuben Riak)とガブリエル・ジョク・リアク将軍の口座を通過した多国籍の石油・建設会社からの数十万ドルの支払いは、深刻な疑問を生じさせます。知ってか知らずか、南スーダンで略奪と殺人に責任がある者たちに支払いをした企業は、暴力的な泥棒政治を容易にする上で不可欠の役割を果たしています。これらの銀行は、意識的又は無意識的に、世界で最も貧しい人々の一部にために使える大金を流用するために、政府当局者のはっきりとみえる能力を促進しています。
暴力と大量の残虐行為は、犯人たちが報いを受けないこと、国際的な銀行と多国籍企業、外国政府までもが暴力的な泥棒政治を促進し続けることの両方により、南スーダンに根強く残ります。
南スーダンの暴力的泥棒政治への対抗策
セントリーは、これらの虐待に責任がある者たちと、世界がこうした行為に報いを受けさせないために、これまではほぼ無傷で活動できている個人に責任をとらせるために、通常は対テロリズム、組織犯罪、核拡散に用意される経済的な圧力を、残虐行為に対向するための新戦略に提案します。
南スーダンを乗っ取ったネットワークによって不正に蓄積された富へ狙いを絞ることで、国際社会は和平、人権、健全な統治のために影響力を築けます。この新しいアプローチは狙いを絞った制裁の使用、選択的な起訴、マネーロンダリング対策はもちろん、汚職と戦うための持続的な関与、説明責任の強化、制度面の能力構築、市民社会と報道記者のための場所の保護、南スーダンの透明性の促進を必要とします。
1.狙いを絞った制裁
要するに、制裁を科された大勢の中堅当局者の狙いを絞った段階的、漸進的なアプローチは、残虐行為と汚職の本当の説明責任をまったく提供しないし、人権と和平を求める政策担当者と交渉者へ影響力も提供しません。本当の影響のためには、戦争継続に責任がある泥棒政治家ネットワーク全体が狙いを絞った制裁の焦点となる必要があります。その後、これらの狙いを絞った制裁は実施されなければならず、制裁は資産回復は経済的影響力を最大にするために、マネーロンダリング・資産回復防止に焦点を置いたその他の政治的なツールが伴う必要があります。
残虐行為、人権侵害、蔓延する略奪に最も責任がある南スーダンの個人とネットワークに狙いを絞った制裁は、南スーダン内戦に責任がある高官を様変わりさせられる経済的影響力を作る最も有効な手段の一つを意味します。
一、二カ国よりも、最も明確なメッセージを送り、実行する義務をメンバー国すべてに適用することから、理想的には国連安保理が、これら暴力的な泥棒政治家への狙いを絞った制裁を制定する機関でなければなりません。しかし、安保理の一部メンバーは、これら当局者に責任をとらせるために国連が制裁を用いようとするのを妨害する合図を繰り返し送りました。この問題に対して国連が行動する可能性が低いことを考えると、アメリカはアフリカ連合、欧州連合だけでなく同盟国を構築し、継続する残虐行為、広範な暴力、甚大な汚職に責任がある両側の主要な高官に対する狙いを絞った制裁を共同で科すべきです。
アメリカ合衆国は先導する準備ができていなければなりません。ホワイトハウスは、国家の財源を略奪し、市民社会と歩道記者を妨害することに責任があると判明したこれらの個人に対する制裁を科すために新しい大統領命令を出さなければなりません。米財務省は、この報告書に概説した指揮権を持つ南スーダン高官を含む影響力の高い目標へ、彼らの国際的な支援者、促進者と共に調査の注意を向けることができます。莫大な汚職と継続する暴力から利益を受けたと最終的に判明した南スーダン内外のこれらの個人は、責任を逃れるべきではなく、それ故に制裁のパッケージの焦点となるべきです。
以下は南スーダンにおける効果的な狙いを絞った制裁の主要要素です。
オバマ大統領は汚職に焦点を絞った大統領命令を出さなければなりません。2014年4月、ホワイトハウスは南スーダンで特定の虐待の犯人に対する制裁を承認する大統領命令第13664号を出しました。新しい大統領命令は、行政組織に周知の汚職に関与したり、市民社会とメディアの抑制を通じて、言論の自由や民主主義を弾圧した南スーダン高官に対する制裁を科すことを許す可能性を含めた、より堅固な指定条件を含めるべきです。2016年4月19日に出されたリビアに関する大統領命令は「国家資産の横領を導いたか、結果をもたらした行動を行った」者たちへの制裁を狙います。さらに、大統領命令第13664号は南スーダンで「民主主義のプロセスを弱体化させた」者たちを狙ったとはいえ、明確に市民社会やメディアを狙うことに対処しておらず、それは南スーダンに存在する周知の汚職と泥棒政治の類に対する進行中の戦いに致命的です。(ベネズエラに関する)大統領命令第13692号もまた、この基準のために役に立つ言葉を含みます。
制裁は南スーダンで影響の大きい目標に集中しなければなりません。米政府と国連安保理はすでに南スーダン紛争の両者から一連の中堅指揮官に制裁を科しました。より高レベルの目標の意味のある精査で、これらの行動を追求しなかったことは、これらの行動がとりえたあらゆるメッセージを弱め、南スーダンで国際社会は人目をひく結果に関して真剣ではないという認識に終わりました。この報告書で概説されたガブリエル・ジョク・リアク将軍を含め、これらの制裁を科された個人が、国連が強制した旅行禁止と銀行口座の維持にも関わらず、明らかに地域内を旅行し続けられたという事実を受け止めるだけです。この報告書の詳細のとおり、この制裁へのアプローチは、より影響のある目標が指定され、制裁が実際に不正行為に関与したと分かった者たちに対して精力的に実施されない限りは、関与した個人や彼らのネットワークを変えないでしょう。広範なネットワークのリンクとして用いられた個人または全体を指定することは、しばしば指定の「アンカー」と呼ばれます。それはその他の者をその周辺に存在させるようにします。こうした目標は「名指しして辱める」域を超えて変化し、狙いを絞った制裁を広範な違法のネットワークの中心へつながる本当の経済的影響を伴う方向へ向けます。この報告書は潜在的なアンカー・ターゲットのいくつかの事例、特に南スーダン当局者と彼らのネットワークによって支配される主要な企業体、を提供します。
汚職と大量の残虐行為の促進者と支援者は制裁指定の最優先目標でなければなりません。この報告書で詳述される政府当局者の行為は、実際問題として、知ってか知らずか、広範囲にわたる弁護士、ブローカー、銀行家、外国企業によって促進されています。アンカーターゲットに集中することは、経済的影響を実証できるだけでなく、金融取引を通じて制裁を受けた個人へつながる者たちが、彼らも危険にさらされていると認識する時間を作るための影響力も可能にします。大統領命令第13664号は、大半の制裁命令と同じく、経済的支援や援助を提供する個人や全体を制裁する可能性を含みます。それはほんの少数の高価値あるいは重要な取引を、すでに指定された人物か、すでに指定された人物が所有するか支配する企業とみなし得るものです。従って、一度、主要な目標が制裁を受ければ、目標の経済支援ネットワーク全体は弱体化します。これは麻薬密売と組織犯罪を戦う制裁において重要なアプローチでした。
制裁の指定は汚職の最終的な受益者も対象としなければなりません。それは主犯を狙う能力を持つことが重要ですが、紛争を引き起こす汚職から最終的な利益を得る者たちを制裁する手段もなければなりません。現在の基準はそうしません。紛争を煽るネットワークを可能にしている南スーダンで周知の汚職の性質と範囲を考えると、追加の制裁基準は修正された大統領命令を通じて導入されなければなりません。これらの基準は、周知の汚職や国有資産の横領を行い、市民社会とメディアの平和的な集会や活動を脅かすのを容易にする活動から直接利益を得たり、関与を促進したり、行った者たちに狙いを絞ること、実際には「指定」と呼ばれることが多いこと、を可能にしなければなりません。
米財務省は南スーダンでの虐待の犯人に科された制裁を積極的に実施されることを確実にしなければなりません。アメリカ国外に資産がある個人に対する制裁とは、制裁を実施するためにできることは何もないことだという懸念がしばしばあります。南スーダンでは、これはまったく事実ではありません。たとえば、この報告書で文書化された商取引の大多数は米ドル建てです。これは、大半の場合で、アメリカがそれらを止める力があることを意味します。近年、米政府により主要な国際的銀行に対して課される大きなペナルティは、どのようにして再び積極的な制裁が実施されるかが、関与した銀行ルートと慎重に制裁を避ける方法が知られているかを示しました。これは、米ドル建てで銀行振込を完了させるために、一連の商取引は銀行の間で「コルレス銀行」として知られるシステムを通じて起こり、金はニューヨークを通って送られるらしいこと、たとえ一瞬であっても、意図された受取人の口座に辿り着く前にドル化されるからです。従って、目標の資産の大半がアメリカ国外にあっても、制裁指定は一般的に指定された人物がドル建てで商取引を行うのを防ぐゆえに重大な影響を持ち得て、彼らがアメリカの金融システムにアクセスするのを防ぎ、それは彼らができるビジネスの種類を大幅に制限します。彼らがドルで商取引を行おうとすれば、地元銀行がそれを止めなければならないか、取引を処理するアメリカのコルレス銀行がそれを止めなければなりません。これが起こらず、そして重要な顧客のデータが応答する銀行によって削除されるかアメリカの銀行がそれを逃すために目標が商取引を続けるなら、米財務省は制裁を科した目標のためにアメリカへ金を送る送金元や中継する銀行に対するペナルティを科せます。
これまでに訳した報告書の目次は以下のとおり。
概説
南スーダン内戦
キール大統領(1)
キール大統領(2)
キール大統領(3)
レイク・マシャル
ポール・マロン・アワン大将(1)
ポール・マロン・アワン大将(2)
マレク・ルベン・リアク中将
ここでは、まず国連安保理のメンバーの中に南スーダンへの制裁に反対する国がいて、国連としての制裁は困難であることが説明されています。反対しているのは第一にロシアですが、さほど南スーダンに利権を持たないロシアが反対するのは、単にアメリカの好きにさせるのが気に入らないとか、自国の存在を光らせたいという理由でしょう。それ故に、国連では実効性のある制裁は困難だということがポイントです。
泥棒政治家たちがドル建てで取引を行うことを利用して制裁を行うのは有効な方法です。そして、そのために、彼らがドルを使うのを止める場合のことも考えておく必要があるでしょう。
南スーダンの泥棒政治家にとって、円建ての取引は容易に利用できるものなのかは不明です。もし、円建てで彼らが取り引きをしようとするなら、日本政府がそれを止めるべきです。いつもならアメリカにゴマをすりたい外務省はそれを利用しようと思わないのでしょうか?。自衛隊に国連施設の整備みたいな重要度の低い任務をまかせることで満足しているのは理解できません。
次回はマネーロンダリング対策です。
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